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亜紀の父です、斎藤さん。

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 日曜日の夜。
 また亜紀ちゃんが俺と一緒に風呂に入りたがった。

 「ダメだ! 出て行け!」
 「いいじゃないですか! 親子なんだからぁ」
 「親子だからダメなんだろう!」
 「アンシェントホテルで「家族風呂」にみんなで入ったじゃないですかぁ!」
 「あれはお前たちが無理矢理だっただろう!」

 亜紀ちゃんは問答無用で服を脱いでいく。
 俺が出て行こうとすると。

 「ルー! ちょっと来てぇー」
 「バカ! やめろ!」
  「じゃあ一緒に入ってください」
 「……」

 なんでこの子はこんなに一緒に入りたがるのか。
 別に性的なものを求めているわけではないようだが。
 いつものように、お互いの背中と髪を洗い合った。
 もう諦めた。

 「はぁー! いい気持ちですね」
 「お前がいなけりゃな」
 「あー! ひどい!」

 「亜紀ちゃんがいると、思い切り寛げないんだよ!」
 「なんでですか?」
 「オチンチンをプルプルできないじゃないか。俺のお風呂の楽しみなのに」
 「やればいいじゃないですか。私も見たいです」

 「おまえー!」

 亜紀ちゃんが、ほれ、ほれと言っている。
 でも、俺が湯船にオチンチンを出すと、やめてくださいと言う。
 プルプルしてやると怒った。

 

 「栞の家はどうだったよ?」
 「はい、楽しかったですよ。ちょっと組み手をやって、あとはいろんな話をしました。聞きたいです?」
 「別に興味はねぇ」
 「あぁー!」
 俺は笑った。

 「一つだけ分かってればいいからな」
 「何ですか、それ?」
 「亜紀ちゃんが、栞を心配して行ったってことだよ」
 亜紀ちゃんが俺の足の間に入り、背中を預けて来た。

 「タカさんはやっぱり」
 「なんだよ?」
 「最高ですって!」
 「はぁ?」

 亜紀ちゃんが笑っている。




 「昨日、あの傘のことを教えてもらって。今日は栞さんからいいお話を伺って。だからタカさんと一緒にお風呂に入りたかったんです」
 「悪い、全然分からん」
 ウフフフ、と亜紀ちゃんが笑った。

 「タカさん、一オッパイいいですよ!」
 「やめろ!」

 「ああ、来週は柳が来るぞ」
 「ほんとですか!」
 「さっき御堂と話したんだ。アヴェンタドールのことを言ってなかったからな」
 「タカさんって、御堂さんには本当に何でも話しますよねー」
 「そうだ」
 「私には全然教えてくれない」

 俺は笑った。

 「そりゃ年齢もオッパイもまだまだ子どもだからな」
 「えぇー、酷いですよー」
 「ルーとハーの分析によると、俺は巨乳好きらしいからな」
 「アハハハ!」

 


 「そういえば、一つご相談がありました」
 「なんだよ?」
 「少し前から、斎藤くんって男子に高校でしつこく言い寄られてます。不安になっちゃいました?」
 亜紀ちゃんがニコニコしながら、首だけ振り向いた。

 「別に。亜紀ちゃんみたいな美人が男に言い寄られても、何の不思議もねぇ」
 亜紀ちゃんが背中を押し付けてくる。

 「でも心配してるでしょ?」
 「それもねぇなぁ。自衛隊の連中が戦車で来たって、亜紀ちゃんなら大丈夫だろ?」
 「そんなことないですよー! 助けて下さいよー!
 俺たちは笑った。

 「どんな相手なんだよ?」
 「それがですねー。全然良くないんです。成績はクラスの中間くらいかなー。顔は本人はいいつもりらしいですけど」
 「そうか」
 亜紀ちゃんは学年トップの人間が集まるクラスだ。
 そこの中間であれば、結構優秀なはずだった。

 「ほんとに心配してないですね!」
 「アハハハハ」
 亜紀ちゃんが振り返って俺に抱き着く。
 胸を押し付けてくる。

 「ほら、私の一オッパイ、やられちゃうかもしれませんよ!」
 「アリンコは虎のオッパイは触れないだろう」
 「もう!」
 亜紀ちゃんは、そのまま腕を俺の首に回してきた。
 俺は額に頭突きをし、前向きに亜紀ちゃんの身体を戻した。

 「でも、本当にしつこいんですよ」
 「そうなんだ」
 「それで最低なんですけど、お兄さんの自慢をしてきたんです」
 「へぇー」

 「そのお兄さんは東大医学部を出てるらしいんですね」
 「そうか」
 「その自慢で。それで今度お兄さんに会ってくれって」
 「お」
 俺の反応が変わったことに、亜紀ちゃんが気付いた。

 「どうしたんです?」
 「なんか面白そうじゃないか」
 「えー!」

 「俺も噛ませろ!」
 「はい?」
 「俺がその兄貴に会ってやる。どんな奴か知らないけど、面白いことになるんじゃないか?」
 「あー、タカさん以上のことってないですもんね!」
 「自慢の兄貴をけちょんけちょんにしてやれば、そいつももう諦めるんじゃねぇか?」
 「確かに面白そうです!」

 「やるか!」
 「やりましょう!」
 「「ワハハハハハハ!」」
 俺たちは大笑いした。

 



 亜紀ちゃんは早速段取りし、月曜日の夜に斎藤兄弟と会うことになった。
 銀座の喫茶店で待ち合わせる。
 俺は亜紀ちゃんの近くの席に座った。
 兄弟が入って来た。

 「石神さん、紹介します。僕の兄です」

 「あ、斎藤さん」
 「亜紀ちゃん?」
 「え?」

 急展開に俺は席を立った。

 「斎藤さん、こんばんは。亜紀の父親です」
 「ヒィッ!」
 斎藤は瞬時に脂汗を流し、顔面蒼白だ。
 震えている。

 「にいちゃん!」
 斎藤の弟が焦っている。
 展開について来れない。

 「斎藤! てめぇ、うちの亜紀ちゃんに何しようとしたぁ?」
 「す、す、す、すみま……」
 「このイモはお前の弟かぁ?」
 「い、い、いえ、それは」

 「にいちゃん! どうしたんだよぉ!」
 「おい、カッペ! お前どの面さげてうちの娘に口きいてんだぁ!」
 「なんだよ、あんたは!」
 「やめろ! この方はぁ!」

 亜紀ちゃんがクスクス笑っている。

 「お前のクソ兄貴の上司だ」
 「え?」
 「部長! 申し訳ありませんでしたぁ! おい、帰るぞ!」
 「ちょっと、にいちゃん!」

 斎藤はダッシュで弟を連れて逃げた。
 俺と亜紀ちゃんは大笑いした。





 その晩、また一緒に風呂に入り、また大笑いした。
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