325 / 2,818
愛の罪
しおりを挟む
「結局、アレはなんだったの?」
食後に子どもたちを風呂に入れ、部屋に行くように言った。
リヴィングのテーブルで、栞が俺に問う。
「花壇が原因のようですね。院長のあの不思議なエネルギーが、生命に作用するのは分かってます。それを双子がゴキブリ育成に使ったんですね」
「うわぁ」
栞は想像して気持ち悪がった。
「予想以上の効果があったようです。多分、まだ俺に説明しきれていないこともあるんでしょうが」
「どうしてそう思うの?」
「「花岡」が効かなかったじゃないですか」
「ああ!」
「俺も「虚震花」を放ちましたが、他のゴキブリは霧散しましたけど、あの金属のような大型は何の影響もありませんでした」
「私も使ったけど、そうだったよね」
俺は廊下に出て、誰もいないことを確認した。
山田錦の「光明」を出す。
グラスに注いで、栞の前に置いた。
「ブリガディアも効きません」
「ああ、使っちゃったよね。子どもたちは大丈夫かな」
「まあ、見えないようにはしましたが、音はどうしようもないですね。緊急のことだったので、仕方ありません」
「うん」
「ナイフも、クザン・オダでなければ危なかったですね。普通のものではナイフもへし折れていたでしょう」
俺が若い時に、特注で作ったものだ。
鍛造を極めたナイフ職人である、クザン・オダに、最高のナイフを作ってもらった。
鋼鉄も引き裂く硬度を持っている。
「ただ、外骨格は相当硬いですが、内部はそれほどでもないようで。物理的に振動を与えると、大人しくなりました」
「じゃあ「螺旋花」なら有効かな」
「分かりませんね。実験はしてみますが、もしかしたら」
「えー! じゃあ殺しようが無いじゃない」
「あの外骨格には、粘液が回ってます。それが衝撃を滑らせるようになってますね。だから真上からの尖ったものでの攻撃しかないでしょう」
「「螺旋花」の超振動も流されるかも?」
「そういうことですね」
「おじいちゃん、大丈夫かなー」
「それは大丈夫でしょう。あれはバケモノですからね」
「でも、「花岡」が効かないんでしょ?」
「俺でも殺れたんですから。斬のじじぃだって、なんとかしますよ」
俺は斬に、「花岡」無効の用意があることを知らせるために送った。
もちろん、こちらの制御下にはないが、斬はそれは知らない。
抑止力のつもりだ。
栞は肉親への愛はあるが、俺の味方でいてくれる。
きっと斬には黙っていてくれるだろう。
「双子ちゃんは、どうしてあんなものを作ったのかな」
「俺のためですよ」
「え?」
俺は自分と栞のグラスに、「光明」を注いだ。
「あいつらが考えているのは、いつだってそれです。学校を支配するのも、巨額の金を作るのも、「花岡」を極めるのも。全部俺を守るため、俺のために役立つことしか考えてません」
「そうか」
「今回のことだって、聞かなくたって分かります。強い生物を作って、俺を守るために利用できたら、と考えたんでしょう」
「でも、いくらなんでもゴキなんて!」
俺は笑って言う。
「あいつらも動物が好きですからね。犬や猫での実験はイヤだったんじゃないですか? まあ、ゴキブリで成功したら、次の段階に進んだでしょうけど」
「「花岡」を防ぐ生物を作ろうとしたってこと?」
「そこまでは考えてなかったでしょう。これは偶然ですよ。あいつらだって知らなかったに違いない」
「あの残ったのはどうするの?」
「ああ、もちろん実験しますよ」
「どこかの研究施設?」
「それは不味いですよね。表沙汰にはできません。俺たちがタダじゃ済みませんよ」
生物兵器の開発は、恐ろしい闇に繋がっている。
「じゃあ」
「あの三人にやらせます」
「エェッー!」
俺は口に指をあて、静かにするように伝えた。
「俺の制御下に置きますから、大丈夫ですよ。とにかく大きな目標は二つ。一つは、あれを殺す手段。もう一つは、あれの開発が可能なのかを調べること。後者は慎重にいきますけどね」
「大丈夫なの?」
「出来てしまった技術は、制御しなければなりません」
「失敗して世界中が無敵ゴキに襲われないようにしてね!」
俺たちは静かに笑った。
「新たな育成は、恐らくやりませんよ。あんなゴキブリに手間取るんですから。制御を知るだけです」
「ならいいけど」
すっかり遅くなった。
俺は栞を送っていった。
俺が手を繋ぐのを嫌がるのを知っていて、栞は腕を絡めてきた。
家の前で、軽いキスをする。
「じゃあ、また明日」
「今日はいろいろご迷惑をおかけしました」
「いいの。石神くんのためならって思うのは、子どもたちだけじゃないのよ」
「ありがとうございます」
帰り道。
俺は疲れを感じていた。
忙しいゴールデンウィークだったが、最後にトドメが来た。
≪おのれと愛の羅(あみ)に誑かされ、悪行を作りて、いま悪行の報いを受くるなり≫
『往生要集』の一節が浮かんだ。
愛は美しいだけのものではない。
すべての「力」の根源だ。
子どもたちを守らなければならない。
俺は堅く誓った。
