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紅の友 Ⅵ

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 六花も戻り、俺も子どもたちと食事の準備を丁度、終えた。
 今日は「分かりやすく」、すき焼き鍋にする。
 配置は俺の右にタケ、そして亜紀ちゃん、ルー。左によしこ、そして皇紀、ハー。
 六花は俺の隣にした。

 「どうせお前らは俺が何を言おうと無駄なのは分かってる!」
 「「「「はい!」」」」

 「今日も一応言うが、お客さんが来てるんだぞ!」
 「「「「はい!」」」」

 「六花の大事な友達だ。分かってるな!」
 「「「「はい!」」」」

 「注意だけしておく! まず、花岡流はナシだ!」
 「「「「はい!」」」」

 「飛び道具もなし。使っていいのは配った割箸だけだ!」
 「「「「はい!」」」」

 「折れた場合は三分間の休止!」
 「「「「はい!」」」」

 「お前ら同士はいいが、お客さんに攻撃するな。一発退場だからな!」
 「「「「はい!」」」」

 「それとタケ、よしこ!」
 「「は、はい?」」

 「うちの鍋は戦争だ。早い者勝ちがルールだ」
 「「はい」」

 「うかうかしてると、本当に食いっぱぐれるからな。頑張って食べてくれ」
 「「はい」」

 「お前らはうちの子への攻撃は許可する。思い切りやっても子どもたちはケガなんかしねぇから遠慮するな」
 「「ええぇ?」」

 俺が笑みを浮かべると、よく分からないという顔をした。

 「まあ、楽しんでくれ。健闘を祈る。では「いただきます」」
 「「「「「「「いただきます!」」」」」」」




 ハーがいきなり手刀で皇紀の箸をへし折った。
 「初手からかよー!」

 皇紀は目の前の砂時計をひっくり返す。
 三分間の退場だ。
 のしかかってくるハーを、皇紀は後ろに放り投げる。
 ハーは受け身を取って、皇紀の首に足を絡める。
 三角締めだ。
 タップは意味がねぇ。
 皇紀が落ちたので、俺が喝を入れてやる。

 ルーは亜紀ちゃんに肘をぶち込もうとし、亜紀ちゃんはスウェイバックでそれを避けた。
 そのまま、皇紀と同じく体重の軽いルーを後ろに放り投げる。
 ルーは、空中で回転し、両足が付くとダッシュで鍋に向かってくる。
 亜紀ちゃんは振り返りもせずに、半腰でルーに後ろ蹴りを放った。
 十字受けで耐えるルー。
 まだ始まって1分も経っていない。

 タケとよしこは口を開けて驚いていた。

 「おい! モタモタするなと言っただろう!」

 六花は目の前の鍋から次々と肉を攫っていく。
 亜紀ちゃんは時々六花の箸をへし折ろうとしてくるが、六花は上手く避けていた。
 タケとよしこも次第に空気に馴染み、肉を漁る。
 ルーとハーは素晴らしい身体能力で、次々に肉をゲットしていく。

 「もう肉がないよー!」

 皇紀が叫ぶが、もう誰も聞いていない。

 俺は自分の肉の「絶対不可侵領土」を宣言し、次々と肉を投入していく。
 亜紀ちゃんのペースがいつも以上に早い。
 俺は亜紀ちゃんの箸にバナナを突き刺す。
 亜紀ちゃんは物凄い目で睨んで来るが、何も言わずにバナナの皮を剥いた。
 皇紀が戦線復帰し、独自の走法で肉を平らげ始めた。

 「この双子は悪魔か!」
 タケが叫ぶ。
 双子は連携しながら互いの肉を確保していく。

 「このやろう! それはあたいの取った肉だ!」
 亜紀ちゃんによしこが怒鳴る。
 亜紀ちゃんはニタリと肉食獣の笑みを浮かべた。
 悪魔亜紀の人格になっている。
 隣で六花が幸せそうに笑っていた。
 ガツガツと子ども相手に肉を奪いながら、本当に嬉しそうに楽しんでいた。

 多くの肉を奪われながら、タケとよしこも結構な量を食った。
 うちの子どもたちを相手に、なかなかの健闘だ。

 「はぁー! もう喰えねぇ」
 「あたしももう無理だ」

 二人が戦線を離脱した。
 子どもたちと六花はまだ争っている。



 「石神さん、いつもこんななんですか」
 「ああ、スゴイだろ? うちの食費は結構なもんだぞ」
 「そうでしょうねぇ」
 二人は笑って鍋の奪い合いを見ている。

 「これでもいろいろ工夫してるんだよ」
 「どういうことですか」
 皇紀がハーの「蹴り」で箸を折られた。

 「最初のうちは、普通の箸だったんだ。でも見ただろ? こいつら他人の箸をへし折って奪い合うようになったんだよ」
 「「はい?」」
 「だからチタンの箸を使ってみたんだ。そうしたら今度はガチガチとうるせぇ。時々火花が散るしな。仕舞にゃチタンが折れ曲がった」
 「「はい?」」
 「だから今じゃ見ての通り、最初から割箸にしてる。折られたらしばらく休止、というな。それでほんのちょっと一般人に近づいた」
 「いやいや、全然一般じゃないですよ」
 「そうかな」

 俺はタケとよしこに、はまぐりの吸い物をよそってやった。
 子どもたちが横目で見ているが、まだ肉に集中している。
 六花は肉を頬張りながら、椀を突き出してくる。

 「お前なぁ! 普通は惚れた男に給仕するもんだぞ!」
 「ばい、ずぶばちぇん」
 肉を一部吹きながら返事をする。

 「なあ、こいつ本当に俺を好きなのか?」
 タケとよしこが大笑いした。





 今日の肉は20キロあった。
 「梅田精肉店」の配達員が、ニコニコとして持って来てくれた。
 いつも通り、肉が終わって鍋も収束した。

 「今日はうどんと雑炊とどっちにする?」
 「「「「雑炊!」」」」
 「まだ食べるのかよ!」

 タケたちがまた驚いていた。




 「じゃあ、お茶を煎れますね」
 亜紀ちゃんが笑顔でそう言うと、タケとよしこが引き攣った顔をした。

 「なんか、怖い子ですね」
 「そう言うなよ。鍋以外は本当に優しい子なんだから」
 言い訳めいたことを言う。

 「石神さん、パネェっす!」
 「よくこんな子たちを束ねてますね」
 「分かってくれるかよ」

 俺たちは手を握り合った。
 六花がそこに自分の手を乗せてきた。
 俺はその手を叩いて鍋に突っ込んでやる。

 「あつい!」

 タケとよしこが俺を睨んだが、六花の嬉しそうな顔をして表情を緩めた。

 「ああ、ご主人様だもんな」
 「そうだよね」







 六花は嬉しそうに手を布巾で拭っていた。
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