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再び、御堂家 Ⅳ

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 翌朝、朝食にあの「卵」がついていた。
 子どもたちが大喜びし、菊子さんを微笑ませた。
 幾らでも食べて下さいと菊子さんが言ったが、俺は二個までと断った。
 
 「こいつら、鶏まで喰っちゃいますから」
 菊子さんが笑った。

 部屋の掃除と布団干しは、既に済ませていたようだ。
 食後に幾つかの部屋の掃除をさせてもらい、あとは勉強をさせてもらった。
 洋間のテーブルを借りた。
 柳と正利も、そこで一緒に勉強した。

 今晩はバーベキューということだったので、俺は御堂に頼んで食材の買い物に澪さんを乗せて出掛けた。

 「柳はいかがでしたか?」
 「子どもたちと仲良くしてくれましたし、何よりも俺の患者の女の子の世話を毎日してくれて」
 俺は響子の話をした。
 奇跡的に生き延び、しかし一生ベッドでほとんどを過ごすことも話した。

 「柳は響子の扱いをすぐに覚えてくれて。本当に助かりました」
 「そうでしたか」
 澪さんは、俺がやった響子の手術のことを知っていた。

 「主人が言っていました。あれは本当は成功するものではなかったのだと。でも石神さんは、医者の仕事を喪うのを分かっていて踏み切ったのだと。「あいつは本当にあいつだ」と言っていました」
 「そうですか」
 
 うふふふ。
 澪さんが突然笑った。

 「夕べね、柳から石神さんのお宅でのことを聞きましたの」
 「え?」
 「本当に楽しそうにね。いろいろ連れて行ってもらって。美味しいお寿司をご馳走になって。ああ、その後でウソのプロポーズをされたんだって」
 澪さんが楽しそうに笑った。

 「いや、あれはですね」
 「毎日一緒に石神さんとお風呂にも入ったんだって。本当は二人で入りたかったけど、恥ずかしかったから亜紀ちゃんが一緒で嬉しかったそうですよ」
 「そーですか」
 顔が赤くなる。

 「もちろん毎日断ったんですよ? でもあいつらが強引に」
 「アハハハハ」
 「うちはあんなに行動的な人間はいませんの。石神さんのお陰ですね」
 「そ、そんな」
 「よく主人の電話が鳴ると飛んでくるんです。石神さんの電話じゃないかって」
 「ああ、よく柳が電話の向こうで騒いでますね」
 「ええ。私あんまり詳しくないんですけど、あの、着信? 主人に頼んで、石神さんの着信は別な音色にして欲しいって頼んで。主人も笑ってそうしたみたいです」
 「それでよく柳がいるんですね」
 
 「大学に受かったら、石神さんのお宅に住まわせてもらうんだって言ってます。ご迷惑ですよね?」
 「いいえ。うちは部屋が余ってますし、柳なら大歓迎です」
 「でも」
 「食費とかなら、ご覧になったでしょ? 全然、何の問題もありません」
 二人で笑った。

 スーパーに着き、俺たちは大量の「肉」を買った。
 すべて支払いは俺が出させてもらった。

 「主人から石神さんは譲らないだろうって。でも申し訳ありませんわ」
 「いえ、こちらこそお恥ずかしい」
 買占めでもやっているのかと疑われる量だった。
 スーパーの購入担当はきっと頭を悩ませるだろう。

 お茶でも飲んで、という話になった。
 近くの喫茶店に入る。
 俺がクリームメロンソーダを注文すると、澪さんが少し笑った。

 「時々飲みたくなるんですよ。ああ、うちの双子が大好物なんです」
 「そうなんですか。じゃあ買っておかないと!」
 俺は遠慮したが、澪さんはスーパーに戻って、材料を買った。
 昼食の後で、わざわざ作ってくれ、双子が感激した。




 午後は河原に連れて行ってくれた。
 柳が溺れた川だ。
 柳が御堂に話したのだろう。
 正巳さんまで一緒に来た。
 俺のハマーに乗りたがった。
 御堂が二人の男性を一緒に連れてくる。
 釣りが上手い方たちだそうだ。
 正利は塾へ出掛けた。

