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奈津江 Ⅵ
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「高虎って、いろんな本を読んでるじゃない。愛ってなんなの?」
「そんな難しいことを聞くなよ」
「ダメ、言って」
奈津江はワガママだ。
「一オッパイ」
「な、なによそれ!」
「愛の話をするから、オッパイを一回触らせてください」
「ダメよ!」
「……」
「分かったわよ。ちょっとだけだからね」
「うん」
「愛ってさ。そりゃ難しいんだけど、俺は「死ぬ」ことだと思うな」
「なによ、それ」
奈津江が口を尖らせる。
「聖書にさ、「友のために死ぬこと。これ以上の愛はない」ってことが書いてあるんだ」
「へぇ」
「それが究極だと思う。家族って大事に決まってる。だけど、そうじゃない他人のために死ぬって、物凄いことなんだと思うよ」
奈津江は黙って聞いていた。
「でもそれは究極であって、愛っていうのは、要は他人のために損を喜んで引き受けることじゃないかな」
「お兄ちゃんだ!」
「そうだよな。顕さんは奈津江のために、どんなことでも喜んでやる人だよ。愛が深いんだよな。自分のことを考えてない。奈津江のことだけじゃない」
「そうだね」
奈津江がカシスソーダを飲み終えた。
次はどうするのかと、二人で話を中断して相談した。
カシスソーダを頼んだ。
俺はジントニックにする。
「俺の勝ちだな!」
腕を叩かれた。
「私はお兄ちゃんに甘えてばっかりで。何もしてないな」
「でも、さっき顕さんに自分の幸せを考えて欲しいって言ってたじゃないか」
「うん」
「俺たちは学生なんだから、まあそんなもんじゃないのか? 店で注文も満足にできねぇし」
腕を叩かれた。
「高虎は、私のために死んでくれるの?」
奈津江が何かを待っている。
俺は正直に答えた。
奈津江の期待通りの返事は簡単だ。
でも、それをしたくなかった。
「おう、って言いたいけどな」
「ダメなの?」
奈津江は少し寂しそうに言った。
「それはさ。実際にそれをやってから言うことだと思うよ」
「……」
「口で言うのは簡単だけどな。でも俺は口に出す奴は、違うんじゃないかと思う」
「そうか、そうだね」
俺はある漫画の話をした。
「君のためなら死ねる」、そう言う脇役が出てくる。
「俺は、あいつは違うと思った。女の気を引きたくて言ってるだけだって」
「でも分からないじゃない」
「そうだよ。分からないから言ってはいけないんだ」
腹が減っていたので、つまみはどんどん無くなった。
オシャレな店で、量が圧倒的に少なかった。
追加を頼もうかと話したが、お互いにさっきの注文の名前を憶えていなかった。
諦めた。
残ったつまみを大事に食べる。
「私たちって、何もできないよね」
奈津江が笑った。
「今はな。でも俺はどんどんいろんなことを覚えて、できる人間になるぜ!」
「あ、分からないことを言ってる」
俺たちは笑った。
「でもさ。奈津江のために、本当にそうなりたいと思ってる」
「ありがとう」
「ほんとだぞ」
「うん」
「だからさ」
「なに?」
「オッパイ触らせて」
腕を思い切り叩かれた。
「折角いい雰囲気だったのにぃ!」
俺は怒った奈津江のために、つまみをもう一度頼んだ。
「すいません、名前が分からないので、後から頼んだのをもう一回」
「ダメ彼氏」
店員が笑って「分かりました」と言ってくれた。
つまみが来て、奈津江の機嫌は直った。
美味しいと言って笑った。
「でも、愛ってやっぱり難しいよね」
「そうだよな」
「口にしてはダメ。それだけは分かった気がする」
「俺は奈津江を愛してるぞ」
「ヘッポコ彼氏はダメです」
奈津江が俺の手を取った。
周囲を見回してから、自分の胸に俺の手を触れさせた。
一瞬だった。
俺は顔を赤くしていたと思う。
「口にするのはダメだから」
だから黙ってやったということか。
