357 / 2,840
鷹、丹沢。
しおりを挟む
夕食はフレンチにしている。
細かく刻んだ貝類とウニを卵白のムースに絡めたもの。
薄くスライスした蒸しアワビ、キャビア乗せ。
ポタージュ・クレソニエール。
伊勢海老のポワレ、西洋ナシソース。
牛タンのブレゼ、ワサビ醤油ソース。
バナナシャーベット。
本来はコースにするべきだが、そうすると俺が食べられない。
2回に分けて、一編に出した。
各々の皿に盛るので、争いはない。
まあ、子どもたちの盛り付けの量は多いが。
伊勢海老は三本。
牛タンは800グラムだ。
ポタージュは寸胴で、パンも大量にある。
遠目に見れば、フレンチを美味しくいただいている光景に違いない。
多分。
そうであって欲しい。
ぶっ飛ばすぞ。
子どもたちは無言で懸命に食べている。
鷹も満足してくれているようだった。
酒にそれほど強くないという鷹のために、クリュッグのロゼを開けた。
俺は飲まない。
「このシャンパン、美味しいですね!」
「そうだろう? シャンパンが嫌いな人間でも、これだけは飲む、というな」
「へぇー、よく分かります」
「ところで、鷹。ルーとハーは失礼なことをしなかったか?」
「はい。楽しくお話しさせていただきました」
鷹と双子はアイコンタクトで笑った。
まあ、仲良くなったようで良かった。
「こいつらなぁ。前に一江を丸裸にしたんだぞ」
「えぇー!」
「なんだっけ? ちっぱい同盟の入所式だとか言ってな」
「はい?」
「たまたま部屋に入ったら見ちまった。食欲なくしたぜ」
「アハハハハ」
「なんかやられたら俺に言えよな。バツグンの呪文を教えてやる」
「ウフフ、分かりました」
双子は青くなっていた。
亜紀ちゃんがクスクスと笑っていた。
「そういえば皇紀! 最近彼女たちとの進展の報告を聞いてねぇな! 今言え!」
「は、はい! 夏休みに旅行に行こうと誘われてます」
「あんだと? 泊りかよ」
「一泊で、葵ちゃんの家の別荘だそうですが。ご家族と光ちゃんと」
「こいつなぁ、二人の女の子と付き合ってんだよ」
「えぇー! さすが石神先生のお子さんですね」
「いや、よく意味は分からんが。なんでなんだかよくモテる。他の女の子からも声を掛けられたり、ラブレターなんか持ってくるよな」
亜紀ちゃんが笑っている。
「ああ、亜紀ちゃんもモテるらしいんだが、最近あんまり聞かないな」
「はい。彼氏がいるって言ってますから」
全員が俺を見る。
「なんだ、お前らぁ!」
みんなが笑う。
「ルーとハーはまだこれからだよな」
「彼氏がいるからいーです」
「タカさん以上の男はいないからいらないです」
「お前ら、もっと喰えー!」
またみんなが笑った。
夕食を終わり、俺は鷹をドライブに連れ出した。
「楽しい夕食でした」
「そうか。まあ騒がしい部類だけどな」
鷹が微笑む。
「一人で食べていると、ああいう賑やかな食事が嬉しいです」
「そうだな。最初は俺もそう思った」
「今は?」
「ゆったりと喰うと幸せを感じるな」
鷹が声を出して笑った。
「笑うけどなぁ。鷹との夕食はだから有難かったんだぞ」
「そう言っていただけると」
「これからも時々頼むな」
「はい、もちろん」
俺は買い取った丹沢の土地に向かっていた。
「フェラーリ、ちょっとしか乗れませんでした。残念です」
「その話はやめて。まだ胸が痛むんだ」
「あ、ごめんなさい!」
俺は笑った。
「冗談だと言いたいんだけどな。本当だ。俺自身も、あんなにショックを受けるとは手放すまで分からなかったよ」
「でも、このアヴェンタドールが来てくれた。あの悲痛は無駄ではなかったな」
「東京」の景色が終わり、畑と山ばかりになっていく。
「ロマンティックな場所ではないんだけどな。ああ、星は綺麗だよ」
俺は丹沢の土地について話した。
栞の弟の事件以来のことは、鷹にも概略は話している。
今後は鷹も標的にされる可能性があるからだ。
「少しずつ、自衛の力を持って欲しいと考えている。今日は、その紹介って感じだな」
「はい」
1時間もかからずに着く。
ある登山口に車を停めた。
俺は鷹を抱きかかえた。
「歩くと時間がかかるからな」
俺は道を通らずに、林の中を疾走した。
15分で到着する。
「大丈夫か?」
「は、はい。驚きました」
「これも、これから鷹に覚えてもらう技の一つだ」
周辺には街灯はない。
真っ暗だ。
開けた場所に、月明かりが照っている。
俺は適当な岩に鷹を腰かけさせた。
「ここなんですね」
「そうだ」
しばらく、無言でいた。
俺は鷹を座らせたまま、舞う。
足元は暗いが、関係ない。
徐々にスピードを上げ、10メートルも飛んで、地上で突きや蹴りを放つ。
「きれい」
鷹の呟きが聞こえた。
俺はまた鷹を抱えて戻った。
「不思議なデートでした」
「そうだな」
「石神先生が綺麗でした」
「そうかよ」
「忘れません」
「うん」
俺たちは家に戻った。
帰りの車の中で、鷹はほとんど喋らなかった。
俺は、いつの日か、高く飛ぶ鷹の姿を見たような気がした。
