374 / 2,806
再び、虎と龍 Ⅳ
しおりを挟む
「今日はどちらへ行くんですか?」
「ああ、沼津に行こうと思ってる」
「そうですか」
「お前、沼津って全然知らないだろう!」
「アハハハハ」
「笑って胡麻化すな」
前に栞と行った場所だ。
柳に美味い寿司を喰わせたかった。
6時近いが、まだ日は落ちていない。
まず、以前に行ったカフェに入った。
夕暮れまでの時間を潰す。
「昨日、双子ちゃんが迎えに来てくれたじゃないですか」
「ああ、大丈夫だったか?」
「ええ。本当に頼りになって。最初に石神さんに言われたからって、喫茶店に案内してくれたんです」
「ああ」
「なんでも頼んでいいって言われてミルクティを飲もうと思ったんです」
「あいつらはクリームメロンソーダだろ?」
「そうなんですよ! でも私がミルクティを飲むって言ったら「じゃあクリームメロンソーダはやめよう」って言うんで。私もクリームメロンソーダにしたんです」
俺は笑った。
「あいつらはいつもクリームメロンソーダなんだよ。喫茶店じゃ、それが一番美味いって信じてるのな」
「でも美味しいですよね」
「まーな。俺がたまには飲みたいって頼んだら、双子も乗っかってきて。それからずっとクリームメロンソーダよ」
柳が笑った。
「みんな石神さんが大好きなんですね」
「そうなのかなぁ」
「亜紀ちゃんも、昨日はフレンチを作ってくれましたけど、あれも石神さんが作ったからなんでしょ?」
「まあ、鷹が来た時にな」
「亜紀ちゃんが言ってました。鷹さんがすごく喜んでたから、自分もしたかったって」
「そうか」
「みんな石神さんに感謝してるし、憧れてるんですよね」
「それは分からんが、あいつらにひどい目に遭わされることも多いからな」
「そうなんですか?」
「こないだなんてさ。代車で借りたフェラーリぶっ壊されたんだ」
「えぇー!」
「双子がイモビライザーを止めようとして、ハンドルからメーターまで全部めちゃめちゃにしたのな。しょうがなく買い取ったんだよ。もちろんすぐ廃車な」
「そ、それは」
「4000万円だったからなぁ。他にも、俺の部屋の大事な絵を踏みつぶしたしなぁ」
「あ、あのリャドの絵ですか?」
「そうだよ。それで俺が怒るからって家出したのな」
「あー!」
俺たちは笑った。
徐々に夕暮れが近づいてきた。
「双子は元気一杯というか、もう悪魔みたいになることもあるんだ。でもな、コワイものが苦手なんだよ」
「そうなん、あ! 前に怖い映画見せられましたよね!」
「アハハ。家出した時にも罰で、もっと怖い奴を見せたのな」
「どうなりました?」
「二人とも、口から泡を吹いて失神した」
「アハハハハ!」
「カワイイですね」
「ああ、みんなカワイイよ。俺はこんなだから、子育てなんてまっとうにはできねぇ。でもみんないい子に育ったな。山中たちの躾が良かったんだなぁ」
「石神さんだって頑張ってますよ」
「俺は無茶苦茶だよ。山中に顔向けできないよなぁ」
「そんなことないですよ」
俺は笑って言う。
「まあ、唯一、退屈なことだけはねぇな」
「ほんとに!」
二人で笑った。
俺たちは店を出て、公園を抜けて水門の展望台に上った。
夕陽に照らされた海面が美しかった。
「素敵な場所ですね!」
柳は、外の景色に見とれていた。
「なあ、柳」
「なんですか?」
「俺は本当に、ちゃんとやってるかな」
柳が不思議そうな顔で見ている。
「さっきも言ったけどさ。俺は本当に山中の子どもたちを預かって、不味かったんじゃないかと時々思うんだ」
「そんなことないですよ」
「でも、普通に育ってればもっとあいつらは幸せだったんじゃないかってな。まあ、金は俺が出すけど、もっとまともな人間に育てられればって思うんだよ」
「そんな」
「俺は本当に好き勝手なことしかしない。そのせいで、あいつらは「普通」が分からなくなったんじゃないかと思うよ」
「確かに普通以上ですけど」
「俺が拳銃で撃たれたのはもう知ってるだろ?」
「はい」
「もしかしたら、狙われたのは子どもたちだったかもしれないんだ。そんなことを思うと、本当に俺のいい加減さが怖いんだよ」
柳が後ろから俺を抱き締めてくれた。
「そんなこと、絶対にありませんよ!」
「そうかな」
海は、静かに暮れて行った。
見えなくなっていく景色の中で、一つずつ灯がともっていく。
「なあ、柳」
「はい」
「お前、早く来て俺を助けてくれ」
「はい」
「お前は御堂と澪さんたち、御堂家のあの素晴らしい方々に育てられた」
「はい」
「お前を頼りにしているぞ」
「はい」
「なあ、柳」
「なんですか?」
「お前、やっぱりオッパイが小さいな」
膝で尻を蹴られた。
「もう、知りません!」
俺は笑いながら柳の横に並び、肩を抱き締めた。
「もう、ほんとに石神さんはぁ!」
頬にキスをする。
「女性の扱いが上手過ぎですよ」
小さな声で柳が言った。
「ああ、沼津に行こうと思ってる」
「そうですか」
「お前、沼津って全然知らないだろう!」
「アハハハハ」
「笑って胡麻化すな」
前に栞と行った場所だ。
柳に美味い寿司を喰わせたかった。
6時近いが、まだ日は落ちていない。
まず、以前に行ったカフェに入った。
夕暮れまでの時間を潰す。
「昨日、双子ちゃんが迎えに来てくれたじゃないですか」
「ああ、大丈夫だったか?」
「ええ。本当に頼りになって。最初に石神さんに言われたからって、喫茶店に案内してくれたんです」
「ああ」
「なんでも頼んでいいって言われてミルクティを飲もうと思ったんです」
「あいつらはクリームメロンソーダだろ?」
「そうなんですよ! でも私がミルクティを飲むって言ったら「じゃあクリームメロンソーダはやめよう」って言うんで。私もクリームメロンソーダにしたんです」
俺は笑った。
「あいつらはいつもクリームメロンソーダなんだよ。喫茶店じゃ、それが一番美味いって信じてるのな」
「でも美味しいですよね」
「まーな。俺がたまには飲みたいって頼んだら、双子も乗っかってきて。それからずっとクリームメロンソーダよ」
柳が笑った。
「みんな石神さんが大好きなんですね」
「そうなのかなぁ」
「亜紀ちゃんも、昨日はフレンチを作ってくれましたけど、あれも石神さんが作ったからなんでしょ?」
「まあ、鷹が来た時にな」
「亜紀ちゃんが言ってました。鷹さんがすごく喜んでたから、自分もしたかったって」
「そうか」
「みんな石神さんに感謝してるし、憧れてるんですよね」
「それは分からんが、あいつらにひどい目に遭わされることも多いからな」
「そうなんですか?」
「こないだなんてさ。代車で借りたフェラーリぶっ壊されたんだ」
「えぇー!」
「双子がイモビライザーを止めようとして、ハンドルからメーターまで全部めちゃめちゃにしたのな。しょうがなく買い取ったんだよ。もちろんすぐ廃車な」
「そ、それは」
「4000万円だったからなぁ。他にも、俺の部屋の大事な絵を踏みつぶしたしなぁ」
「あ、あのリャドの絵ですか?」
「そうだよ。それで俺が怒るからって家出したのな」
「あー!」
俺たちは笑った。
徐々に夕暮れが近づいてきた。
「双子は元気一杯というか、もう悪魔みたいになることもあるんだ。でもな、コワイものが苦手なんだよ」
「そうなん、あ! 前に怖い映画見せられましたよね!」
「アハハ。家出した時にも罰で、もっと怖い奴を見せたのな」
「どうなりました?」
「二人とも、口から泡を吹いて失神した」
「アハハハハ!」
「カワイイですね」
「ああ、みんなカワイイよ。俺はこんなだから、子育てなんてまっとうにはできねぇ。でもみんないい子に育ったな。山中たちの躾が良かったんだなぁ」
「石神さんだって頑張ってますよ」
「俺は無茶苦茶だよ。山中に顔向けできないよなぁ」
「そんなことないですよ」
俺は笑って言う。
「まあ、唯一、退屈なことだけはねぇな」
「ほんとに!」
二人で笑った。
俺たちは店を出て、公園を抜けて水門の展望台に上った。
夕陽に照らされた海面が美しかった。
「素敵な場所ですね!」
柳は、外の景色に見とれていた。
「なあ、柳」
「なんですか?」
「俺は本当に、ちゃんとやってるかな」
柳が不思議そうな顔で見ている。
「さっきも言ったけどさ。俺は本当に山中の子どもたちを預かって、不味かったんじゃないかと時々思うんだ」
「そんなことないですよ」
「でも、普通に育ってればもっとあいつらは幸せだったんじゃないかってな。まあ、金は俺が出すけど、もっとまともな人間に育てられればって思うんだよ」
「そんな」
「俺は本当に好き勝手なことしかしない。そのせいで、あいつらは「普通」が分からなくなったんじゃないかと思うよ」
「確かに普通以上ですけど」
「俺が拳銃で撃たれたのはもう知ってるだろ?」
「はい」
「もしかしたら、狙われたのは子どもたちだったかもしれないんだ。そんなことを思うと、本当に俺のいい加減さが怖いんだよ」
柳が後ろから俺を抱き締めてくれた。
「そんなこと、絶対にありませんよ!」
「そうかな」
海は、静かに暮れて行った。
見えなくなっていく景色の中で、一つずつ灯がともっていく。
「なあ、柳」
「はい」
「お前、早く来て俺を助けてくれ」
「はい」
「お前は御堂と澪さんたち、御堂家のあの素晴らしい方々に育てられた」
「はい」
「お前を頼りにしているぞ」
「はい」
「なあ、柳」
「なんですか?」
「お前、やっぱりオッパイが小さいな」
膝で尻を蹴られた。
「もう、知りません!」
俺は笑いながら柳の横に並び、肩を抱き締めた。
「もう、ほんとに石神さんはぁ!」
頬にキスをする。
「女性の扱いが上手過ぎですよ」
小さな声で柳が言った。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる