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アヴェンタドール Ⅱ

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 「こ、これは」
 俺は珍しく、言葉を喪っていた。
 まったくの予想外。
 誰かが、俺の心を俺以上に知っている感覚。
 俺が自分では見つけられない大事なものを、目の前に出してくれた。
 アビゲイル・ロックハートよ、俺の親友よ。

 「タカトラはしばらくフェラーリには乗らないんだろ? だったらこれで響子を連れて行ってくれ。ああ、ついでに他の有象無象もな」
 「アビゲイル……」
 「君はモンスターが傍にいないと、魅力が半減するよ。響子が悲しむじゃないか」
 「これを俺にくれるのか?」

 「ああ、すまない。本当は君には「ヴェネーノ」の方が良かったと思う。でも、我々の力では短期間では無理だった。君にこれ以上ボケた顔をして欲しくなかったからね。とにかく、これに乗って機嫌を直してくれ」
 響子に泣きつかれでもしたか。
 響子、お前もいい女だ。

 既に、書類も整えてくれていた。
 ご丁寧に車庫証明までうちのものになっている。
 俺はアビゲイルが用意してくれた説明のための人間を隣に乗せ、外へ出た。

 「ストラーダ、スポーツ、コルサ、そして自分でカスタマイズできる「EGO」の4つのモードがあります。まずは、それぞれを確認下さい」
 俺は言われたままにモードを切り替えてみる。
 素晴らしい。

 「4WDですが、比率を変えることもできます」
 その他、幾つかの説明を受けて走行した。
 Rosso Biaの美しい赤い車体がまたいい。
 内装は黒だ。
 対比がまたいい。

 しばらく走行し、大使館へ戻った。
 入り口でアビゲイルが待っていてくれ、手で早く行けと合図していた。
 俺は手を振って病院へ行く。



 まっすぐに響子の部屋へ行った。
 午睡から覚めたばかりの響子を抱き上げ、駐車場へ向かう。
 その間に六花に電話した。

 「お前! すぐに来い! スゴイぞ!」
 「え、どこへ行けばいいんですか?」
 「響子だぁ!」
 俺は興奮し、説明にならないことを話して切った。

 響子にアヴェンタドールを見せる。

 「なにこれ! カッコイイ!」
 俺は響子に頬ずりする。
 響子が喜んだ。

 「全部、お前のお陰だ!」
 「なんで? 何もしてないよ」
 「アビゲイルに俺のことを話してくれたんだろ?」
 「そうだけど、タカトラが寂しそうだって言っただけだよ」

 「そうか。それだけでこんなにも嬉しいことをしてくれるお前は最高だぁ!」
 「エヘヘヘ」
 「愛してるぞ! 響子ぉーー!」
 俺の叫びが駐車場に木霊した。
 響子が笑ってくれている。

 六花が走ってきた。
 俺の叫びを聞いたらしい。

 「石神先生!」
 「おい、これを見ろ! 響子が俺のためにくれたんだ!」
 「え、あ、はい! これですか! スゴイ車ですね!」
 六花がわけも分からず、とにかく褒めてくれた。

 「よし! お前響子を抱えろ! ドライブに行くぞ」
 「は、はい!」
 俺はガルウィングのドアを上げた。
 六花と響子が驚いている。
 二人を助手席に乗せ、シートベルトを締めてやった。
 サービスに二人のオッパイを揉んでやる。
 俺はシートに座り、エンジンをかけた。
 12気筒が唸りだす。

 六本木を悠々と走る。
 みんなが見ている。
 フェラーリの比ではない、気がする。

 「おい、気分がいいなぁ!」
 「そ、そうですね!」
 響子はニコニコと六花に抱かれていた。
 二橋を過ぎ、病院へ戻った。
 二人はとにかく俺が久しぶりに上機嫌なことに喜んでいた。

 「おい、明日はバイクで走ろうな!」
 「はい!」
 六花が笑顔で答えた。
 少し、目が潤んでいた。
 病院で響子を六花に預け、俺は家に向かった。




 栞の家の前でエンジンをふかした。
 出てこない。
 クラクションを鳴らした。
 窓から栞が顔を出した。
 俺は開けた窓から手を振って、降りて来いと合図した。
 栞の顔がはじけた。

 「石神くん」
 「乗れよ! ドライブに行こう!」
 「うん!」
 笑顔で栞はドアを引く。
 開かない。
 俺は笑って車を降り、ガルウィングの開け方を教えた。
 栞は俺に抱き着いてキスをしてきた。
 シートに座らせ、ベルトを締めながらオッパイを揉む。
 栞はうっとりとした目で俺を見て、手を重ねた。
 もう一度キスをして、俺はアヴェンタドールを動かした。

 栞は俺をずっと見ている。

 「前にさ」
 「うん」
 「皇紀に、車が神器だった時代があるって話をしたんだ」
 「うん」
 「今でも、そうだったんだなって」
 「うん」

 「栞」
 「はい」
 「愛している」
 「私も」

 俺たちは走った。
 どこへでも良かった。
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