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「じょう、じょーじ」。ダメだった。

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 ゴールデンウィーク最終日。
 今日は俺も何もせずにのんびりするつもりだ。
 絶対するぞー。
 栞が遊びに来ている。
 いつものことだ。
 昼食を一緒に食べて、しばらくすれば帰るだろう。

 亜紀ちゃんは栞と一緒に昼食を作っている。
 栞が来ると、時々二人で仲良く作る。
 皇紀や双子は、手伝いを外され、自由にしている。

 何かおかしい。
 具体的なことは分からない。

 皇紀と双子がおかしい。

 「生ごみを片付けてくる」と、袋を持って出て行った。
 この二ヶ月ほど、そんな光景をよく見る。
 猛獣の館だ。
 それなりに生ゴミは多い。
 俺も気を付けながら、なるべくとは思うが、仕方のない部分もある。
 子どもたちに任せているので、俺は管理していない。
 主に皇紀と双子がゴミ出しをしている。
 怠って問題になったこともない。

 よくやっている。
 ちゃんとよくやっている。

 しかし、俺が見ている生ゴミを出す量と、ゴミとして集荷に出す量。
 なんとなく違う気がする。
 気のせいかもしれない。
 喰ってるのか?

 一度、ゴミに出す野菜くずなどをオーブンで乾燥させたり、燻製にしたりして、ブイヨンなどを作ったことがある。
 メイラード反応による、香気の生成だ。
 それなりに子どもたちは食べたが、結局めんどくさくてやめた。
 あいつらが、生ゴミを必要とするほど空腹なことは考えられない。
 まあ、あいつらの異常は分かっているから、確信ではないが。

 皇紀は問題ないだろう。
 問題は双子だ。
 あいつらが隠れて何かをすると、とんでもない結果を生む。

 皇紀は「善」だ。
 だから俺に何でも報告してくるし、ほとんど問題はない。
 俺に報告が漏れた部分でだけ、何かが起こる。
 それは大したことがない。

 双子は「悪」だ。
 だから、想像外の、物凄い創意工夫がある。
 隠れてやらなければならない分、熱意も情熱も恐ろしいほどに注がれる。

 「花岡」の習得、しかり。
 小学校の統率、しかり。
 小遣いの超絶運用、しかり。
 俺が知った時点で、凄まじいことになっている。



 「石神くんと二人で温泉に行ったの?」
 「そうなんですよ! 楽しかったです!」
 「へぇー、良かったじゃない。どこの温泉?」
 「軽井沢なんです。アンシェントホテルという所で」
 「え、最高級ホテルじゃない! 私も行ってみたいなぁ」
 「エヘヘヘ」

 「私も行ってみたいなぁー」
 「綺麗なところでしたよ」

 「私も行ってみたいなぁーーーー!!!」

 俺は振り返らずに手を曖昧に振った。
 ゴミ袋の行方を追う。






 庭の隅に、物置がある。
 一時的にゴミなどを保管するものだ。
 その他の雑多なものもある。
 便利屋の道具など。
 通用口が近くにあり、その左手の塀の一部が敷地にへこみ、ゴミ置き場になっていた。

 皇紀と双子は物置に入っていく。
 正常な動きだ。
 でかいポリバケツを外に出した。
 おかしい。
 今日はゴールデンウィークで、ゴミの収集はない。
 俺は見えない位置で、集中した。

 「まずいよ、これ。どうすんだよ」(こ)
 「「はなおかバスター」でやっちゃう?」(は)
 「絶対ダメだよ。「花岡」を使ったら、私たちタカさんに怒られるなんてもんじゃ済まないよ!」(る)
 「殺虫剤は?」(こ)
 「無理。生育過程で徹底的に耐性をつけさせたからね」(る)
 「フェニルピラゾール系は?」(こ)
 「そんなもん、とっくに無駄よ」(は)

 「燃やすとか」(こ)
 「どこでよ! タカさんにバレないわけないじゃない」(る)

 何か育てていたらしい。
 ネコかなんかか?
 だったら叱った後で、うちで育ててもいい。
 俺はそんなことを考えていた。


 「石神くーん!」
 栞と亜紀ちゃんが1階のベランダに出てきた。
 
 「何やってるのー?」
 俺が戻らないので、様子を見に来たらしい。
 皇紀たちが驚いて見ている。
 俺は三人に近づいた。
 双子が、ブルブルと震えている。
 皇紀は蒼白になっている。

