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再び、虎と龍 XⅡ

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 「ざくろ」では、二人ですき焼きのランチを頼む。
 俺は特別に「500g」のものにしてもらっている。
 柳も同じにした。

 「亜紀ちゃんたちが「肉好き」なのは、石神さんの影響ですよね」
 柳が言った。

 「そんなことはねぇよ。俺とあいつらを一緒にするな」
 「でも、石神さんはお肉が好きでしょ?」
 「まあなぁ。でも、他にも食べてるぞ?」
 柳はすき焼きを一口食べて、また絶賛した。

 「ここも美味しいですねぇ!」
 俺は笑って見ている。

 「お前は何が一番好きなんだよ」
 「まあ、お肉ですかね!」
 二人で笑った。
 店長が挨拶に来る。

 「こちらは初めての方のようでしたので」
 「ああ、親友の娘なんだ。東京に遊びに来てて、是非「ざくろ」の最高のすき焼きを味わって欲しくてね」
 「ありがとうございます。石神先生には、いつもご利用いただいて」
 「だって、本当に美味いもんなぁ」
 柳に名刺を渡し、戻って行った。

 「石神さんって、どこでも人気ですよね」
 「そんなことはねぇ、と言いたいんだけどな。柳にも前に助けてもらったけど、ネットなんかで何度も困ったことになったよなぁ」
 「ああ! 響子ちゃんにいろいろ見せてもらいました」
 「まあ、俺が1割、9割は一江のせいだったけどな」
 「一江さん?」
 俺は一江が拡散の元であったことを話した。

 「プロトンって」
 「原子核の「陽子」だよな。あいつは一江陽子っていうんだ」

 「まあ」

 「俺も随分と院長やらにイタズラや迷惑をかけたけどなぁ。あいつもそれに倣って、俺に時々イタズラしやがる」
 「やっぱり石神さんの影響じゃないですか」
 「バカを言うな! いくら俺だって、命に関わるようなことはしてねぇ」
 「命って?」
 俺は宇留間がネットの動画を見つけて俺に復讐しようとした流れを説明した。

 「なるほど」
 「宇留間のしつこさっていうのもあるけどなぁ」
 「って言うか、目を潰されて耳も取っちゃったら、普通は恨みますよ!」
 「あ、そうか!」
 俺たちは笑った。
 
 「みんな、石神さんに影響されるんですね」
 「そんなことはないよ。御堂なんて俺と全然違ってまともじゃないか」
 柳が笑っている。

 「なんだよ?」
 「私が子どもの頃から、父が時々歌うんですよね」
 「なんだ?」
 「何かあると、歌ってるんです。そういうものだと思ってました」
 「別にいいじゃないか」

 「ある時、祖父に聞いたんです。昔はああいうことはしなかったって」
 「そうなのか?」
 「東京から戻って、歌うようになったんだって」
 「そ、そうなの」
 「石神さんって、よく歌ってますよねぇ!」
 「い、いや、別に」
 俺はすき焼きの鍋をほとんど喰い終わり、あてもなく野菜の切れ端を探した。

 「前に父に聞いたんです」
 「そうか」
 「やっぱり、石神さんがいつも歌っているのが好きだったって言ってました!」
 「柳、もう一鍋いくか?」
 「もういいですよ!」

 そういえば、亜紀ちゃんが一緒に出掛ける時には俺のギターを持っていくことを思い出した。
 温泉に行った時にも、当たり前のように車に積んでいた。

 「まあ、歌はいいもんだよな!」
 「無理矢理いい話にしてますね」
 柳は店を出る時に、「本当に美味しかったです」と礼を言った。
 傍にいた店員たちが深々と頭を下げた。





 帰り道、柳に聞いた。

 「柳、この後どうする?」
 「また響子ちゃんと遊びたいです」
 「そうか」
 「顕さんのお部屋に行ってもいいですか?」
 「ああ、大丈夫だぞ」
 「他に会える人っています?」
 「なんだよ、それ」

 「だって、いろんな人に石神さんのお話を聞きたくて」
 「ばかやろー」

 響子の部屋に戻ると、当然響子はまだ寝ている。
 しかし、六花の他に栞と鷹まで来ていた。

 「あ、戻られましたよ」
 六花が言う。
 俺は苦笑し、響子を起こさないように、病棟の共用スペースに移動した。

 「柳さん、響子とお二人には、柳さんの水曜日のお話をして、了承を得ました」
 「お前ら! また下らない冗談を!」
 「でも栞さんの翌日では、石神先生はカラになってい……ゲッフゥ!」
 俺は六花のわき腹を突いた。

 「いい加減にしろ! 相手はまだ高校生だぞ」
 柳は笑っていた。
 栞は赤くなっている。
 午後の回診がある。
 俺はバカ話はするなと言い、部屋へ戻った。



 俺が手掛けたオペは、すべて良好な経過だった。
 少し早いが、柳もいるし、帰ることにする。

 「一江、数日だが宜しく頼むぞ」
 「はい、お任せ下さい。特に問題もないとは思いますが」
 二人で、そうなるようにスケジュールを組んだ。

 「斎藤が珍しくやる気になってるな」
 「そうなんですよ、何か一本通りましたかね」
 小声で話す。

 「お前と大森も上手く話してくれたんだろ?」
 「そんなことは」
 「まあ、何にしても宜しく頼む。みんなに配る論文はデスクに揃えてあるからな」
 「分かりました」
 
 「おい! 数日留守にするからな!」
 俺は部下たちに声をかけた。

 「嬉しそうな顔をするな!」
 みんなが笑う。
 
 俺は手を振って部屋を出た。



 響子の部屋に行くと、響子と柳が六花の胸を触っていた。

 「おい、何やってんだ?」
 「いえ、どうしたら六花さんのようなスタイルになるのかって話で」
 「六花、オッパイ大きいよね!」
 「石神先生もどうぞ」
 俺も確認した。

 「確かにいいな!」

 


 「響子、数日出掛けるからな」
 「うん」
 寂しそうな顔をする。

 「いつかお前にも御堂を会わせたいなぁ」
 「うん」
 「最高の奴なんだよ! 俺なんかよりずっといい奴だ」
 「うん」

 「いつか必ずな」
 「タカトラの大事な人には、みんな会いたい」
 「そうか」
 「響子ちゃん、またね」
 「リュウー、また来てね」
 「絶対。来年は私もこっちに来るし」
 「そうなの!」

 俺は響子の頬にキスをして部屋を出た。
 六花が追って来る。

 「響子のことは、お任せください」
 「ああ、お前なら、なんの不安もねぇ」
 「はい」
 「一江や大森にも言ってある。困ったことがあれば相談しろ」
 「はい、行ってらっしゃいませ」

 俺は柳と病院の裏へ行った。
 いつもそこにはタクシーが停まっている。

 「なんだか寂しいですね」
 「なんだよ」
 俺は笑った。





 タクシーに乗り込む前に、柳が建物に一礼した。
 「また来るからね」

 柳は小さく呟いた。 
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