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再び、虎と龍 Ⅵ

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 「機嫌を直せよ」

 最高の車、アヴェンタドールに乗りながら、柳がまだむくれている。

 「石神さんは、やってはいけないことをやりました」
 「だから悪かったって!」
 いつもの俺の、ちょっとした冗談が柳を傷つけた。
 まあ、それほど悪いと思っていないことが申し訳ないが。
 機嫌を直してやるか。

 「でもな、本当の気持ちだってあるんだぞ?」
 「え?」
 「お前を愛しているのは本当のほんとだ。結婚はまあ分からんが、一生お前と一緒にいたいのも本当だ」
 「え?」

 「愛してるぞ、柳」
 「わ、私もー!」
 それでいいのか、柳。




 「じゃあ、俺の一番好きな場所へ行こう」
 「羽田空港ですね!」
 「お前はやっぱりいい女だな!」
 「はい!」
 羽田空港へ着いた時には、もう十時だった。
 俺たちは第三ターミナルへ行く。
 手を組んで歩いた。
 柳がそうしたがった。
 自動販売機でコーヒーを買って、二人でベンチに座った。



 「死が二人を分かつまで、か」
 俺は結婚式での誓いの言葉を呟いた。

 「どうしたんですか?」
 「みんなは死が二人の終わりなのかな、と思ってな」
 「はぁ」
 一機の旅客機が飛び立った。
 二人でそれを目で追った。
 赤いライトを点滅させながら、巨大な機体が小さくなっていく。
 
 「柳、お前俺が死んだらどうする?」
 「え、どうって。多分悲しみます」
 俺は柳の頭を抱き寄せた。

 「その後はどうするよ」
 「それは……」
 「俺のことは忘れて、別な男を見つけるか?」
 「それはないと思います」

 「俺もそうだった」
 「!」

 「俺も好きな女がいた。奈津江は死んだ。でも死んだ後だって、俺は奈津江のことがずっと好きだ」
 「……」
 「死が分かつのが結婚ならば、俺はそんなものはいらない。結婚なんてただの形だ」
 「はい」
 「結婚が悪いわけでもないけどな。でも、形にすがって安心したがるのはどうかと思うぞ」
 「……」
 
 「柳、結婚できないとダメなら、俺のことは諦めろ」
 「嫌です」
 「俺はお前と一生一緒にいたい」
 「はい、私も」
 「お前が死んでも、絶対に愛し続ける」
 「うれしい」
 柳は俺の胸に顔を埋めた。

 「奈津江さんのお話は、父からも聞いてます。石神さんの最愛の人だったって」
 「ああ」
 「奈津江さんが亡くなって、石神さんは誰とも結婚しなかったですよね」
 「そうだな」
 「今は何人も恋人がいますけど」
 俺は柳の頭を撫でる。

 「奈津江さんを今でも好きでいながら、他の人も好きなんですね」
 「そうだ」
 「奈津江さん以上の人がいないから、他の人を同時に愛せるんですね」
 「お前はやっぱり頭がいいな」
 柳が唇を重ねて来た。

 「でもな、お前たちが奈津江以下だということじゃないんだ。奈津江は死んだ。ようやくそのことを受け入れつつある。だから俺はお前たちを愛するんだと思うよ」
 「はい」
 「結婚は奈津江とするつもりだった。その相手は奈津江だけだ。だけどもう奈津江と結婚はできない。だから他の女とも結婚はしない」
 「はい」
 「でも、俺の中の愛は消えていない。お前たちを愛することは、止められない」


 「いつから私のことを好きになってくれたんですか?」
 「さあな」
 「言って下さいよ」
 「またお前が怒るからなぁ」
 「なんですか、それ」

 「うーん」

 「言って下さい」
 「怒るなよ?」
 「怒りません」

 「御堂の家で、お前の裸を見た時だ」
 「エェッー!」
 「だから怒るなって!」
 「じゃあ、私に欲情したってことですかぁ!」

 「違うよ! お前のペッタンコのどこに欲情するんだ!」
 「ひっどーい!」
 柳が俺の頬をつねる。

 「だから、お前のまっすぐな気持ちを感じたんだよ!」
 「!」
 
 「お前、怖くてオドオドしてたくせに、思い切って俺にぶつかってきてくれただろう」
 「……」
 柳がまた唇を重ねて来た。
 勢いが余って、歯がぶつかる。

 「ヘタクソ!」
 俺がやり直す。
 
 「私の裸には全然感じなかったんですか?」
 「悪い」
 頬をつねられる。

 「正直に言うとな」
 「はい!」
 「ちょっとだけ硬くなった」
 「アハハハ!」

 「まだダメですよ!」
 「当たり前だ!」








 「早く帰って一緒にお風呂に入りましょう!」
 「やめてくれ」





 滑走路に、新たな便が入って行った。
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