 「おい、お前ら何を隠してる!」
 ハーが動こうとした。

 「動くな! 「花岡」を使ったら、どうなるか分かってるだろうなぁ!」
 「ひぃ!」
 俺はポリバケツの蓋を開けた。
 瞬間に察した。
 大量のゴキブリだった。

 俺が蓋を戻そうとした時、一斉に飛び立った。
 それだけではない。
 奥から信じられないほど巨大なモノが蓋をぶち破って飛び出す。
 皇紀と双子は、呆然としていた。
 それを見たのも一瞬だ。
 俺は飛び出していったものたちが、栞と亜紀ちゃんに向かうのを見た。




 「家に入れ! 戸を閉めて二階に上がれ!」
 二人は聞こえてはいただろうが、反応が遅れた。
 黒い集団は、ようやく動き出した二人に迫る。
 俺は縮地で集団の横に回り、「虚震花」を放った。
 黒い集団は消滅した。

 しかし、最後に飛び出した巨大なモノは家の中に飛び込む。

 「!」

 栞が気絶した。
 亜紀ちゃんが抱きかかえ、戦闘態勢を取る。
 俺は三階の自分の部屋に駆け上がり、クザン・オダのナイフとブリガディアを持ち出した。
 
 壁に張り付いていた「モノ」が、俺が駆け降りると高速で飛翔した。
 俺に向かってくる。
 右手のナイフで薙いだ。
 金属音のような響きがして、「モノ」がはじけ飛ぶ。
 切れてはいない。
 床に転がった「モノ」の上から、渾身の力でナイフを突き刺す。

 青黒い液体が広がり、「モノ」は動かなくなった。

 俺は栞と亜紀ちゃんの無事を確認し、皇紀と双子に向かって走った。

 「お前らも無事か!」
 三人は声も出ずに、何度もうなずいた。

 「あ、あ、あの、あのね」
 ルーが何とか話そうとしている。

 「もう大丈夫だぞ。心配するな」

 栞も気が付き、亜紀ちゃんと一緒に近づいて来る。

 「あ、あの」

 俺は三人を抱きしめた。
 怖かっただろう。

 「あの、あのね」

 栞と亜紀ちゃんも子どもたちの頭を撫でて落ち着かせようとした。

 「あのね、あのね」
 「だから大丈夫だって。あいつはやっつけたぞ」



 「あと三匹いるの!」

 「「「!」」」



 バケツの中を覗くと、30センチ級が2匹。50センチ級が1匹うごめいていた。
 よく見ると、虹色に反射する金属のような体だった。

 「ジョウ、ジョージ」
 「石神くん、何言ってるの!」
 「いや、意思疎通できるかもって」

 栞が「虚震花」を放つ。
 バケツが消失し、中の「モノ」だけが残った。

 「なんなの、あれ!」
 「みんな逃げろ! 皇紀、お前の作業小屋の道具箱を持ってこい!」
 「はい!」

 皇紀は作業小屋に向かい、金属製の大型の箱を抱えてくる。
 女性たちは家の中に逃げた。
 栞の悲鳴が聞こえる。
 俺が殺した「モノ」を見たのだろう。
 皇紀も家の中に避難させる。

 「モノ」はあまり動いていない。
 俺はブリガディアを上から撃ち込んだ。
 貫通しない。
 しかし動きは鈍った。
 衝撃は有効なようだ。

 俺は三匹を箱に入れ、蓋をした。





 後から双子に聞いたところでは、「花壇」の土を敷いて、ゴキブリを育成していたようだ。
 様々な殺虫剤を少量ずつ吹き、徐々に耐性をつけた。
 そうしたところ、大半は死んだが、生き残った連中がアレだったようだ。
 問題は、最下層の土に触れていた個体で、硬質の外骨格と羽をもち、あり得ないほどに巨大化していた。

 ブリガディアのマグナム弾を跳ね返す。
 そして、「花岡」が効かない。
 俺はすぐにドライアイスを大量に買い、箱に詰めた。

 栞は虫、特にゴキブリが大の苦手だったらしい。

 俺は三人の子どもたちの尻を、5発ずつ叩いた。

 夕飯は、A5ランクの牛肉を買い、皇紀と双子は正座して俺たちが喰うのを見させた。
 三人とも泣いた。
 肉汁をかけたご飯だけ与えた。
 一層泣いた。





 「モノ」の一匹は、大きな煎餅の缶に入れ、そこにドライアイスを詰め込み、冷凍便で送った。
 「どこに送ったの? 何かの研究施設?」
 「いえ、斬ちゃんに」
 「え?」
 「面白そうじゃないですか!」

 「……」







 楽しんでくれ、斬。
 倒したら、火星旅行をプレゼントだ。
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