319 / 2,806
夕食とジェラシー Ⅱ
しおりを挟む
めんどくせぇ。
「石神くんは、鷹がいると、私にやけに冷たくない?」
めんどくせぇ。
「私の勘違いかな? 鷹もなんか私にきつく当たってる気がするんだけど」
「いえ、そんなことは決して」
鷹が答える。
「別にさ。私は石神くんの唯一の彼女ってわけじゃないけどさ。でもなんか、石神くんは鷹の方を可愛がって、それを見せつけてるような気がする!」
亜紀ちゃんはオロオロして、俺と栞を見ている。
「花岡さん。それは俺がやってることで、鷹には何の罪もありませんよ」
「やっぱりやってるんだー!」
鷹には浴衣を貸している。
栞はうちに置いているパジャマ。
亜紀ちゃんももちろんパジャマ。
俺もパジャマだ。
ゆったりしたいもんだ。
「ちょっとね。花岡さんのやきもちが可愛くて。それが見たいんですよ」
「ひどいよ! 私も可愛がってよ!」
俺と鷹は笑った。
本当にカワイイ。
「花岡さん、私もちょっと調子に乗りました。すいません」
「よ、鷹はいいのよ! 悪いのは意地悪な石神くん!」
「すいません」
「亜紀ちゃんはどう思うの?」
矛先が向いて、亜紀ちゃんは困惑する。
「私は栞さんの味方です」
栞はニコニコして亜紀ちゃんを抱きしめる。
「ほらね。花岡さんには味方もいるけど、鷹は一人ですから。俺が気を遣うのは当然でしょう」
「それはそうかもしれないけどー」
「花岡さんのことはもちろん大好きですよ」
「ほんとにー?」
「もちろん」
栞がニコニコしている。
「私は?」
「大好きだよ」
鷹も嬉しそうに笑う。
「あの、私は!」
「ああ、普通かな」
「エェッー!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
みんなで笑う。
「ある文学者の話なんだけど」
俺は話し出した。
「有名な方なので、名前は伏せる。Tさんと仮に呼ぶな。そのTさんは戦前の生まれで、今は90歳近い」
「結構なお年ですね」
「うん。ヨーロッパのある国の文学をずっとやってる人で、その分野では権威の方だ。俺は病院関係で知り合ったわけだけどな。うちにもTさんの著作は全部あるよ。若いころから尊敬している人なんだ」
みんな黙って俺の話を聞いていた。
「非常に有名なヨーロッパの文学者を日本に紹介したのも、Tさんだ。お陰で、その文学者は非常に日本を好きになってくれた。何度も来日し、「那智の滝」が特に好きでなぁ。そこで神秘体験をして、著作にも書いている」
「へぇー」
「戦後、日本はヨーロッパで嫌われていた。無理もないよな。ナチス・ドイツと同盟して戦争してた国なんだから」
「Tさんは、日本の良さを訴えるために、日本を離れ、ずっとヨーロッパに住んだ。Tさんの闘いの人生だ」
「向こうでテレビ番組に出たのを見たことがあるけど、どんな批判にも堂々と答えていた。物凄く頭のいい人で、知識も深い。俺が見ている限り、すべての批判を論破していたよ」
「NHKの番組にも、数多く出ている。とにかく素晴らしい方なんだよな」
栞は話の行方が見えず、ちょっと不貞腐れている。
鷹と亜紀ちゃんは、目を輝かせて聞いていた。
「ある日、その人が話してくれたんだけど、東京の人なんだよな。だから、あの「東京空襲」を経験している。B29の焼夷弾で、大勢の人が亡くなったよな」
「Tさんは小学生だったそうだけど、友達、同級生も大勢死んだ。そのことでTさんが言ったんだ」
栞も俺を見た。
「東京空襲を悲惨で悲しい出来事だとみんな言う。でも、それは違うんだって」
「違うんですか?」
「ああ。亜紀ちゃんも歴史的なことは知っているだろうけど、Tさんはそう言った。そして「アレは闘いだったんだ」と言ったんだよ」
「どういうことですか?」
「「自分たちは小国民だったんだ」と。つまり、子どもで戦争には行ってないけど、ちゃんと日本国民として戦っていたんだと。だから、空襲で死んだ友達たちは、立派な「戦死」だったと言ったんだ。無残に殺されたのではない。ちゃんと戦って果てて行ったのだと。「そうでなければ、死んでも死にきれない」、Tさんはそう言ったんだ」
「「「……」」」
「俺は感動したよなぁ。やっぱり、Tさんは素晴らしい方だと、改めて思った」
「そうですね」
「そのTさんは、ずっと独身なんだ」
「そうなんですか」
「うん。今は高齢で足が悪い。杖をついてやっと歩ける、というな。でも、気概は全く衰えていない」
「なぜTさんが独身なのかと言うと、若いころに一つの恋をしたからなんだよ」
「え!」
「非常に聡明で美しい女性。美智子妃殿下に恋をした。決して結ばれることのない恋だ。だから結婚しなかったんだな」
「そんな…」
「言ってみれば、Tさんの人生はすべてが美智子様に捧げるものだった、ということだ。日本を良く思ってもらうのも、美智子様のためだよ。高名な文学者を招いたのも、日本に惚れこませたのも、同じだよな。崇高な方なんだ」
「……」
「今は日本に住んでおられる。最近、九段に引っ越された」
「あ、それって!」
「そうだ。もう余命が少ないことを感じて、美智子様のお傍で逝きたいと思ったんだろうよ」
「ああ!」
「最後の仕事で、今までの著作と自伝を何冊か整えた。『未知へ〇〇〇』というタイトルだ」
「そうなんですか」
「亜紀ちゃん、分からないか? 「未知へ」というのは、美智子様へ捧げるという意味だよ」
「あ!」
「これが「忍ぶ恋」というものだ。どうだ! 悲しくも美しいだろう!」
「はい!」
「じゃあ、そろそろ寝るか」
「はい」
「じゃあ、私は石神くんと一緒に寝るね」
栞。
「おい」
「じゃあ、私も一緒に!」
鷹。
「おい!」
「えぇー! だったら私も!」
「おい! お前ら、今の俺の話を聞いてなかったのかぁ!」
結局四人で寝た。
4Pには、当然ならなかった。
「石神くんは、鷹がいると、私にやけに冷たくない?」
めんどくせぇ。
「私の勘違いかな? 鷹もなんか私にきつく当たってる気がするんだけど」
「いえ、そんなことは決して」
鷹が答える。
「別にさ。私は石神くんの唯一の彼女ってわけじゃないけどさ。でもなんか、石神くんは鷹の方を可愛がって、それを見せつけてるような気がする!」
亜紀ちゃんはオロオロして、俺と栞を見ている。
「花岡さん。それは俺がやってることで、鷹には何の罪もありませんよ」
「やっぱりやってるんだー!」
鷹には浴衣を貸している。
栞はうちに置いているパジャマ。
亜紀ちゃんももちろんパジャマ。
俺もパジャマだ。
ゆったりしたいもんだ。
「ちょっとね。花岡さんのやきもちが可愛くて。それが見たいんですよ」
「ひどいよ! 私も可愛がってよ!」
俺と鷹は笑った。
本当にカワイイ。
「花岡さん、私もちょっと調子に乗りました。すいません」
「よ、鷹はいいのよ! 悪いのは意地悪な石神くん!」
「すいません」
「亜紀ちゃんはどう思うの?」
矛先が向いて、亜紀ちゃんは困惑する。
「私は栞さんの味方です」
栞はニコニコして亜紀ちゃんを抱きしめる。
「ほらね。花岡さんには味方もいるけど、鷹は一人ですから。俺が気を遣うのは当然でしょう」
「それはそうかもしれないけどー」
「花岡さんのことはもちろん大好きですよ」
「ほんとにー?」
「もちろん」
栞がニコニコしている。
「私は?」
「大好きだよ」
鷹も嬉しそうに笑う。
「あの、私は!」
「ああ、普通かな」
「エェッー!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
みんなで笑う。
「ある文学者の話なんだけど」
俺は話し出した。
「有名な方なので、名前は伏せる。Tさんと仮に呼ぶな。そのTさんは戦前の生まれで、今は90歳近い」
「結構なお年ですね」
「うん。ヨーロッパのある国の文学をずっとやってる人で、その分野では権威の方だ。俺は病院関係で知り合ったわけだけどな。うちにもTさんの著作は全部あるよ。若いころから尊敬している人なんだ」
みんな黙って俺の話を聞いていた。
「非常に有名なヨーロッパの文学者を日本に紹介したのも、Tさんだ。お陰で、その文学者は非常に日本を好きになってくれた。何度も来日し、「那智の滝」が特に好きでなぁ。そこで神秘体験をして、著作にも書いている」
「へぇー」
「戦後、日本はヨーロッパで嫌われていた。無理もないよな。ナチス・ドイツと同盟して戦争してた国なんだから」
「Tさんは、日本の良さを訴えるために、日本を離れ、ずっとヨーロッパに住んだ。Tさんの闘いの人生だ」
「向こうでテレビ番組に出たのを見たことがあるけど、どんな批判にも堂々と答えていた。物凄く頭のいい人で、知識も深い。俺が見ている限り、すべての批判を論破していたよ」
「NHKの番組にも、数多く出ている。とにかく素晴らしい方なんだよな」
栞は話の行方が見えず、ちょっと不貞腐れている。
鷹と亜紀ちゃんは、目を輝かせて聞いていた。
「ある日、その人が話してくれたんだけど、東京の人なんだよな。だから、あの「東京空襲」を経験している。B29の焼夷弾で、大勢の人が亡くなったよな」
「Tさんは小学生だったそうだけど、友達、同級生も大勢死んだ。そのことでTさんが言ったんだ」
栞も俺を見た。
「東京空襲を悲惨で悲しい出来事だとみんな言う。でも、それは違うんだって」
「違うんですか?」
「ああ。亜紀ちゃんも歴史的なことは知っているだろうけど、Tさんはそう言った。そして「アレは闘いだったんだ」と言ったんだよ」
「どういうことですか?」
「「自分たちは小国民だったんだ」と。つまり、子どもで戦争には行ってないけど、ちゃんと日本国民として戦っていたんだと。だから、空襲で死んだ友達たちは、立派な「戦死」だったと言ったんだ。無残に殺されたのではない。ちゃんと戦って果てて行ったのだと。「そうでなければ、死んでも死にきれない」、Tさんはそう言ったんだ」
「「「……」」」
「俺は感動したよなぁ。やっぱり、Tさんは素晴らしい方だと、改めて思った」
「そうですね」
「そのTさんは、ずっと独身なんだ」
「そうなんですか」
「うん。今は高齢で足が悪い。杖をついてやっと歩ける、というな。でも、気概は全く衰えていない」
「なぜTさんが独身なのかと言うと、若いころに一つの恋をしたからなんだよ」
「え!」
「非常に聡明で美しい女性。美智子妃殿下に恋をした。決して結ばれることのない恋だ。だから結婚しなかったんだな」
「そんな…」
「言ってみれば、Tさんの人生はすべてが美智子様に捧げるものだった、ということだ。日本を良く思ってもらうのも、美智子様のためだよ。高名な文学者を招いたのも、日本に惚れこませたのも、同じだよな。崇高な方なんだ」
「……」
「今は日本に住んでおられる。最近、九段に引っ越された」
「あ、それって!」
「そうだ。もう余命が少ないことを感じて、美智子様のお傍で逝きたいと思ったんだろうよ」
「ああ!」
「最後の仕事で、今までの著作と自伝を何冊か整えた。『未知へ〇〇〇』というタイトルだ」
「そうなんですか」
「亜紀ちゃん、分からないか? 「未知へ」というのは、美智子様へ捧げるという意味だよ」
「あ!」
「これが「忍ぶ恋」というものだ。どうだ! 悲しくも美しいだろう!」
「はい!」
「じゃあ、そろそろ寝るか」
「はい」
「じゃあ、私は石神くんと一緒に寝るね」
栞。
「おい」
「じゃあ、私も一緒に!」
鷹。
「おい!」
「えぇー! だったら私も!」
「おい! お前ら、今の俺の話を聞いてなかったのかぁ!」
結局四人で寝た。
4Pには、当然ならなかった。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる