上 下
285 / 2,840

六花、マーキング。

しおりを挟む
 翌朝、六花は早く起きた。
 俺は抱き着かれて目を覚ました。

 「身体は大丈夫か、六花?」
 「はい。久しぶりに酔いつぶれてしまったようです」
 「緊張していたんだろう」
 「はい」
 「お前は英語が苦手だからなぁ」
 「ハハハ」

 六花は、俺の身体をまさぐってくる。
 外は明るくなっているが、まだ日は昇っていない。

 「元気そうだな、タイガー・レディ」
 クゥーっと六花が呻く。
 身体を折り曲げて喜んでいる。
 「タイガー・レディ」は、相当気に入ったようだ。

 「シャワーを浴びよう。お前、酒臭いぞ」
 ニコニコして俺を見ている。

 「じゃあ、一緒に」
 俺は手を引かれて一緒にシャワーを浴びた。
 丁寧に全身を洗われた。
 浴室で求め合い、濡れた身体のまま、ベッドにもつれ込む。



 8時頃に会計をしようとすると、既に全額支払われていると言われた。
 俺たちは駐車場のバイクに跨った。

 「タンパク質を補いましょう!」
 「普通に食事と言え!」
 昨日の店ではもったいないので、もう一軒の有名店へ行く。
 俺と六花は、でかい第七艦隊バーガーを二つずつ注文した。
 俺はコーヒーを、六花はトマトジュースを頼んだ。

 「おい、タイガー・レディ!」
 「はい!」
 元気よく返事する。

 「お前、俺の女なら、英語くらい話せないとな」
 六花はトマトジュースを噴出した。
 店員が慌てて布巾とティッシュの箱を持ってくる。

 「お前なぁ」
 「すいません。でも石神先生がいきなり」
 「俺の女で英語を話せないのは、お前だけだぞ?」
 「え?」
 「響子はもちろん。栞だって話せる。柳もそうだし、緑子だってな」
 「緑子さんというのは?」
 しまった。

 「な、なんでもねぇ」
 「そこのところを詳しく」
 「うるせぇ! 今はお前の話だぁ!」

 六花が俺を睨んでいる。
 睨みながら、片手の指を折って数えている。

 「週休二日ですね」
 「いや、なんの話?」

 「でも、どうして石神先生の女は英語が話せないといけないのでしょうか」
 「お前が英語を聞くたびにビクビクしてるのを見てられないんだよ」
 「!」

 「別に大したことじゃないんだぞ? 俺だってカタコトのうちだ。でも意志疎通はちゃんとできる。その程度でいいんだよ」
 「はい」
 「今度、アビゲイルに頼んでみる。前に俺も勧められたしなぁ」
 「じゃあ、石神先生と一緒にレッスンを!」
 「俺は別に必要ねぇからな」
 「そんなぁ」
 「六花は頭が悪いわけじゃないからな。やってみればいいんだよ」
 「はい、いつものアレですね」
 「アレだよ」

 「夕べ、マリーンと繋がりができたからな。今後はお前も一緒に行動することもあるかもしれん」
 「そうなんですか?」
 「まあ、分からんけどなぁ」

 俺たちはまだ、この先にとんでもない未来が待っているとは、まあ知らなかった。

 俺たちは足りなくて、第七艦隊バーガーをもう一個ずつ頼んだ。

 「大丈夫ですか?」
 店員が心配そうに聞いて来る。

 「タンパク質を大量に喪ったので」
 六花がそう答えた。








 帰りの途中、六花が羽田空港に寄りたがった。
 仕方なく、付き合う。

 「マーキングをします」
 よく分からないことを言った。
 朝にあれほど食べたのに、もう小腹が空いている。
 また下の店でホットドッグを食べた。

 「こないだ、亜紀ちゃんとも来たな」
 「マーキングへのご協力、ありがとうざいます」
 「……」
 六花は、はみ出したソーセージを舐めながら俺を見る。

 「もうタンパク質は補えましたね」
 「バカなことを言うな!」

 「あ、そうだ!」
 六花は、俺を展望デッキへ引っ張っていった。
 椅子に一緒に座る。

 「誰か撮ってくれませんかね?」
 「何を考えてんだ?」

 俺たちはしばらくのんびりと昼の羽田空港を眺めた。
 いつの間にか眠ってしまった。
 俺が先に目を覚ます。
 ぐっすりと眠っている六花を揺り起こした。
 
 「お前、よだれが出てるぞ」
 「はっ!」
 慌てて手で拭う。





 翌週の月曜日。
 六花は一江に何事か頼んで部屋を出て行った。
 数分後、一江が俺にスマホを持ってくる。
 俺と六花が寝ている画像だ。






 六花の少し微笑んだ美しい顔。
 口からはよだれが零れていた。
 それでも、六花は尚美しかった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...