上 下
353 / 2,840

アヴェンタドール Ⅲ

しおりを挟む
 日曜日の朝。
 俺はドゥカティに乗るためにガレージに行った。
 手前に停まっているアヴェンタドールを見て、手を振ってやり、ニヤつく。
 バカと言われてもいい。
 まあ、殴るが。

 「シザードアって言うんだってな! ガルウィングと間違えててゴメンな。夕べマニュアルを読んで分かったよ」
 俺は話しかけている。

 「お前のことは一通り分かったから。これからも宜しくな!」
 俺はドゥカティを出し、六花のマンションへ向かった。

 時間通りに着くと、六花は既にマンション前で待っていた。
 俺の姿を見つけ、遠くから手を振っている。
 カワイイ奴だ。

 「おはようございます! 今日はどこへ行きましょうか?」
 「そうだな。すっかり乗ってやらなかったからな。また横須賀まで行ってみるか?」
 「いいですね! 行きましょう!」
 六花が嬉しそうに笑った。
 久しぶりに、美しい笑顔を見た。
 
 「ちょっと待て」
 俺は六花のヘルメットを脱がせる。
 六花は、驚いて俺の顔を見ている。
 六花にキスをした。
 赤くなっていた。

 「なんだよ、何度もしてるだろう」
 「でも」
 俺は笑って、もう一度キスをした。
 六花も俺に手を回し、抱きしめてきた。

 「よし、行くぞ!」
 「はい!」
 俺たちは首都高を疾走し、湾岸線に入った。
 太陽を反射した海面が美しい。
 六花が指さし、俺はウイリーで応えた。
 駐車場でバイクを停め、ドブ板の店に入る。



 俺は事件後の自分の嫌な態度を謝った。

 「そんな! 私たちが悪かったんです。本当にすみませんでした」
 「いや、自分でやっておきながら、フェラーリのことで勝手に落ち込んでいた。俺は他の人間が落ち込むのを許さないくせに、誰も俺を責めないのをいいことに、いじけていた。本当に済まない」
 「じゃあ、今日はハンバーガーをおごってください」
 「おい、いつも俺が出してるじゃないか」
 「いつもがいいんです」
 そう言って、六花は笑った。
 眩しい笑顔だった。
 六花はよく食べた。
 少し痩せたかもしれない。
 俺はもっと喰えと言った。

 「そういえば昨日の車」
 「ああ、アヴェンタドールな!」
 「それです。というか、あの車について何も伺ってないんですが」
 「あ、そうだったか! あれはなぁ……」
 俺は詳しく話してやった。
 経緯は簡単に、車の性能は詳細に。

 「随分と気に入られたんですね」
 六花が笑ってそう言った。
 俺はどこが気に入ったのかと、また詳細に話す。

 「またベンツちゃんが寂しがってますね」
 「え、お前、それはだな」
 「フェラーリちゃんは泣いてると思います」
 「か、勘弁してください」
 痛いところを衝かれた。

 「ドゥカティちゃんなんて、今自分に跨っているくせにと言っています」
 「おい」
 「証明してください」
 「だからなぁ」
 「私のこともちゃんと愛してるって、証明してください」
 「車の話じゃ」
 「お願いです」
 「分かりました!」

 俺たちはホテルに入った。
 2時間で数十回も六花は逝った。
 久しぶりの六花の身体は、俺も蕩けさせた。
 
 「石神先生」
 「なんだ」
 「証明し過ぎです」
 「そうですか」
 帰りは危ないので、ゆっくりと走った。






 家に戻り、もう夕方になっていた。
 俺は鷹に電話をする。
 事件以降、鷹のマンションには毎週泊っていた。
 落ち込んだ俺を、鷹が誘ってくれた。

 「鷹! 新しい車が来たんだ。ドライブに行こう」
 「分かりました!」
 鷹が嬉しそうな声でそう言ってくれた。
 自由が丘の料亭を予約した。
 アヴェンタドールを出す。
 近くで電話したので、鷹はマンションの前で待っていてくれた。

 「凄い車ですねぇ!」
 俺は「シザードア」を開け、鷹をシートに座らせた。
 シートベルトを締めてやりながら、オッパイを揉む。

 「!」

 「この車に乗る人間の儀式なんだ」
 鷹が笑った。



 俺は鷹に全部説明し、俺の落ち込みを詫びた。

 「そんな、私にまで気を遣わないでください」
 「いや、鷹には本当に世話になった。お前がいなかったら、もっと俺は酷いことになっていただろう」
 鷹に毎週金曜日、美味い飯をご馳走になり、そのまま泊めてもらっていた。

 「でも、私がずっと石神先生を独占できて楽しかったですよ」
 「そうかよ」
 俺は笑い、鷹の胸に触った。

 「もう! 私の胸なんかじゃつまらないでしょうに」
 「そんなことはない! 鷹のオッパイは最高だ!」
 二人で笑った。

 俺たちは京料理を楽しんだ。
 料理はもちろん良かったが、ここは器も素晴らしい。

 鷹をマンションまで送った。
 
 「今日も泊まっていかれますか?」
 「いや、明日は仕事だから今日は泊れないよ」
 鷹が寂しそうな顔をする。

 「でも、ちょっとだけ最高のオッパイを見たいな!」
 「どうぞ!」
 鷹が笑顔で俺の腕を引っ張る。






 俺は最高の「女」を愛した。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...