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ウインナー、なし!

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 フェラーリが大破した翌日の日曜日の朝。
 ウンコが鳴っている。

 「おう! ジョウジは堪能したか?」
 「お前ぇ!」
 斬はドスの利いた声で叫んだ。

 「あ、調理法をメモするのを忘れてたな! ちゃんと食べられたか?」
 「お前! あれはなんなんだ!」
 「だからジョウジだって。そう自分で喋ってなかったか?」
 「ふざけるな! 危うく若死にするところだったわ!」
 もう90歳に近いだろう。

 「そうか、美味しくいただけたか」
 「あれが何なのか教えろ」
 「教えると思うか?」
 俺は大笑いした。
 いままでの立場が逆転している。

 「殺すぞ!」
 「やってみろ、時代遅れの元祖!」
 俺たちはしばらく罵り合った。

 「交換条件じゃ」
 「なんだ、言ってみろ」
 「「花岡」の技をすべて教える」
 「大きく出たな」
 「だから教えろ」
 「信じられねぇな」
 「わしは今までお前にウソを言ったことはない」
 確かにそうだった。
 はぐらかしたり、黙ってはいても、少なくともウソは無かった。
 まあ、それでも信用はできねぇが。

 「そんなこと言われてもなぁ。ほら、俺ってあっさり「花岡」超えちゃったじゃない」
 「こんのぉ!」
 「だからそんな話じゃ無理よ」
 「お前が超えただと? ふん、「花岡」を何も知らんくせに」
 「まあ、序盤の下らん場面はどうでもいいんだよ。俺は最終回まで見ちゃってるんだ。今更、興味はねぇなぁ」
 「「虚震花」の新技か。あれが究極だとでも?」
 本音が引き出せた。



 「俺とじじぃの仲だ。まあ、ちょっとだけ教えてやってもいい」
 「本当か!」
 「俺はお前にウソを言ったことはねぇ」
 「それがウソだぁ!」
 斬がいきなり本気で怒鳴りやがった。

 「まあ聞け。あのジョウジは「花岡」の技が通じなかったろ?」
 「そうじゃ。どうして通じない」
 「俺の親しい研究機関が開発したんだよ。おまえんちって、日本中から嫌われてるじゃん。昔から対抗手段はみんなで仲良く考えてたんだよな」

 「なんだと!」

 「長いことかかったけど、ようやくな。昔やった動物実験で悪いが、お前にプレゼントしてやった。もう完成したから、隠す必要もねぇ」

 「……」

 「そういえば、ちゃんとジョウジは無事なんだろうな?」
 「「虎徹」がへし折れたぞ」
 「それでジョウジは?」
 「真っ二つじゃ。二本目の「虎徹」でな」
 「お前、やっぱいいもん持ってんだなぁ」
 凄まじい剣技だ。
 巨大ゴキを正面から斬り裂いたのか。

 「庭にジョウジを埋めてやってくれ。今度遊びに行った時に弔いたいからな」
 「ふん!」
 「交換条件については、また連絡する。ああ、栞の弟は元気か?」
 「「業(かるま)」か。あいつのことはわしも知らん。外人部隊は辞めておる」
 「そうか」

 俺は電話を切った。






 まだ、朝の七時だ。
 年寄りは早起きだ。
 トイレに行って、もう一度寝よう。
 亜紀ちゃんが、丁度ドアを開けて出てきた。

 「おはようございます」
 「ああ、おはよう。腹は平気か?」
 亜紀ちゃんはパジャマをまくって見せてきた。
 うっすらと青いが、ほとんど治っている。
 凄まじい回復力だ。
 常人ならば、内臓破裂している蹴りだった。

 「パンツも降ろせ」
 「ヘッ?」
 「冗談だ!」
 亜紀ちゃんはパジャマの下にかけた指を外す。
 赤くなっている。
 俺は笑って、亜紀ちゃんを抱きしめた。

 「悪かったな。本気で蹴った」
 「いえ、そんな」
 俺は亜紀ちゃんの手を引き、双子の部屋へ入る。
 まだ寝ている。
 俺は口元に指を当てて、静かにするように亜紀ちゃんに合図した。

 「ぱらのーまる」

 双子が苦しみ出した。
 亜紀ちゃんは笑いを堪えている。
 俺はハーのベッドに行き、揺り起こした。
 ルーも同様にする。

 「あ、タカさん!」
 「おはようございます」
 「どうだ、身体は平気か?」
 「「うん!」」
 「昨日は思い切り蹴ったからな。大丈夫で良かった」
 「「ごめんなさい」」
 俺はハーを抱いて、ルーのベッドで抱きしめてやる。

 「なんかね、コワイ夢を見てたの」
 「そうか。どんな夢なんだ?」
 「覚えてないの。でもコワイの」
 ルーとハーが交互に説明する。
 亜紀ちゃんが、また笑いを堪えている。
 こいつらは二人で同じ夢を見ていることに、不思議を感じていない。

 俺は三人を引き連れ、皇紀の部屋へ行く。
 廊下で打ち合わせをし、亜紀ちゃんをポイントマンにして強襲する。
 皇紀はヘッドフォンをし、下半身丸出してテレビを見ていた。
 握っている。
 画面では、俺が貸したエロDVDが流れている。
 腹の前にティシュがある。

 ドアを開けた亜紀ちゃんは、廊下を向いて双子に合図した。

 「GO! GO! GO!」

 双子は戸惑いつつも、俺の指示通りに皇紀の頭と足を押さえつけた。

 「待て、待て、待てぇ!」
 俺が止めた時には遅かった。
 振り返った亜紀ちゃんは、状況を認識した。

 「ギャァーーーー!」

 双子は、おそましいものを見たように、顔をしかめている。

 「はい! いまのナシ! みんな、何も見てないぞー!」

 俺は三人を連れて出て行った。
 無言でキッチンに行き、朝食の支度を始めた。








 皇紀は朝食が終わるまで泣いていた。

 その日、いつものウインナーは出なかった。
 もう、今日はお腹いっぱいだ。
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