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「紅六花」出撃 Ⅱ

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 2時間もかからず、花岡の屋敷に着いた。
 俺が先行し、カメラ類を破壊していく。
 栞の家からベレッタの「ブリガディア」を持って来ている。
 マグナム弾を使える強化モデルだ。

 栞の地下の秘密倉庫には、数々の銃器が置かれていた。
 要は、花岡は銃にも対応できる、ということだ。

 インカムで準備ができたことを伝え、「紅六花」がやってくる。
 正門前に集結した。
 俺は正門のインターホンを押した。
 しばらくすると、見知らぬ女が通用口から出てきた。
 背が低い、若い女だ。
 髪をおかっぱにし、彼岸花の暗い着物を着ている。
 異様な雰囲気の女だった。

 「ああ、斬のじじぃに挨拶に来たと伝えろ」
 「御当主は不在です。お引き取りください」
 俺は正門に向け、手を振った。
 分厚い木が吹き飛び、中に隠されていた鋼鉄が曲がる。

 「早くしろ! くだらん芝居はいらん」
 女は中に戻った。

 突然、塀の向こうから、凄まじい殺気が放たれた。

 「紅六花」のメンバーの何人かが倒れる。
 立っている者も、震え上がっていた。
 それほどの巨大な殺気だった。
 俺は通用門から中に入った。

 着物姿の斬が庭に立っていた。
 感覚がおかしくなったか、斬の身体の周囲が陽炎のように揺れている。

 「よう、斬。挨拶に来たぜ」
 「お前、やっぱり」
 何なのかは言わない。

 「やっと挨拶ができるようになった。死王のけじめをつけてもらおう」
 「何を。少しばかり花岡を覚えた程度で」
 斬が再び殺気を放つ。
 先ほどのものよりも大きい。
 ほとんど、圧迫されるかのような物理的なものすら感じる。
 外の連中もただでは済まないだろう。
 俺が不安を感じた、その時。
 俺の愛する女の怒号が響いた。



 

 「気合を入れろ!」
 六花が塀の向こうで叫んだ。

 「みんな! 「紅」を示せ!」

 「命を燃やせ! 「紅」を見せろ!!」

 『オォーーーゥ!」

 雄叫びが響く。

 まったくいい連中だ。





 俺は振り向いて、後ろに拡がる塀に向かって手を振った。
 100メートル以上の幅で、塀は消失した。
 プラズマが迸って、その途中の庭木や庭石を破壊した。

 「!」

 斬の驚愕した顔が面白かった。

 「じゃあな! 死王は近づけるなよ。まあ、見ての通り、来ても無駄だけどなぁ!」
 「「虚震花」ではない!」

 「「はなおかバスター」だぁ!」

 俺は高らかに笑い、塀を「虚震花」で破壊し、悠々と出て行った。
 二メートルの幅で塀が崩れている。

 「帰るぞ!」

 何人かはよろけていたが、なんとかバイクに跨る。
 俺たちは叫びながら、斬の屋敷を去った。
 俺は最後尾を走る。
 万一のためだ。
 しかし、幹線道路に入り、追っ手ないことを確信した。

 既に「紅六花」のマシンはばらけている。
 各々に指示したルートで帰るはずだ。






 タケの店で無事に全員が揃った。
 当然のように祝勝会が開かれた。
 俺と六花は終始みんなに囲まれ、笑い合った。
 タケが、幹部だけを集め、他の連中を遠ざけた。

 「事情はある程度総長から聞いてましたが、なんなんですか、あのバケモノは」
 「あれはなぁ。日本の歴史の闇で力をつけてきた家系なんだよ」
 「へぇー! でも「虎」の旦那がやっつけたってことですか」
 「いや、今回は力を見せて大人しくしろ、という程度だな。全面戦争になれば、お互い無事じゃすまねぇ」

 「でも、旦那のアレ、すごかったですよねぇ」
 「まあな。分かってると思うけど、今日のことは口外厳禁な!」
 「はい!」

 あまりにも非日常すぎた。
 俺が行動を一気に進めたのは、非日常をなるべく小さなものにしたかったためだ。
 斬と対峙したのは俺だけだ。
 俺が破壊した塀も、「紅六花」の連中は見ていないはずだった。
 タケとよしこだけが、撮影のために直接みている。
 その役目を俺が与えた。
 できるだけ、他の連中は遠ざけたつもりだが、どうなるかは分からない。

 巻き込んでしまったのは、確かだ。
 しかし、こいつらも標的になる可能性はあった。
 俺が六花を守ろうとすれば、その外側が狙われる。
 外道はどこまでも外道だ。
 それは、死王が証明していた。

 いずれ、こいつらにも「自衛」を学ばせなければならないかもしれない。







 「石神先生」
 六花が俺に抱き着いてきた。
 「「虎」じゃねぇのか」
 「それは他のメンバーのための呼び名です。私の石神先生はそのままです」
 「そうかよ」
 暗澹とした不安が消えた。

 「おい、よしこ!」
 「はい!」
 「そろそろダメだ! 宿に案内してくれ」
 「分かりました!」

 「今日はいい部屋なんだろうな!」
 「もちろんです!」
 俺と六花はよしこの用意した車に乗り込んだ。
 シーマだ。
 運転手の男は、よしこの会社の人間か。
 六花は既に俺にべったりと甘えている。

 「着きました!」
 よしこが言う。

 「おい、ここって前に泊まったラブホじゃねぇか!」
 「はい! 今回はこないだ使っていただけなかった最高の部屋をとってます!」
 「お前のまっとうなホテルじゃねぇのかよ」
 「はい! こっちの方が絶対に設備が整ってますから」

 「あのさ、器具とかあるってことか?」
 「はい! 最初から部屋に置いてますので、存分に!」
 俺は大笑いした。
 まったくこいつらはいい。


 「よし! 今日は腰が抜けるまでやるぞ!」
 「おおー!」
 六花が叫んだ。






 よしことタケがニコニコと見ていた。
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