富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ロックハート夫妻、来日。

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 月曜日 朝7時。

 アビゲイルから電話が入った。
 アビゲイルに渡された、特別なスマートフォンだ。
 衛星回線を利用し、暗号化が徹底的になされる仕様だ。
 内容はもちろん、ロックハート夫妻の来日についてだった。

 「二人は、君の家に行きたいと言っている」
 「それは難しいんじゃないのか?」
 「警備については、話はついているんだ」
 「どういうことだ」

 「我々の友人から、確実な保証が取れたんだよ」
 「誰だよ」
 「ターナー少将だ」
 「なんだって!」
 驚いた。

 「アイアン(鉄の)・ターナーと言って、有名な人物だよ。そして我々一族と非常に親しい。知らなかっただろう」

 アビゲイルの話によると、ロックハート一族の軍方面での有力なコネクションだそうだ。
 定期的に連絡を取る中で、ある日本人の話が出たらしい。
 アビゲイルが俺と結びつけたのは、意外に早かったようだ。

 「ヨコスカで君と再会したとことからだな。バイクの名前を聞いて、タカトラじゃないかとすぐに思ったよ。「タイガー」は決定打だった」
 アビゲイルは笑っていた。

 「ターナー少将は君であれば、あらゆる事態に対応できると言っていた」
 「俺はSPなんてやったことないぞ」
 「大丈夫だろう。我々だって構えているし、そもそも一族を狙う問題は、ほぼ解決している」
 まあ、実際問題MBTが来ても大丈夫だけどなぁ。

 「分かった。それで俺はどうしたらいい?」
 「君の好きなようにして構わない。君がいつもやっている「パーティ」でいいよ。楽しそうだしな。ああ、食材は全部こちらで用意するから」
 「ほんとか!」

 「もちろんだ。本来料理人を回すところだが、君の家は必要ないと判断している。キョーコが何度も行っているからな」
 毒殺などの警戒は必要ない、ということだ。

 「分かった」
 「じゃあ、今週の土曜日に。一泊で頼む」
 「アビーも来ればいいじゃないか」
 「大使館に詰めてるよ。一応不測の事態にも、対応できるようにしなければならん」
 「そうか、残念だ」
 「私もだ」

 詳細を確認し、電話を切った。
 しかし、年寄りはどうしてこんな朝早くに電話したがるのか。






 午後に響子の部屋に行くと、ニコニコして俺を待っていた。
 一応、口に指を立てて、あの話はするなと合図した。

 「楽しみだなぁ!」
 「そうだね!」
 それだけで通じる。
 うちに来るのはロックハート夫妻、響子、六花だ。
 六花は今から緊張していた。
 俺にしきりに挨拶の仕方を聞いて来る。

 紙に書いて、暗記するように言った。
 一応、一江に添削してもらった。
 幾つも赤が入った。
 面目ない。

 六花が、何を着て行けばいいのか聞いて来る。
 俺は幾つかの候補を上げ、自分で選べと言った。

 六花が、何を話せばいいのかを聞いて来る。
 俺は響子のカワイイ所を話せと言った。

 六花が、話は日本語でいいのかと聞いて来る。
 俺は静江さんが伝えてくれるから大丈夫だと言った。

 六花が、お風呂で……

 「うっとうしいな、お前はぁ! お前が何をやっても俺が何とでもするから、思ったようにやれ! お前は俺のオチンチンでも触ってろ!」

 六花は涙目になって俺を見ていた。
 放っておく。





 夕方に、アビゲイルの使いの人間が来た。

 「食材を伺うように言われました。その他、何かありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
 ミラーという若い女性だった。
 俺は遠慮なくA5ランクのすき焼き用の牛肉を40キロと、松坂牛のステーキ肉を10キロ、その他の食材を細かく伝えた。
 念のために紙に書いていく。

 「すき焼き用は、霜降りと赤身と半々でお願いします。神戸和牛がいいですね。もしも伝手がなければ、「梅田精肉店」に私の名前を出せば大丈夫ですよ」
 「随分とお肉に拘りがあるんですね」
 「今回、最も重要なポイントです」
 「それに量が多いような気が」

 「うちは普段は20キロです。あっという間です。足りてないんです。子どもたちが泣くんです。アビゲイル氏のお陰で、うちのライオンたちが死なずにすみます」
 ミラー女史は笑ってくれた。

 「分かりました。必ずご用意します」
 「良ければ、あなたもいらっしゃいませんか?」
 声を出して笑い、そうしたいが今回は遠慮すると言った。
 俺たちは握手して別れた。

 帰り際に、響子の病室に寄った。
 六花もいる。

 「楽しみだなぁ!」
 「そうだね!」
   
 それが俺たちの挨拶になった。
 俺は六花と一緒に帰る。
 マンションに上がり、六花はコーヒーを淹れてくれた。

 「いいか、最初の掴みが重要だ」
 「はい」
 俺は六花にある手順を教えた。

 「それなら、できそうです!」
 「あとはお前はニコニコしてりゃ、それだけで十分な美人だからな」
 「そんなぁ」
 「静江さんは日本人なんだから、静江さんに話しかけてりゃいいんだよ。まあ、お前は黙ってた方がいいと思うけどなぁ」
 「なんでですか?」
 「間違っても自分の趣味とか言うなよ! ああ、趣味はと聞かれたらバイクだと言え!」
 「分かりました」

 「他にはどんなご趣味が?」
 「はい、DVD鑑賞とか」
 「どのようなジャンルですか?」
 「最近もっぱらアナル責めとオシッコ系が」
 俺は頭にチョップを入れた。

 「だからぁ! 趣味はバイクだけだと言え!」
 「は、はい、分かりましたぁ」

 「あの石神先生」

 「あんだよ」

 「お風呂が沸きました」
 「お前、いつの間に!」

 六花は俺と一緒にリヴィングに来て、どこにも行ってない。
  キッチンのコントロールパネルを指さしている。

 「全自動でした」

 最近発見したらしい。

 「最近もっぱらアナル責めとオシッコ系が」
 「まずはちゃんと見てからだぁ!」







 二人で前祝いをした。
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