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皇紀、一泊旅行。 Ⅱ

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 ホテルに着いた。
 栞と子どもたちは、威厳のある建物を見て、大騒ぎだった。

 「ね、いいホテルでしょ?」
 「すごいよ亜紀ちゃん! こんなとこに石神くんと二人きりで来たの?」
 「はい!」
 亜紀ちゃんと栞が楽しそうに話している。

 「ねぇ、石神くん」
 「はいはい。言いたいことは分かるし、俺もそうしたいから、いつかね」
 「キュウ!」
 栞は気絶しそうになった。
 亜紀ちゃんが笑って支える。
 栞の中で、いろんな未来が拡がったようだ。
 おめでとさん。

 「亜紀ちゃん、亜紀ちゃん!」
 「早く入ろうよ! ここ、絶対美味しいよ!」
 双子が騒ぐ。
 俺はみんなの荷物を抱えて中に入った。
 ギターは亜紀ちゃんが大事に持った。
 フラフラしている栞の尻を、双子が蹴る。

 「しっかりしろ!」
 「ここで発情すんな!」
 やれやれだぜ。

 吹き抜けの美しいロビーを見て、全員が圧倒される。
 俺は双子に荷物を預け、チェックインの手続きをした。
 
 「石神様、いつもご利用ありがとうございます」
 「宜しくお願いします。前回とても素晴らしいホテルでしたので、また来ました」
 カウンターのスタッフが笑顔で礼を言う。

 「それで電話でお話した通り、申し訳ないんですが夕食は20人前でお願いしたいのです」
 「はい、承っております。朝食も同様で」」
 「子どもたちがちょっと病気で」
 「それはそれは」
 子どもたちはニコニコ笑っている。
 係員が双子から荷物を預かり、部屋へ案内してくれた。
 以前泊った部屋とはまた違う、非常に明るい部屋だった。
 天井が高く、階段があり、広めのロフトスペースがある。

 子どもたちは、まず階段を上がり、ロフトを喜んだ。
 次いで畳のスペースに転がり、遊んでいた。
 亜紀ちゃんがみんなの紅茶を用意する。
 栞はカップを持って、窓の景色を眺めた。

 「いい所ね」
 亜紀ちゃんが隣に立ち、お喋りを始めた。
 双子はまだ、いろいろな備品を確認して遊んでいる。
 夕食まで、まだ時間がある。

 「よし! 皇紀を見に行くぞ!」
 「「「「はい!」」」」




 ハマーで湯川に沿って進み、別荘地に向かう。




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 狭い車内で葵と光に挟まれ、皇紀はげんなりしていた。
 嫌いな二人ではないが、ずっと話しかけられる。
 「女の子」という生物の凄まじさを知った。

 「さあ、みんな。着いたぞ!」
 木造の二階建ての建物。
 小さい。
 敷地には駐車場とある程度の庭があった。
 中に入ると、4部屋とリヴィングになっていた。
 葵ちゃんが案内してくれる。
 二階が寝室になっていて、6畳と8畳の部屋に、ベッドが二つずつ。
 全部シングルだ。

 (アレ、どうやって寝るんだろう?)
 5人いる。

 窓から見ると、葵ちゃんのご両親が車から荷物を運んでいた。
 皇紀は外に出て、手伝う。

 「あらあら、ありがとうね」
 「いえ、タカさんに、お世話になるんだからしっかり働けと言われました」
 「そうなの。石神先生は立派な方ね」
 皇紀はそう言われて嬉しかった。

 「はい!」

 荷物が片付き、みんなで紅茶を飲んだ。
 ティーバッグだった。
 皇紀の土産がお茶うけに出された。

 「まあ、こんなにたくさん」

 50個の栗のセットだ。
 石神家なら、一瞬だろう。
 葵ちゃんが口に入れる。

 「あー! 美味しい!」
 みんなが喜んでくれ、さすが石神先生は、と言ってくれた。
 皇紀も嬉しかった。
 みんな喜んで4粒ずつ食べた。
 半分以上が残った。

 葵ちゃんが周辺を案内してくれた。
 三人で手をつないで歩く。
 皇紀は、小さなころに双子とこうやって手をつないで歩いたことを思い出した。

 (あんなに可愛かった二人……)
 光ちゃんがニコニコして自分を見ている。

 (どうしてあんな悪魔に……)
 でも、双子が大好きな皇紀だった。




 夕方になり、葵ちゃんのご両親は食事の準備を始めた。
 
 「今日はバーベキューだからね!」
 お父さんがそう言っていた。
 皇紀は「手伝います」と、持って来たエプロンを付ける。
 「殴られ屋」とプリントがある。

 「皇紀くん、遊んでていいんだよ」
 お父さんがそう言った。

 「いえ、食事の準備はいつも僕たちの仕事ですから」
 「御家族が多いと大変よね」
 「いいえ!」
 食材を結構なスピードでカットしていく。
 肉は筋切をし、野菜は二口ほどで食べられる大きさに切り揃える。
 ご両親は驚いて、それを見ていた。

 「随分、慣れてるのねぇ」
 「はい!」
 葵ちゃんと光ちゃんに、エプロンが面白いと言われた。

 「タカさんがプレゼントしてくれたんだ」
 皇紀は自慢げにそう言った。
 皇紀がカットしたものを、ご両親が次々に串に刺していく。
 皇紀は切り終えると、バーベキュー台のセットを始めた。
 説明されなくても、大体分かる。
 スタンドを立て、炭置きと焼き網を乗せて完了だ。

 「燃料はどこでしょうか?」
 「あ、ああ。こっちだ」
 皇紀は大ぶりのコークスを敷いた。
 二個は二つに割って、火の回りをよくした。
 食材を運んできたご両親が、その手際に驚く。

 「うちでも、よくバーベキューをしますので」
 またタカさんのことを褒めてくれた。
 嬉しかった。

 「おい、葵! 皇紀くんと結婚したら楽しいぞー!」
 「ヤダァ! お父さんったら!」
 みんなが笑った。






 喧嘩屋と魔王と虐殺天使と二体の悪魔が眺めていることを、皇紀は知らなかった。  
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