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顕さんの入院。

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 鷹とドライブに行った翌日の日曜日。
 顕さんに電話をした。

 「どうですか、体調は?」
 「ああ、変わりはないな。食欲が全然ない」
 正直に話してくれる。
 他にも、幾つか確認した。

 「明日からですね」
 顕さんがうちの病院に来ることになっている。
 顕さんの仕事の整理もあり、ゴールデンウィーク明けから一週間を経て、明日となった。

 「こないだもお話ししましたが、多分即入院となるので、支度してきてください」
 「ああ、お世話になります」
 電話を切って、リヴィングへ降りる。
 子どもたちは、いつも通り勉強をしていた。

 亜紀ちゃんがコーヒーを煎れてくれる。

 「明日から顕さんがうちの病院に来るから」
 「はい」
 「入院になるだろうから、お前たちも見舞いに来てくれ」
 「はい、分かりました」
 慣れない入院生活だ。
 なるべく、できることはしたい。



 

 翌日、顕さんが来た。
 大きなカバンを持っている。

 「じゃあ、宜しく頼むね」
 「はい、お任せください」

 血液検査や様々な免疫検査。
 内視鏡。
 レントゲンにMRI。
 その他幾つもの検査をする。
 顕さんは大分疲れたようだ。
 まだ数日はかかるが、今日の検査ではガンは胃に留まっているようだ。
 すぐに入院の手続きをし、夕方に俺は顕さんを食事に誘った。

 「しばらくいいものは喰えないですからね」
 「ざくろ」でしゃぶしゃぶを食べる。
 酒は飲まない。

 「石神くんは飲んでくれよ」
 「嫌ですよ。顕さんが飲めるようになるまで、俺は酒は飲みません」
 「まいったな」

 顕さんはすき焼きが美味いと言った。
 酒が飲みたくなると言う。

 「必ず俺が治しますから。絶対に飲めるようになりますよ」
 「ああ、本当に世話になる」
 「ああ、後で俺のヨメに紹介します」
 「え?」
 俺は笑って答えなかった。


 響子の病室へ行くと、まだ起きていた。

 「タカトラ! その人は誰?」
 「俺の大事な兄貴分の顕さんだ」
 「お兄さんなの!」
 「ああ、血は繋がってないけどな。本当に大事な人で、若いころに大変お世話になった方なんだ」

 「響子ちゃん、よろしくお願いします」
 顕さんが丁寧に挨拶された。

 「私がタカトラのヨメの響子です!」
  響子がベッドの上に立ち、ふんぞり返って言った。
 二人で笑う。

 「可愛らしい子だなぁ」
 「そうでしょ! でも俺のヨメだから手出しはダメですよ」
 「そりゃ残念だ」
 三人で笑った。

 「響子はアメリカ人なんですが、お母さんが日本人なんです」
 「そうなのか。でも日本語が上手いな」
 「語学は特殊な才能があるんですよ」
 俺は響子が他にもフランス語やドイツ語なども話せることを教えた。
 響子に、俺の家や別荘のガラスの屋上は、顕さんのお陰でできたと話す。

 「えぇー! あんなに素敵な場所を!」
 「そうだよ、スゴイ人だろう?」
 「うん!」
 顕さんはニコニコして、響子と握手した。

 「今日から俺も一緒に入院なんだ。よろしくね」
 「うん!」

 





 「カワイイ子だなぁ」
 「はい」
 俺は顕さんを病室に送り、響子のことを少し話した。

 「あいつは奇跡的に生き延びましたが、一生ベッドで暮らすことになると思います」
 「そうかぁ。あんなにカワイイ子が可哀そうになぁ」
 「それも人生ですよ。あいつの人生なんだから、自分で何とかしなければならない」
 「そうだな」

 顕さんの病室は個室だった。
 俺が用意した。
 通常の患者さんはベッドごとにテレビがあるが、百円を入れて二時間ほど、というシステムになっている。
 この個室はもちろん、見放題だ。
 それにデスクとソファが備えられていた。
 デスクには、俺が揃えたPCが置いてある。
 もちろん、インターネットが繋がっている。
 製図のソフトも顕さんに聞いていて、インストールしてある。
 ある程度、在宅で仕事ができるようにしていた。

 顕さんに、PCを試してもらった。

 「必要なものがあれば、おっしゃってください」
 「ああ、何もかも、ありがとう」

 ある程度の入院にはなるだろうから、顕さんにはなるべく不自由なくいて欲しい。

 「病院は消灯も早いですが、ナースには言ってあるので顕さんは自由にしていて下さい」
 「ありがとう」
 俺は、いつでも電話してくださいと言い、病室を出た。
 顕さんが後ろで頭を下げているのを感じる。
 振り向かずに歩いた。









 奈津江、顕さんのことは俺に任せろ。
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