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再び、虎と龍 Ⅸ

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 日曜日の夜。
 夕飯はローストビーフをメインにする。
 時間は掛かるが、そんなに難しい料理ではない。
 まあ、うちの場合は量が半端ないので、その辺の苦労はあるが。
 ローストビーフは、家長である俺が切り分けることになっている。
 俺の前に肉の塊が置かれ、ゆっくりと切って皿に乗せる。
 子どもたちがよだれを飲み込んで待つ。
 喧嘩したりトラブルを起こせばどうなるか。
 それを知って大人しく並んでいる。

 亜紀ちゃん。
 「ありがとうございます」
 皇紀。
 「ありがとうございます」
 ルー。
 「ありがとうございます」
 ハー。
 「ありがとうございます」

 気分がいい。
 食事らしいものになっている。
 先に切ってやった柳は可笑しそうに笑っていた。

 「なんか、いつもと違いますよね」
 「そうだろ? たまにはこうでなくっちゃなぁ」
 食べ始めると、物凄い勢いだ。
 もちろん、人よりも多く喰うためにお代わりを焦っているのだ。

 「後の奴の方が肉が厚いぞ!」
 子どもたちが食べるのをやめる。
 じっと俺を見ている。
 気分がいい。

 「石神さん、性格悪いですよ」
 「ダァーッハッハッハッハ!」

 柳に3センチ厚の肉を皿に置いてやる。
 子どもたちが涙目で見ている。

 「ほら、カワイソウですって!」
 「分かったよ! 早く来い!」
 一斉に群がった。



 「明後日からお前の家にお邪魔するけど、こいつらが不安でなぁ」
 「大丈夫ですよ! 去年の経験もありますし、ちゃんと用意してます」
 好きな厚さで自分でやれと言うと、亜紀ちゃんがブロックごと持っていこうとする。
 頭をはたき、戻して俺がまた切る。

 「な、油断も隙もねぇ。俺はなんか悪霊がいるんだと思うんだ」
 「そんなばかな」
 柳は笑ったが、双子が硬直した。

 「ウソだよ! そんなもんはこの家にいるわけがねぇ!」
 ニコニコと笑って双子が肉をせがんだ。

 「お前の家の知り合いで、霊能者っていねぇか?」
 小声で柳に聞いた。
 
 「本気ですか?」
 「ああ」
 「じゃあ、父に聞いてみます」
 「頼む」
 夕食の片づけをし、風呂に入る。

 「今日は頼むから一人でゆっくり入らせてくれ!」
 「「分かりました!」」

 俺はベートーヴェンのピアノ曲を流しながら、風呂へ入った。
 今日はシュナーベルの演奏にする。
 身体を洗っていると、脱衣所に誰か入って来た。
 鍵は閉めたはずだが、亜紀ちゃんだろう。

 「こんにちはー」
 「なんだ!」
 「もうゆっくりされましたよね?」
 「するわけねぇだろう!」
 「じゃあ、そういうことで」
 柳も入って来る。
 俺はインターホンで皇紀を呼んだ。

 「おい! すぐに風呂へ来い!」
 「無理ですってぇ!」
 意気地のねぇやろうだ。

 二人がニコニコしてタオルとスポンジを持って待っていた。
 三人で洗い合い、浴槽へ浸かった。

 「またコワイ顔しちゃってー」
 「そりゃそうだ!」
 「もう、いい加減に慣れてくださいよ」
 「慣れたら終わりだぁ!」
 俺と亜紀ちゃんの遣り取りに、柳は笑っている。

 「あー、オチンチンが痒いな!」
 亜紀ちゃんが寄って来るので、もう痒くないと言った。




 俺はCDを止めた。

 「あー、今日はシュナーベルが聴きたかったなぁ」
 「いつでも聴けるじゃないですか」
 「オッパイみながらじゃ、ロマンティシズムがねぇんだよ!」
 二人がクスクス笑っている。

 「おい、柳! お前ちょっと足を開いて見せろ」
 「やですよ!」
 「なにぃ! シュナーベル以上のものを持ってるか確認だぁ!」
 「おとーさーん!」
 「ウソです! ごめんなさい!」
 三人で笑った。

 「お前ら、真面目な話でなぁ。御堂の家じゃ絶対に一緒に入らねぇからな!」
 「どうなんですかね?」
 「亜紀ちゃん、頼むよ」
 「柳さんはそうかもしれませんが、私はいいですよね?」
 「亜紀ちゃん、ずるいよ!」

 「やめてくれ。一応俺ってあの家では好かれてると思うんだ」
 「「アハハハ!」」

 俺はもんた&ブラザーズの『赤いアンブレラ』を歌った。

 「いい歌ですね」
 柳が言った。

 「タカさんって、いろんな歌を知ってますよね」

 「俺の中ではいつも音楽が鳴っているんだ。子どもの頃からな」
 「へぇー!」
 「昔は録音なんてできなかった。だからラジオで流れた曲なんかは、その場限りだ。必死でメロディや歌詞を覚えようとしているうちに、段々できるようになったよな」
 「すごいですね!」

 「そのうちにカセットテープなんかが出回って、気軽に録音できるようになっていったけどな」
 「うちにはCDも一杯ですけど、LPレコードも多いですよね?」
 亜紀ちゃんが言う。

 「ああ。柳や亜紀ちゃんはもうCDを通り越して配信の時代だろ? でも俺はああいう「塊」が好きだからな。データじゃどうもダメなんだよ」
 「なるほど」
 「御堂もたくさん持っているだろう?」
 「はい」

 「俺の親友だからな」
 「「アハハハ」」





 まあ、エロなしの裸の付き合いもいいもんだ。
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