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ずっと君のオッパイを。

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 木曜日。
 6時間のオペをこなした。
 いつもながら、鷹に助けられ、スムーズに術式は終わる。
 午前10時から始め、今は夕方の4時だ。
 まだ空は明るい。

 俺たちは十人のスタッフと共に、大分遅めの昼食を摂った。
 病院内の食堂では、事前に頼んでいた太刀魚のかば焼き丼が用意された。

 「美味しいですね、これ!」
 「太刀魚のかば焼きなんて、初めて食べましたよ!」
 みんなが喜んでくれる。

 「いいだろう? ウナギと違ってしつこくなくて、別の旨味があるんだ」
 「これは石神先生が用意して下さったんですか?」
 「ああ、材料と一部の調理法はな。でも実際にワガママを聞いて作ってくれたのは、岩波さんたちだ」
 全員が厨房の岩波さんたちに一斉にお礼を言う。

 「石神先生は、よくこうやってオペを手伝った人間に食事を振る舞われますよね」
 鷹が言った。

 「ああ。やっぱり世話になったら礼をしたいよな」
 「そんな先生、他にいませんよ」
 「俺はしたいんだよ」
 石神先生、サイコー! と誰かが言った。
 俺は笑って手を振った。
 俺は先に喰い終わり、食器を下げながら岩波さんたちに礼を言った。

 「おい! まだご飯はたくさんあるし、かば焼きも残ってるからな! 腹いっぱい食べてくれ!」
 『ごちそうさまです!』
 俺はコーヒーを飲みに外へ出た。
 食堂のものではなく、本格的なコーヒーが飲みたかった。
 近所に美味い店がある。

 外壁に蔦のからまった、喫茶店に入る。
 俺がマスターと世間話をしていると、鷹が入ってきた。

 「やっぱりここだったんですね」
 「なんだ、お前も来たのか」
 鷹はブレンドを頼み、俺と同じテーブルについた。

 「今週もうちにいらっしゃいますか?」
 毎週のように、鷹のマンションに泊まっていた。

 「いや、随分とお邪魔しちゃったからな。今週からはいつも通り家にいるよ」
 「そうですか。私は来て欲しいので、残念です」
 「また行くよ。毎週じゃないけど、絶対にな。当たり前だろう」
 鷹が嬉しそうに笑った。

 「あーあ、また独りで食べるのかー」
 「なんだよ、いつも通りのことじゃないか」
 「でも先生、自分のために食事を作るのって虚しくありませんか?」
 「辰巳芳子さんが言ってたよ。それが料理の真理だってな」
 「どういうことですか?」
 「命を養うことが食事の根本だってさ。家族を喪い一人残った時に、それを悟られたそうだ。やはり偉大な方だよなぁ」

 「辰巳先生って、実家にも来ていただくんですけど、みんな怖がってますよ」
 「ああ、あの方の指導は厳しいからな。前に一度厨房の器具なんかを見せていただいたけど、素晴らしい管理よな。あれは道具屋もできるよ」
 「石神先生だって、飼育員としてやってけるんですよね」
 鷹は前に話したことを言った。
 「そして私はエサ係。そうなったら幸せですよねー」
 二人で笑った。

 挽き立てのコーヒーの良い香りがした。

 「折角石神先生の胃袋を掴もうと思ってたのに」
 「フリッツ・フォン・エリックかよ」
 「? でも先生はご自分でも美味しいものを作れるし、私なんかよりも美味しいものを一杯知ってますよね」
 「そうでもないけどな。俺は鷹の料理は大好きだよ」
 「ウフフフ」

 「ああ、じゃあうちへ泊りに来いよ。今度は俺がご馳走しよう。洋食というか、肉だけどな」
 「いいんですか!」
 「もちろんだ。散々世話になったんだからなぁ」
 マスターがコーヒーを持って来た。

 「お砂糖はいりませんかね?」
 三人で笑った。


 



 亜紀ちゃんに、土曜日に鷹が来ることを伝えた。

 「分かりました。でも、今週は栞さんも来るんじゃないですかねー」
 「あ、うん。別にいいじゃないか?」
 「でも、あの二人って結構競り合うというか」
 「ああ。大丈夫だよ。栞だって、こないだの一件でいい加減嫉妬は抑えるだろうよ」
 亜紀ちゃんは不安そうだったが、何も言わなかった。

 「じゃあ、金曜日の夜は「映画鑑賞会」再開ですかね!」
 「そうだな!」
 「何か、楽しいことづくめですね!」
 「そうだな!」
 「じゃあ、今日は一緒にお風呂に入りましょうね!」
 「ダメだな!」
 「えぇー!」
 亜紀ちゃんは文句を言う。

 「ノリで一緒に入るか!」
 「いいじゃないですか! オッパイ触っていいですよ!」
 「それがダメなんだぁ!」
 「こないだは、私が嫌がるほど触ったのに」
 「おい、それを他の人の前で言うなよ?」
 「どーでしょーねー」

 「栞には絶対にな!」
 「ああ」
 「もう、こないだみたいなことは絶対に御免だ」
 「まあ」
 「またアヴェンタドールと別れたら、俺は立ち直れん」
 「どーしよーかなー」
 「頼む、何でもするから」
 「それじゃぁ!」

 結局一緒に入った。
 まあ、間違いは起こらないが。




 亜紀ちゃんは俺の背中と髪を洗った。
 俺も亜紀ちゃんの髪を洗ってやる。
 うちは美容室に卸している「ミルボン」のシャンプーとトリートメントを使っている。
 前に株主優待で送ってもらったものを気に入ったのだ。
 特別なルートで仕入れていた。

 「タカさんに髪を洗ってもらうの、好きです」
 「そうかよ」
 亜紀ちゃんは身体を隠さない。
 まあ、欲情するわけでもないからいいのだが。
 洗い終わり、二人で湯船に浸かった。

 「タカさんって、オッパイお好きですよね」
 「男はみんなそういうもんだろう」
 「女だから分かりません」
 「そりゃそうか」

 「また温泉に行きましょうよ!」
 「そうだなぁ」
 「こないだのホテルは素敵でしたねぇ」
 「ああ」
 「あれ、なんか乗って来ないですね?」
 「やっぱり娘と裸で一緒に入るのはなぁ」

 「タカさんって、常識破りが売りじゃないですか」
 「お前! バカなことを言うな」
 「何人もの女性と付き合って」
 「おい!」
 「普通は修羅場になるのに全然平気で」
 「……」

 「えーと、私でしょ? それに栞さん、六花さん、響子ちゃん、鷹さん、緑子さん、ああ柳さんもこれから」
 「あのなぁ」
 「お休み、ないですね」
 「いつの間に!」

 「それでどのオッパイが好きですか?」
 「断然、亜紀ちゃんだな!」
 「エヘヘヘ」
 「ほら、いいですよ!」
 俺は笑って相手にしない。


 どぶろっくの『僕なりのプロポーズ』を歌った。


 ♪僕は君のオッパイを 一生君のオッパイを ずっとずっと揉み続けていたいんだー♪













 亜紀ちゃんは大笑いした。
 奈津江も笑って見ているような気がした。
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