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イヤラシー大王

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 夜の10時近くになって、戻って来た。

 今日は亜紀ちゃんとの梅酒会の日だ。
 前回は久しぶりだったので金曜日にやったが、これからは今まで通りに土曜の夜にする。
 亜紀ちゃんにも支度をするように言った。
 但し、今日は俺と鷹はクリュッグだ。
 身欠きにしんを用意するように言ってある。
 甘露煮だ。



 「おかえりなさい」
 亜紀ちゃんが玄関で出迎えてくれた。
 鷹に風呂を勧める。

 「一緒に入っちゃえば?」
 「ばかやろー」
 亜紀ちゃんを小突く。
 鷹は早く上がって来た。

 「なんだよ、ゆっくりすればいいのに」
 「いえ、早く「梅酒会」というものをしたくて」
 俺は笑って、自分も早く上がった。

 テーブルには、既にセッティングしてある。
 俺の両側に鷹と亜紀ちゃんが座った。
 身欠きにしんの甘露煮の他、豆腐を切った。
 醤油に、ワサビと摺り下ろしたショウガも付ける。
 亜紀ちゃんは梅酒を飲み、俺と鷹はクリュッグを飲む。

 「「虎」の家族へようこそ!」
 乾杯した。

 「なんですか、「虎」の家族って」
 鷹が聞いてきた。
 俺は笑って説明する。

 「別に深い意味は無いんだよ。ただ、俺たちってちょっと秘密があるからなぁ。それを共有する仲間をそう呼んでいるんだ」
 「花岡」のことがメインだ。

 俺は、先月の国道246での事件を話す。
 鷹は当然驚いたが、意外にも早く納得した。

 「ニュースでしか知りませんが、銃とかではなかったということで」
 「そう、「花岡」だ。最後の大破壊は亜紀ちゃんだったということだな」
 「はぁー」
 「四人が怪我したのも、フェラーリ・ダンディを避けるために車を売ったのも、救済基金も、全部俺たちだ」
 「フェラーリのことは、よく分かりました。手放して落ち込まれているのは知ってましたが、その経緯は今」

 「まあ、その話はここまでな」
 「本当に大変だったんですよ。タカさんの落ち込みってどうしようもなくて」
 「うん、そうだね」
 「他の人ならタカさんが何とかするじゃないですか。でも、タカさんが落ち込んじゃったら、誰も何もできないんです」
 俺は苦笑した。





 「そういえば、前に別荘でタカさんがいじけてしまってですね」
 「おい!」
 「なんですか、それ?」
 「毎晩、屋上のガラスの部屋でタカさんのお話を聞くんですけど、ちょっとつまらなかったと言うか」
 「本当はつまらなかったのか!」
 「ごめんなさい!」
 鷹が笑っていた。

 「そうしたら、タカさんがいじけちゃって。翌朝はひどいことになったんです」
 亜紀ちゃんが、双子のウインナーを食べられたり、自分の目玉焼きに醤油をかけられたり、皇紀の味噌汁をうがいして戻したとか話した。
 鷹は大笑いしている。

 他にも、双子が家出して激怒した話などもした。
 鷹は終始笑い転げていた。

 「もう勘弁してくれ」
 「かんべんしろー」
 亜紀ちゃんが俺のモノマネをする。

 「石神先生って、本当に面白いですよね」
 亜紀ちゃんも笑っていた。
 仕方なく、俺も笑う。

 「亜紀ちゃん、石神先生はオペの最中もね、「おい、オチンチンが痒い」って言うの。今週も言いましたよね」
 「やめてくれ、鷹」
 「えぇー! どうしてですか」
 「うん。みんなの緊張をほぐすためなんだけど、何度も聞いてるのに毎回おかしいのよ。だからみんな笑うの」
 「アハハハハ!」




 鷹が身欠きにしんを食べた。

 「私、身欠きにしんって大好きなんです」
 「そうかよ。俺も好物なんだ。つまみに最高なんだよな」
 「いーなー。私もお酒を飲んでみたいなー」
 俺と鷹は目を合わせた。
 頷く。

 「亜紀ちゃん、ちょっとだけだぞ」
 俺はシャンパングラスを持って来て、亜紀ちゃんにクリュッグを注ぐ。

 「身欠きにしんを一口食べてから、シャンパンを飲んでみろ」
 亜紀ちゃんは言われた通りにする。

 「あ!」
 俺と鷹は笑う。

 「いいか! 絶対に俺の許可なく酒を飲むなよ! 絶対だからな!」
 「はい!」
 まあ、亜紀ちゃんなら大丈夫だろう。
 ちゃんと俺にねだってからになる。

 「じゃあ、飲ませていただいたお礼にもう一つお話を」
 「なになに?」
 「タカさんって、すぐにオッパイを触るんですよ!」
 「おい! 礼になってねぇだろう!」
 「アハハハ」

 「アヴェンタドールって買ったじゃないですか。アレが来た日には、もう物凄い上機嫌で」
 「ああ、分かる」
 「それで助手席のシートベルトを締める時に、毎回オッパイを揉むんですよ!」
 「やめてくれ」
 「あ、私もやられた!」
 「ね!」
 
 亜紀ちゃんは話しながら身欠きにしんを食べ、クリュッグで流し込む。
 美味しい、と言う。

 「あの、この家ってオッパイが流行ってるんですか?」
 「なんだよ、それ」
 「さっきも双子ちゃんからオッパイのお話ばかりで」
 「なんだ?」
 「すごかったですよ。石神先生がお付き合いしている女性のいろんなデータがまとめられてて。その中に「巨乳指数」ってあって」

 「あいつらー」

 「7人のうち二人だけ巨乳指数が高くて、他は低いって」
 俺は赤面したと思う。

 「でも、他のデータでは、石神先生が巨乳好きだと断定してました」
 「おい、他のデータってなんだよ」
 「隠してるエッチなDVDだそうです」

 「なんだとぉー!」

 二人が大笑いしていた。

 「ぜ、全タイトルが入ってましたよ、数百本」
 鷹が笑いながら言った。

 「タカさん、何やってんですか」
 亜紀ちゃんが同じく笑って言う。

 「俺だって、そういうのはあるんだよ。別にいいじゃないか」
 二人はまた可笑しそうに笑った。

 俺も笑った。

 「俺はイヤラシー男なんだぁ!」




 「そういえば」
 「なになに?」
 「前に双子がタカさんのことを突然、「イヤラシー大王」って言ってたんですよ」
 「あー、言ってたな!」

 「謎が解けましたね!」

 「そうだな!」





 俺たちは遅くまで楽しく話した。 
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