ほとんど、何も感じなかった。
そのことは黙っていた。
でも、最高に嬉しかった。
「そんな難しいことを聞くなよ」
「ダメ、言って」
奈津江はワガママだ。
「一オッパイ」
「な、なによそれ!」
「愛の話をするから、オッパイを一回触らせてください」
「ダメよ!」
「……」
「分かったわよ。ちょっとだけだからね」
「うん」
「愛ってさ。そりゃ難しいんだけど、俺は「死ぬ」ことだと思うな」
「なによ、それ」
奈津江が口を尖らせる。
「聖書にさ、「友のために死ぬこと。これ以上の愛はない」ってことが書いてあるんだ」
「へぇ」
「それが究極だと思う。家族って大事に決まってる。だけど、そうじゃない他人のために死ぬって、物凄いことなんだと思うよ」
奈津江は黙って聞いていた。
「でもそれは究極であって、愛っていうのは、要は他人のために損を喜んで引き受けることじゃないかな」
「お兄ちゃんだ!」
「そうだよな。顕さんは奈津江のために、どんなことでも喜んでやる人だよ。愛が深いんだよな。自分のことを考えてない。奈津江のことだけじゃない」
「そうだね」
奈津江がカシスソーダを飲み終えた。
次はどうするのかと、二人で話を中断して相談した。
カシスソーダを頼んだ。
俺はジントニックにする。
「俺の勝ちだな!」
腕を叩かれた。
「私はお兄ちゃんに甘えてばっかりで。何もしてないな」
「でも、さっき顕さんに自分の幸せを考えて欲しいって言ってたじゃないか」
「うん」
「俺たちは学生なんだから、まあそんなもんじゃないのか? 店で注文も満足にできねぇし」
腕を叩かれた。
「高虎は、私のために死んでくれるの?」
奈津江が何かを待っている。
俺は正直に答えた。
奈津江の期待通りの返事は簡単だ。
でも、それをしたくなかった。
「おう、って言いたいけどな」
「ダメなの?」
奈津江は少し寂しそうに言った。
「それはさ。実際にそれをやってから言うことだと思うよ」
「……」
「口で言うのは簡単だけどな。でも俺は口に出す奴は、違うんじゃないかと思う」
「そうか、そうだね」
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「でも分からないじゃない」
「そうだよ。分からないから言ってはいけないんだ」
腹が減っていたので、つまみはどんどん無くなった。
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追加を頼もうかと話したが、お互いにさっきの注文の名前を憶えていなかった。
諦めた。
残ったつまみを大事に食べる。
「私たちって、何もできないよね」
奈津江が笑った。
「今はな。でも俺はどんどんいろんなことを覚えて、できる人間になるぜ!」
「あ、分からないことを言ってる」
俺たちは笑った。
「でもさ。奈津江のために、本当にそうなりたいと思ってる」
「ありがとう」
「ほんとだぞ」
「うん」
「だからさ」
「なに?」
「オッパイ触らせて」
腕を思い切り叩かれた。
「折角いい雰囲気だったのにぃ!」
俺は怒った奈津江のために、つまみをもう一度頼んだ。
「すいません、名前が分からないので、後から頼んだのをもう一回」
「ダメ彼氏」
店員が笑って「分かりました」と言ってくれた。
つまみが来て、奈津江の機嫌は直った。
美味しいと言って笑った。
「でも、愛ってやっぱり難しいよね」
「そうだよな」
「口にしてはダメ。それだけは分かった気がする」
「俺は奈津江を愛してるぞ」
「ヘッポコ彼氏はダメです」
奈津江が俺の手を取った。
周囲を見回してから、自分の胸に俺の手を触れさせた。
一瞬だった。
俺は顔を赤くしていたと思う。
「口にするのはダメだから」
だから黙ってやったということか。
ほとんど、何も感じなかった。
そのことは黙っていた。
でも、最高に嬉しかった。
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