食後に子どもたちを風呂に入れ、部屋に行くように言った。
リヴィングのテーブルで、栞が俺に問う。
「花壇が原因のようですね。院長のあの不思議なエネルギーが、生命に作用するのは分かってます。それを双子がゴキブリ育成に使ったんですね」
「うわぁ」
栞は想像して気持ち悪がった。
「予想以上の効果があったようです。多分、まだ俺に説明しきれていないこともあるんでしょうが」
「どうしてそう思うの?」
「「花岡」が効かなかったじゃないですか」
「ああ!」
「俺も「虚震花」を放ちましたが、他のゴキブリは霧散しましたけど、あの金属のような大型は何の影響もありませんでした」
「私も使ったけど、そうだったよね」
俺は廊下に出て、誰もいないことを確認した。
山田錦の「光明」を出す。
グラスに注いで、栞の前に置いた。
「ブリガディアも効きません」
「ああ、使っちゃったよね。子どもたちは大丈夫かな」
「まあ、見えないようにはしましたが、音はどうしようもないですね。緊急のことだったので、仕方ありません」
「うん」
「ナイフも、クザン・オダでなければ危なかったですね。普通のものではナイフもへし折れていたでしょう」
俺が若い時に、特注で作ったものだ。
鍛造を極めたナイフ職人である、クザン・オダに、最高のナイフを作ってもらった。
鋼鉄も引き裂く硬度を持っている。
「ただ、外骨格は相当硬いですが、内部はそれほどでもないようで。物理的に振動を与えると、大人しくなりました」
「じゃあ「螺旋花」なら有効かな」
「分かりませんね。実験はしてみますが、もしかしたら」
「えー! じゃあ殺しようが無いじゃない」
「あの外骨格には、粘液が回ってます。それが衝撃を滑らせるようになってますね。だから真上からの尖ったものでの攻撃しかないでしょう」
「「螺旋花」の超振動も流されるかも?」
「そういうことですね」
「おじいちゃん、大丈夫かなー」
「それは大丈夫でしょう。あれはバケモノですからね」
「でも、「花岡」が効かないんでしょ?」
「俺でも殺れたんですから。斬のじじぃだって、なんとかしますよ」
俺は斬に、「花岡」無効の用意があることを知らせるために送った。
もちろん、こちらの制御下にはないが、斬はそれは知らない。
抑止力のつもりだ。
栞は肉親への愛はあるが、俺の味方でいてくれる。
きっと斬には黙っていてくれるだろう。
「双子ちゃんは、どうしてあんなものを作ったのかな」
「俺のためですよ」
「え?」
俺は自分と栞のグラスに、「光明」を注いだ。
「あいつらが考えているのは、いつだってそれです。学校を支配するのも、巨額の金を作るのも、「花岡」を極めるのも。全部俺を守るため、俺のために役立つことしか考えてません」
「そうか」
「今回のことだって、聞かなくたって分かります。強い生物を作って、俺を守るために利用できたら、と考えたんでしょう」
「でも、いくらなんでもゴキなんて!」
俺は笑って言う。
「あいつらも動物が好きですからね。犬や猫での実験はイヤだったんじゃないですか? まあ、ゴキブリで成功したら、次の段階に進んだでしょうけど」
「「花岡」を防ぐ生物を作ろうとしたってこと?」
「そこまでは考えてなかったでしょう。これは偶然ですよ。あいつらだって知らなかったに違いない」
「あの残ったのはどうするの?」
「ああ、もちろん実験しますよ」
「どこかの研究施設?」
「それは不味いですよね。表沙汰にはできません。俺たちがタダじゃ済みませんよ」
生物兵器の開発は、恐ろしい闇に繋がっている。
「じゃあ」
「あの三人にやらせます」
「エェッー!」
俺は口に指をあて、静かにするように伝えた。
「俺の制御下に置きますから、大丈夫ですよ。とにかく大きな目標は二つ。一つは、あれを殺す手段。もう一つは、あれの開発が可能なのかを調べること。後者は慎重にいきますけどね」
「大丈夫なの?」
「出来てしまった技術は、制御しなければなりません」
「失敗して世界中が無敵ゴキに襲われないようにしてね!」
俺たちは静かに笑った。
「新たな育成は、恐らくやりませんよ。あんなゴキブリに手間取るんですから。制御を知るだけです」
「ならいいけど」
すっかり遅くなった。
俺は栞を送っていった。
俺が手を繋ぐのを嫌がるのを知っていて、栞は腕を絡めてきた。
家の前で、軽いキスをする。
「じゃあ、また明日」
「今日はいろいろご迷惑をおかけしました」
「いいの。石神くんのためならって思うのは、子どもたちだけじゃないのよ」
「ありがとうございます」
帰り道。
俺は疲れを感じていた。
忙しいゴールデンウィークだったが、最後にトドメが来た。
≪おのれと愛の羅(あみ)に誑かされ、悪行を作りて、いま悪行の報いを受くるなり≫
『往生要集』の一節が浮かんだ。
愛は美しいだけのものではない。
すべての「力」の根源だ。
子どもたちを守らなければならない。
俺は堅く誓った。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる