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アルジャーノンと静江。 Ⅲ

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 翌朝。
 俺は響子と六花を寝かせたまま、そっとベッドを抜けた。
 一瞬、響子が目を覚ましたが、こいつは朝が弱い。
 無意識に俺に手を伸ばし、そのまま寝た。

 外は明るいが、まだ6時だ。
 キッチンに降りると、子どもたちも集合していた。

 「「「「おはようございます!」」」」
 「ああ、おはよう。早くからすまんな」
 「いいえ、タカさん。じゃあ、始めましょうか!」
 亜紀ちゃんが元気よく言った。
 今朝は純和食にするつもりだ。
 もちろん、静江さんのためだ。
 いままで日本的なものを避けて来られた静江さんのために、できるだけやりたい。

 黒豆はいい感じに仕上がっている。
 数日前から仕込んだ。
 銀鱈の西京焼き。
 根野菜の炊合せ。
 白子の梅しそ和え。
 納豆。
 瓜の浅漬け。
 鱧の吸い物。
 そしてうちの定番の御堂家のタマゴだ。
 いつもより時間がかかるので、子どもたちも総動員して作る。

 出汁のいい香りがする。

 皇紀が、龍村のテーブルセンターをランチョンマット代わりに敷き、漆塗りの膳を並べていく。
 出来上がった料理を並べるのも皇紀だ。
 俺が大半のカットを担当し、亜紀ちゃんが吸い物と全体の味付けを。
 双子は俺たちのフォローを担当した。
 洗い物も双子だ。

 8時に朝食だと言っておいたので、アルジャーノンと静江さんが降りてきた。

 「「「「おはようございます!」」」」
 「「おはようございます」」

 「ゆっくり眠れましたか?」
 「ああ、久しぶりに寝た気がするよ」
 アルジャーノンが、そう言ってくれた。

 「素敵な食卓ですね」
 静江さんが微笑んで言う。

 「アルには申し訳ないのですが、今日は静江さんのために、和食にしました」
 「ありがとうございます」

 お二人を席に案内する。
 今日は窓側に並んで座っていただく。
 亜紀ちゃんにお茶を煎れてもらい、俺は響子と六花を起こしに行った。
 六花は、眠そうな響子の世話で苦労していた。

 「響子、早く服を着なさい」
 「お前もな!」
 六花は裸のままだった。
 俺に抱き着いて来るので、軽くキスをして支度をさせる。
 響子はパジャマのままでいい。
 顔だけ洗わせた。
 響子を抱き上げ、六花を連れて、リヴィングへ降りた。

 「キョーコ、おはよう!」
 「おはよう」

 アルジャーノンたちに声をかけられ、響子が笑顔になる。
 俺は響子を二人の間に座らせた。
 反対側に子どもたちと六花を。
 俺はいつもの席だ。

 「それでは、いただきます!」
 「「「「いただきます!」」」」

 アルジャーノンは、それほど戸惑ってはいない。
 和食もある程度は慣れていることは、夕べの箸の使い方でも分かっていた。

 「日曜日の朝食は、うちでは「タマゴかけご飯」となっているんです。親友の家から送ってくれる美味しい卵があるので」
 俺は説明し、卵を割って実演した。

 「静江さん、ちょっと下品なんですが、美味しいですよ」
 静江さんは笑顔で、タマゴかけご飯を作った。
 亜紀ちゃんが、アルジャーノンのために、黄身だけ器に入れ、醤油で味を調えてやった。
 響子の分も亜紀ちゃんがアルジャーノンと同じように作る。

 アルジャーノンは、恐る恐る口にする。

 「美味しい!」
 「本当に美味しいわ」
 二人が喜んでくれた。
 静江さんが黒豆を食べ、微笑んでいた。

 「黒豆はお好きですか?」
 「はい。響ちゃんの好物でした」
 響子は二人を時々見ながら、嬉しそうに笑っていた。
 納豆も好きなのだと、食べて見せている。
 静江さんが、響子の頭を撫でながら、話しかけていた。
 アルジャーノンも、納豆以外はすべて食べた。
 吸い物は絶品だと褒めてくれた。




 10時には二人は帰って行く。
 朝食後はソファで三人にし、時間が来るまで話してもらった。
 俺は土産に龍村の帯や敷物、また響子を撮影したデータをディスクに焼き、渡した。
 
 「これは響子とは別なデータが入っています」
 「分かった」
 ハードディスクをアルジャーノンに渡した。
 亜紀ちゃんが残った黒豆をタッパーに入れて持って来た。

 「こういう食べ物も大丈夫ですか?」
 「大丈夫だ。ありがたくいただくよ」
 静江さんが頭を下げられた。



 

 迎えのリムジンが来た。
 SPも集まっている。
 俺は響子だけを連れ、四人で門に向かう。

 「タカトラ、本当に世話になった。楽しかった。ありがとう」
 「お世話になりました。響子のことを、よろしくお願いいたします」
 「こちらこそ。楽しい夜でした。機会があれば、また是非いらしてください」

 俺たちは握手をして別れた。
 響子は二人と少しばかり話し、キスをした。

 何台もの車が遠ざかっていく。
 俺は響子を抱き上げ、見えなくなるまで見送った。




 響子はやはり泣いた。
 俺の首にしがみつき、声を出さずに泣いていた。

 「響子、俺も六花も、もう親はいねぇ」
 「……」
 「アルジャーノンも静江さんも、まだまだ元気そうだ。また会えるさ」
 「うん」

 「世界で一番大事な娘なんだからな。絶対に何度も会いに来る」
 「うん」
 「それに響子はこんなにカワイイんだからなぁ!」
 「ウフフ」

 「お、もう笑ったか」
 「うん」

 「じゃあ、今日は何して遊ぶ?」
 「タカトラの好きなものでいいよ」
 「今日の響子は優しいなぁ」
 「エヘヘ」
 「じゃあ、みんなで人生ゲームでもするか!」
 「うん」

 今日は人生の勉強だと言い、子どもたちを集めて人生ゲームをした。
 俺と響子が組みになり、遊んだ。
 皇紀が見事に最悪の展開を見せ、破産してみんなを笑わせた。
 スゴイ能力だと思った。






 俺と響子はまた13人の子どもを作った。
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