 皇紀と双子が釣りに誘われ、亜紀ちゃんは柳に連れられて行った。
 正巳さんも釣りに加わる。
 俺は御堂と澪さんとで火を起こす準備をする。
 俺は薪になる枝を拾いに行った。
 腕ほどもある太さの木を手刀で切って行くと驚かれた。

 御堂と澪さんは魚を刺す枝をナイフで揃えていく。
 亜紀ちゃんと柳が戻って来た。

 「タカさん! 全部案内してもらいました!」
 「うるさい」
 「タカさん、すごいです! 柳さんをよく助けました!」
 「お前、バカ!」
 御堂と澪さんが気付いた。
 亜紀ちゃんが、すみませんと謝る。

 「石神、僕たちは忘れたことはないよ」
 御堂が笑って、そう言ってくれた。

 「いや、すまん。子どもに自慢するわけではなかったんだが、つい」
 「いえ、お父さん。私が話したの」
 「お前ら! 罰としてでっかい魚を釣って来い!」
 二人は釣りに行った。

 「8年経ったのね」
 「いや、もうその話は」
 「柳は女らしくなったでしょ?」
 「澪さん」
 「そろそろ恩返ししなくちゃね」
 「なに言ってるんですか」
 御堂が笑っていた。

 「タカさーん!」
 亜紀ちゃんが戻って来る。

 「どうした」
 「なんかみんな全然連れなくて」
 「がんばれ」
 「えー、助けて下さいよー」
 「俺だって釣りは素人だ」
 「だってタカさん動物にモテるじゃないですか」
 「あ?」
 「ほら、ゴールドに祈って! それで来て下さいよ」
 面白そうだ。
 俺はゴールドに魚が喰いたいと言った。
 御堂たちを連れて川に行った。
 
 来た。
 何も見えなかった川面に、魚が集まって来た。

 「なんだ、こりゃ」
 二人の男が驚いている。
 正巳さんも唖然としていた。
 子どもたちは大騒ぎでタモをつかって掬っていく。
 柳と亜紀ちゃんが抱き合って笑っていた。

 「石神さん、これって」
 「実は医者を辞めて漁師になりまして」
 澪さんに言うと、御堂が大笑いしていた。



 鱒が多かったが、ヤマメやアユなどもいた。
 澪さんと亜紀ちゃんが次々と魚のワタを抜いていく。
 アユはそのままだ。
 皇紀と双子はそれを穴を掘って埋めていく。

 「ゴールドの分も埋めてやってくれ」
 俺は鱒を一匹渡した。
 双子は石を積み、手を合わせた。
 魚を焼きながら、俺は御堂家の四人にゴールドの話をした。
 柳が泣いた。

 塩と醤油を塗っただけの魚は、非常に美味かった。
 俺はアユを串から抜き、手で千切って食べた。

 「あ! カッコイイ」
 柳が言う。

 「大将さんが言ってたのは、こういうことかぁ」
 「何言ってんだ、お前」
 柳は御堂に、沼津の寿司屋でのやり取りを話す。

 「うん、石神はいつもカッコイイよね」
 柳がニコニコした。
 俺は二人の釣り人にも魚を勧めた。

 「いえ、私ら何のお役にも立てなくって」
 「何言ってんですか。忙しい中、わざわざ来て下さったんでしょう」
 二人は礼を言い、食べてくれた。

 「お前ら! 今日のご飯はこれでおしまいだからな!」
 「「「「えぇー!」」」」
 「タカさん! イノシシ獲りましょう!」
 亜紀ちゃんが言う。

 「バカを言うな!」
 御堂が笑った。

 「本当に獲れそうだよね」
 「ルー、ハー! 今晩はバーベキューだそうだ。お礼に歌でも歌え!」
 俺の意図を察し、双子はノリノリで『日本印度化計画』を歌う。
 御堂を大爆笑させた。
 正巳さんまで笑って見ている。


 「カレーは明日だよ」
 御堂がそう言い、双子を狂喜させた。
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