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顕さんの家 Ⅲ

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 子どもたちも風呂に入り、みんなでリヴィングで雑談した。

 「あの、顕さんってタカさんとどういう関係なんですか?」
 皇紀が聞いてきた。
 俺は大事な方としか言っていなかった。

 「ああ、俺が学生時代に付き合っていた人のお兄さんなんだ」
 「「「へぇー!」」」
 顕さんが俺を見ている。
 いいのか、と言っている目だった。
 俺は軽く頷いて続けた。

 「本当に好きな人でな。今でもそうだ。だけど亡くなってしまった。こないだ偶然にお会いして、懐かしくてお誘いしたんだ」
 子どもたちは納得したようだ。
 亜紀ちゃんはもちろん分かっている。

 「亜紀ちゃんとこないだ出掛けた時に、顕さんの話になったんだよ。それでこないだ電話して、来てもらったのな」
 「そうなんだ」
 ルーが言った。
 いつもは誰にでも遠慮なくおしゃべりをしたがる奴だが、今日は何か察してくれたらしい。

 「これからもちょくちょく来てもらいたいから、みんな宜しくな!」
 「「「「はい!」」」」
 「それと、今度別荘にも来てもらうから。あの屋上のアイデアをくれたのは、顕さんなんだぞ!」

 「「「「エェッー!」」」」

 「いや、最初は石神くんがだな」
 「どうだ! 顕さんを尊敬するだろう?」

 「「「「ハイ!」」」」

 子どもたちは口々に、あの屋上のガラスの通路の部屋を褒め称えた。
 
 「ロマンティシズムの塊ですよね!」
 皇紀が言う。
 顕さんが、「石神くんの子どもだね」と言って大笑いした。
 双子も負けじと感動したことを話した。

 「私たちは一昨年の夏に両親を突然亡くしたんです。父の友人だったタカさんが引き取ってくれて。それであの別荘に連れてってくれたんですね」
 亜紀ちゃんが話した。

 「私たちは大きなショックを受けていたんですけど。でもあの場所に入ったら、本当に生まれてきて良かったって。両親に感謝することが出来たんです」
 「そうだったのか」
 顕さんが、亜紀ちゃんに言った。

 「あの場所を作って下さって、ありがとうございました」
 「「「ありがとうございました!」」」
 「いや、俺は」
 「顕さんのお陰ですよ。あの日に奈津江と一緒に顕さんとお話できたからです」
 「そうか」

 俺はこの家も顕さんのアイデアなのだと説明した。
 俺の寝室やバスルームの音響装置。地下室のことやサンルーム。
 様々なものを教えた。

 「このテーブルもそうなんだぞ」
 「この大きなテーブルですか?」
 亜紀ちゃんが驚く。

 「俺の寝室の周りに子どもたちの部屋を作るというのも、そうなんだ。まあ、これはお前たちが来てくれたから実現したんだけどな」
 「エヘヘヘ」
 亜紀ちゃんが笑い、他の三人もニコニコした。

 「さあ、今日はもう部屋に戻れ。俺は顕さんとゆっくり酒を飲みながら話すからな」
 「「「「はーい!」」」」





 子どもたちが出て行った。

 「じゃあ、顕さん。何を飲みましょうか」
 「そうだなぁ。今日はお腹も一杯だから、ちょっと軽いものがいいかな」
 「それじゃあ梅酒にしましょうか。もうちょっと強いのが欲しくなったらその時に」
 「ああ、いいね!」

 俺はバカラのグラスに丸い氷を入れ、梅酒を目いっぱい注いだ。
 ししゃもを炙り、チーズも切って簡単なつまみにした。
 照明を暗く落とす。

 「氷までオシャレだな」
 「そう言って欲しくてやりました」
 乾杯する。

 「今日は、本当に楽しかった。ありがとう」
 「いえいえ。こちらこそ。顕さんにやっと家を見てもらえて嬉しかったです」
 「いい子たちだな」
 「ありがとうございます。ちょっと異常な部分もありますが」
 顕さんが大笑いした。

 「あれはスゴイよなぁ。あんなの見たことないぞ」
 「ライオンだって、もうちょっと大人しく喰いますよね」
 「アハハハハハ!」
 「少なくとも、兄弟に蹴りはぶち込みません」
 「アハハハハハ!」

 「鍋とか、自由に奪い合う食べ方がダメなんですよ。皿に分けて食べると、案外普通なんですが。まあ、結構喰いますけどね」
 顕さんがまた笑った。

 「どうしてそうなのか、俺にも分からないんです。最初のうちは違ったと思うんですが。まあ、うちに来て遠慮がなくなったのかもしれませんけど」
 「石神くんは、よくあの子たちを引き取ったね」
 「そうですねぇ。あんなピラニアだと知ってたら考え直したかもしれません」
 顕さんは大笑いした。

 「そうだよな。あれは大変だ」
 「でも、お客を呼んで楽しんでもらえる、猛獣ショーみたいな部分もあってですね」
 「うんうん」
 「誰もが驚いてくれます」
 「そうだな!」

 「それに」
 「ん、なんだ?」
 「さっきも言いましたが、あいつらが来てくれたお陰で、奈津江との話が実現しました」
 「ああ、そうだったな」
 顕さんが微笑んでそう言った。

 「ところで、この梅酒は美味いな!」
 「そうでしょう! 俺が毎年作ってるんですよ」
 「何かコツがあるのか?」
 「それはですねぇ……」

 俺たちは遅くまで話した。
 二十年間の隙間を埋めるかのように、いろんな話をした。

 








 ただ、奈津江の話はどちらからも出なかった。

 俺たちは、ただ、楽しいだけの夜を過ごしたかった。 
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