細かく刻んだ貝類とウニを卵白のムースに絡めたもの。
薄くスライスした蒸しアワビ、キャビア乗せ。
ポタージュ・クレソニエール。
伊勢海老のポワレ、西洋ナシソース。
牛タンのブレゼ、ワサビ醤油ソース。
バナナシャーベット。
本来はコースにするべきだが、そうすると俺が食べられない。
2回に分けて、一編に出した。
各々の皿に盛るので、争いはない。
まあ、子どもたちの盛り付けの量は多いが。
伊勢海老は三本。
牛タンは800グラムだ。
ポタージュは寸胴で、パンも大量にある。
遠目に見れば、フレンチを美味しくいただいている光景に違いない。
多分。
そうであって欲しい。
ぶっ飛ばすぞ。
子どもたちは無言で懸命に食べている。
鷹も満足してくれているようだった。
酒にそれほど強くないという鷹のために、クリュッグのロゼを開けた。
俺は飲まない。
「このシャンパン、美味しいですね!」
「そうだろう? シャンパンが嫌いな人間でも、これだけは飲む、というな」
「へぇー、よく分かります」
「ところで、鷹。ルーとハーは失礼なことをしなかったか?」
「はい。楽しくお話しさせていただきました」
鷹と双子はアイコンタクトで笑った。
まあ、仲良くなったようで良かった。
「こいつらなぁ。前に一江を丸裸にしたんだぞ」
「えぇー!」
「なんだっけ? ちっぱい同盟の入所式だとか言ってな」
「はい?」
「たまたま部屋に入ったら見ちまった。食欲なくしたぜ」
「アハハハハ」
「なんかやられたら俺に言えよな。バツグンの呪文を教えてやる」
「ウフフ、分かりました」
双子は青くなっていた。
亜紀ちゃんがクスクスと笑っていた。
「そういえば皇紀! 最近彼女たちとの進展の報告を聞いてねぇな! 今言え!」
「は、はい! 夏休みに旅行に行こうと誘われてます」
「あんだと? 泊りかよ」
「一泊で、葵ちゃんの家の別荘だそうですが。ご家族と光ちゃんと」
「こいつなぁ、二人の女の子と付き合ってんだよ」
「えぇー! さすが石神先生のお子さんですね」
「いや、よく意味は分からんが。なんでなんだかよくモテる。他の女の子からも声を掛けられたり、ラブレターなんか持ってくるよな」
亜紀ちゃんが笑っている。
「ああ、亜紀ちゃんもモテるらしいんだが、最近あんまり聞かないな」
「はい。彼氏がいるって言ってますから」
全員が俺を見る。
「なんだ、お前らぁ!」
みんなが笑う。
「ルーとハーはまだこれからだよな」
「彼氏がいるからいーです」
「タカさん以上の男はいないからいらないです」
「お前ら、もっと喰えー!」
またみんなが笑った。
夕食を終わり、俺は鷹をドライブに連れ出した。
「楽しい夕食でした」
「そうか。まあ騒がしい部類だけどな」
鷹が微笑む。
「一人で食べていると、ああいう賑やかな食事が嬉しいです」
「そうだな。最初は俺もそう思った」
「今は?」
「ゆったりと喰うと幸せを感じるな」
鷹が声を出して笑った。
「笑うけどなぁ。鷹との夕食はだから有難かったんだぞ」
「そう言っていただけると」
「これからも時々頼むな」
「はい、もちろん」
俺は買い取った丹沢の土地に向かっていた。
「フェラーリ、ちょっとしか乗れませんでした。残念です」
「その話はやめて。まだ胸が痛むんだ」
「あ、ごめんなさい!」
俺は笑った。
「冗談だと言いたいんだけどな。本当だ。俺自身も、あんなにショックを受けるとは手放すまで分からなかったよ」
「でも、このアヴェンタドールが来てくれた。あの悲痛は無駄ではなかったな」
「東京」の景色が終わり、畑と山ばかりになっていく。
「ロマンティックな場所ではないんだけどな。ああ、星は綺麗だよ」
俺は丹沢の土地について話した。
栞の弟の事件以来のことは、鷹にも概略は話している。
今後は鷹も標的にされる可能性があるからだ。
「少しずつ、自衛の力を持って欲しいと考えている。今日は、その紹介って感じだな」
「はい」
1時間もかからずに着く。
ある登山口に車を停めた。
俺は鷹を抱きかかえた。
「歩くと時間がかかるからな」
俺は道を通らずに、林の中を疾走した。
15分で到着する。
「大丈夫か?」
「は、はい。驚きました」
「これも、これから鷹に覚えてもらう技の一つだ」
周辺には街灯はない。
真っ暗だ。
開けた場所に、月明かりが照っている。
俺は適当な岩に鷹を腰かけさせた。
「ここなんですね」
「そうだ」
しばらく、無言でいた。
俺は鷹を座らせたまま、舞う。
足元は暗いが、関係ない。
徐々にスピードを上げ、10メートルも飛んで、地上で突きや蹴りを放つ。
「きれい」
鷹の呟きが聞こえた。
俺はまた鷹を抱えて戻った。
「不思議なデートでした」
「そうだな」
「石神先生が綺麗でした」
「そうかよ」
「忘れません」
「うん」
俺たちは家に戻った。
帰りの車の中で、鷹はほとんど喋らなかった。
俺は、いつの日か、高く飛ぶ鷹の姿を見たような気がした。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる