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再び、虎と龍 XⅠ

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 話を聞き終わり、亜紀ちゃんが泣きそうになった。

 「タカさんは、やっぱり傷だらけですよね」
 「そうね」
 俺は残しておいたローストビーフを一切れ、亜紀ちゃんの前に置いた。

 「?」
 「ほら、お肉だぞー」
 亜紀ちゃんは笑った。

 「もーう!」
 でも食べた。

 「まあ、あの時も言ったけど、大したことじゃないんだよ。俺の傷なんて、それこそ今更って話だしな。柳を助けたって、そんなもの、当たり前だよなぁ」
 柳が俺に微笑んでくれる。
 
 「去年は双子ちゃんたちがいたんで行かなかったけど、以前は石神さんがいらっしゃると毎回行ってましたよね?」
 「……」
 「え、どうしたんですか?」
 「そう言えば、御堂の家に行くとよく川魚を喰ってたような……」
 「ひっどーい!」
 俺は笑った。

 「ウソだよ。去年行った時も、御堂とちょっとだけその話をした」
 柳はグラスを飲み干し、もう一杯と言った。
 俺は笑いながらシャンパンを出して作ってやる。
 使っているのは、それほど高いものではない。
 モエ・エ・シャンドンの「アイス アンペリアル ロゼ」だ。
 甘いシャンパンで、様々なフルーツの香りも立つ。

 「タカさん、今年は別荘に柳さんもお呼びできませんか?」
 亜紀ちゃんが提案した。

 「亜紀ちゃん。それを柳の前で言ったら、俺はどう言えばいいんだよ」
 「あ、そうか!」
 「柳さん、今の話は聞かなかったということで」
 三人で笑った。

 「私、行きたいです!」
 「いや、お前は受験生だろう」
 「大丈夫ですよ。今すぐ試験を受けたって合格しますから」
 「でもなぁ。今年はまた人数が増えるしなぁ」
 「えーと、うちが五人で響子ちゃんと六花さん。栞さんも来るんですよね」
 「栞は最初の二日だけどな」
 「あー、それで響子ちゃんたちと入れ替わりにしたんですね」
 「そうしないと、客室が足りないからな」
 
 「皇紀を外で寝かせましょう!」
 「亜紀ちゃん、姉としてどうなのよ? あいつ泣くぞ」
 「うーん」
 「あ、いいんです。じゃあまたいつかってことで」
 柳が言った。
 
 「まあ、待て。亜紀ちゃんの部屋にベッドを増やすか? 亜紀ちゃんどうだ」
 「はい! いいですね!」
 「言っておくけどなぁ、響子が来たら風呂は響子と入るからな」
 「じゃあ、それまでは御一緒ということで」

 「ダメだ。栞が許すわけないだろう」
 「栞さんも一緒でいいじゃないですか」
 「あっちの風呂はそんなにでかくねぇ!」
 俺たちはぎゃいぎゃいと揉めた。
 ひとまず、現地でということになった。

 12時には切り上げて寝た。





 翌朝。

 「柳、今日はどうする? 亜紀ちゃんたちといるか?」
 「よろしければ、また病院へ伺ってもいいですか?」
 「ああ、構わないぞ。俺は相手はできないけど、響子とまた遊んでくれよ」
 「はい!」
 病院で、いつも通りに一江の報告を聞く。

 「先週までのオペの連続、お疲れ様でした」
 「ああ、久しぶりで疲れたよなぁ。俺も年取ったなぁ」
 「そうですね」
 「そこは違うと言え!」
 俺が生意気な一江にチョップを入れると、柳が来た。
 
 「おう! よく来た。みんな! 俺の親友の娘の御堂柳だ」
 「御堂柳です。お仕事中にお邪魔して申し訳ありません」
 部下たちが挨拶する。

 「丁度今一段落したんだ。顕さんを紹介しておこう」
 顕さんは先週の放射線治療が辛く、体調が良くなかった。
 でも、今朝は元気そうだったので、柳を会わせようと思った。

 「奈津江のお兄さんなんだ」
 廊下を歩きながら、柳に説明した。

 「顕さん、ちょっと会わせたい人がいるんですが」
 俺は声を掛けて柳を中に入れた。
 顕さんはベッドで図面を拡げていた。

 「ああ、どうぞ」
 「奈津江ともよく一緒にいた御堂の娘なんです」
 「柳です。初めまして」
 顕さんは喜んだ。

 「ああ、そうか! よく来てくれたね」
 俺は柳に、顕さんが今の家や別荘のアイデアを全部出してくれたのだと言った。
 柳は驚く。

 「もう別荘には行ったのかな?」
 「いいえ。でも今年はお誘いいただきました」
 「そうかー! あの屋上のね」
 「顕さん、ちょっとまだダメですって」
 「ああ、そうか!」
 「なんですか?」

 「「まあまあ」」

 俺と顕さんは肩を組んで笑った。
 柳もクスクスと笑う。



 しばらく雑談し、柳は響子の部屋へ行った。
 顕さんは昼間も時々は行くが、響子の部屋には夜によく行ってくれるらしい。
 響子が寂しがっている時間だから、ありがたい。
 今日はオペの予定はない。
 先週までの施術をした患者さんの経過を確認するだけだ。
 
 響子の部屋には、食事の時間に行った。
 響子はまたトラの着ぐるみを着ている。
 柳に見せたかったのだろう。

 「お、また大食いの虎がいるぞ」
 「がおー」
 みんなで笑った。
 響子は頑張って食べている。
 本当にカワイイ。

 食べ終わって歯磨きをし、俺が抱きかかえて部屋へ連れて行く。
 六花は後片付けをし、柳がついてきた。
 いつものように膝に乗せ、仕事をする。
 柳がニコニコして、それを見ていた。
 一江と大森が柳の相手をしてくれた。
 響子が眠くなり、また病室へ抱いていく。
 ベッドに寝かせて、俺は柳を連れて昼食に出た。



 フレンチを喰い、寿司を食べたから、「ざくろ」へ行く。

 「響子ちゃん、カワイイですね」
 「ああ、今日はまた柳が来たから嬉しそうだったしな」
 歩きながら話した。

 「石神さんの白衣、ステキでした」
 「じゃあ、今度お前がナース服を着てプレイするか!」




 「なんか、いい感動が台無しです」
 俺は大笑いした。
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