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奈津江 Ⅶ
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俺が話し終えて、みんな黙っていた。
顕さんは少し泣いておられた。
申し訳ないと思う。
「じゃあ、今日はここまでだ。俺は顕さんともう少しいるから、お前たちは寝ろ」
「「「「ありがとうございました!」」」」
子どもたちが降りていく。
「顕さん、すみません。思い出させてしまうような話で」
「いや、俺のために話してくれたんだろ?」
「……」
俺は顕さんのグラスに梅酒を注いだ。
あまり減ってはいなかった。
「奈津江は、俺のために死にました」
「だからあれは」
「いいえ。奈津江は俺に愛をくれたんです」
「そうか」
顕さんはそう言って俯いた。
その沈黙の中で、顕さんが考えているだろうことは分かった。
顕さんにとっては、最も辛いことのはずだ。
「本当にいい女でした。俺なんかにはもったいなくてしょうがない。俺が奈津江のために死にたかった」
「俺もそうだよ」
顕さんはまた泣き出した。
涙が次々に溢れてくる。
「顕さん」
「うん」
「ガンですね」
「!」
顕さんは驚いて、俺の顔を見た。
「俺なんかはチンピラ医者って言われてますけど。でも分かるんです。ガン患者には特有の匂いがある」
「……」
「奈津江の墓でお会いしたときには分からなかった。でも、こないだうちに来ていただいたときに、確信しました」
「そうだったか」
「多分、胃がん。どうですか?」
「そこまで分かってしまうか」
「はい」
顕さんは半笑いでまた下を向いていた。
「顕さんは治療する気はないんですね」
「うん。もう十分に生きたよ。奈津江がいなくなって、俺は生きている甲斐がなかった。丁度いいと思うんだ。早く奈津江に会いたい。もうそれだけだよ」
「俺のお願いを言います。俺に治療させてください」
「え」
「奈津江が言ってました。もう顕さんには自分のことを考えて欲しいって。だから俺は、顕さんにそうして欲しい」
「でも」
「顕さん。生きててこれからいいことがあるかどうかは分かりません。辛いことの方が多いには決まってる。でも奈津江は俺に生きて欲しいと願い、顕さんには幸せになって欲しいと言った」
「……」
「だからお願いです。もう少し生きて下さい。俺も顕さんが幸せになるように考えます。どうかお願いします!」
俺は顕さんの手を握った。
「ああ。こんな場所で。君から懐かしい奈津江の話を教えてもらって。君が必死に俺に頼んできて。じゃあ、俺は死ねないじゃないか」
顕さんはまた泣いた。
「そうですよ」
「石神くん。俺は生きているのが辛いよ」
「そうですね」
「どうしても生きなきゃならんか」
「どうしてもです」
双子が駆けてきた。
俺も顕さんも驚く。
「お前ら! 顕さんと二人で話すって言っただろう!」
「ごめんなさい! でもね、どうしても話さなきゃって」
「今日ね、顕さんの家で見たの!」
ルーとハーが必死で訴えてきた。
俺も顕さんもなんのことか分からない。
双子を椅子に座らせる。
「話してみろ」
「あのね、顕さんの家の玄関にね。綺麗な女の人がいたの」
「「!」」
「その人がね。手で呼んでたの」
「それでお前らは飛び出したのか」
「「うん!」」
「近くに行ったらね、「お兄ちゃんをよろしくね」って。笑って言ったの」
「それでね、「タカさんに、お兄ちゃんのことを頼んで」って言ったの」
「笑って、消えたの。ゴールドのおばあちゃんみたいに!」
「分かった。もう寝ろ。よく話してくれた」
双子は降りて行った。
「石神くん。今の話って」
「あの二人はちょっと変わった力があるらしいんですよ。何度か不思議なことがあって」
「じゃあ、奈津江がいたのか!」
「そうだと思います。顕さんを今でも見守っているんですね」
顕さんは号泣した。
双子は「タカさんに」と言っていた。
奈津江は、俺のことも見てくれているのか。
俺の目からも、涙が零れた。
顕さんは少し泣いておられた。
申し訳ないと思う。
「じゃあ、今日はここまでだ。俺は顕さんともう少しいるから、お前たちは寝ろ」
「「「「ありがとうございました!」」」」
子どもたちが降りていく。
「顕さん、すみません。思い出させてしまうような話で」
「いや、俺のために話してくれたんだろ?」
「……」
俺は顕さんのグラスに梅酒を注いだ。
あまり減ってはいなかった。
「奈津江は、俺のために死にました」
「だからあれは」
「いいえ。奈津江は俺に愛をくれたんです」
「そうか」
顕さんはそう言って俯いた。
その沈黙の中で、顕さんが考えているだろうことは分かった。
顕さんにとっては、最も辛いことのはずだ。
「本当にいい女でした。俺なんかにはもったいなくてしょうがない。俺が奈津江のために死にたかった」
「俺もそうだよ」
顕さんはまた泣き出した。
涙が次々に溢れてくる。
「顕さん」
「うん」
「ガンですね」
「!」
顕さんは驚いて、俺の顔を見た。
「俺なんかはチンピラ医者って言われてますけど。でも分かるんです。ガン患者には特有の匂いがある」
「……」
「奈津江の墓でお会いしたときには分からなかった。でも、こないだうちに来ていただいたときに、確信しました」
「そうだったか」
「多分、胃がん。どうですか?」
「そこまで分かってしまうか」
「はい」
顕さんは半笑いでまた下を向いていた。
「顕さんは治療する気はないんですね」
「うん。もう十分に生きたよ。奈津江がいなくなって、俺は生きている甲斐がなかった。丁度いいと思うんだ。早く奈津江に会いたい。もうそれだけだよ」
「俺のお願いを言います。俺に治療させてください」
「え」
「奈津江が言ってました。もう顕さんには自分のことを考えて欲しいって。だから俺は、顕さんにそうして欲しい」
「でも」
「顕さん。生きててこれからいいことがあるかどうかは分かりません。辛いことの方が多いには決まってる。でも奈津江は俺に生きて欲しいと願い、顕さんには幸せになって欲しいと言った」
「……」
「だからお願いです。もう少し生きて下さい。俺も顕さんが幸せになるように考えます。どうかお願いします!」
俺は顕さんの手を握った。
「ああ。こんな場所で。君から懐かしい奈津江の話を教えてもらって。君が必死に俺に頼んできて。じゃあ、俺は死ねないじゃないか」
顕さんはまた泣いた。
「そうですよ」
「石神くん。俺は生きているのが辛いよ」
「そうですね」
「どうしても生きなきゃならんか」
「どうしてもです」
双子が駆けてきた。
俺も顕さんも驚く。
「お前ら! 顕さんと二人で話すって言っただろう!」
「ごめんなさい! でもね、どうしても話さなきゃって」
「今日ね、顕さんの家で見たの!」
ルーとハーが必死で訴えてきた。
俺も顕さんもなんのことか分からない。
双子を椅子に座らせる。
「話してみろ」
「あのね、顕さんの家の玄関にね。綺麗な女の人がいたの」
「「!」」
「その人がね。手で呼んでたの」
「それでお前らは飛び出したのか」
「「うん!」」
「近くに行ったらね、「お兄ちゃんをよろしくね」って。笑って言ったの」
「それでね、「タカさんに、お兄ちゃんのことを頼んで」って言ったの」
「笑って、消えたの。ゴールドのおばあちゃんみたいに!」
「分かった。もう寝ろ。よく話してくれた」
双子は降りて行った。
「石神くん。今の話って」
「あの二人はちょっと変わった力があるらしいんですよ。何度か不思議なことがあって」
「じゃあ、奈津江がいたのか!」
「そうだと思います。顕さんを今でも見守っているんですね」
顕さんは号泣した。
双子は「タカさんに」と言っていた。
奈津江は、俺のことも見てくれているのか。
俺の目からも、涙が零れた。
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