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紅の友 Ⅴ
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六花は、高校卒業の資格を取った。
そこから看護師養成学校へ通い、看護師の資格を取得する。
並大抵の努力ではなかった。
しかし、六花にとっては、苦労ではなかった。
親友の夢は、自分が背負う。
それだけしかなかった。
「石神さん。夕べ、総長が話してくれたんです。総長が一度だけ、看護師を辞めようと思ったときに、石神さんが止めてくれたって」
「そんなこともあったっけかな」
タケとよしこが嬉しそうに笑った。
「総長が言ってました。石神さんは絶対に忘れた振りをするって」
「そうかよ」
俺も笑った。
「本当に助けられたんだ、と総長は言っていました。この恩だけは、一生忘れないと」
「大げさな奴だな」
「それに、本当に強かった、と」
「なんだよ」
「総長の親父さんも散々殴ってたそうですが、顔には滅多に手を出さなかったそうです」
「ふーん」
「でも石神さんは、一切の躊躇なく、最初に総長の鼻をへし折ったそうですね」
「いや、忘れたな」
「女の顔にパンチを入れる人も大概ですが、鼻を折るって悪魔ですか」
「いや、偶然入っちゃったのかな」
二人がまた笑った。
「でも、総長はそれが嬉しかったって。初めの頃は照れ隠しで石神さんが強いから惚れたとか言ってたそうですが、本当は最初から石神さんの優しさに惚れたんだと言ってました」
「勘弁してくれ。俺は全然優しい人間なんかじゃないよ」
「ダメですよ。うちらは総長の言葉が絶対なんですから」
「なんだよ、それは」
タケたちが嬉しそうに笑っている。
こいつらはまったく。
「お前らだって、六花の優しさに惚れたんだろうよ」
「そうです! あたしらは半端者で、ただ世間に甘えて反抗してただけです。でも総長がそんなあたしらを率いて、公園を掃除しようとか、施設の子どもたちを笑わせてやろうとか」
「誰が困ってるらしいから、ちょっと見てくる、なんてしょっちゅうでした」
「そうか」
「そんな総長についていくと、いつの間にかあたしらまで「ありがとう」なんて言われるようになって。生きるってこういうことかとみんなが喜んでました」
「うん」
「でも、あの時だけはどうしようもなく寂しかった」
「そうだよね」
「総長が『紅六花』を辞めると。自分は看護師になるって。なんでそう言うのかはみんな分かってましたけど」
「みんなで笑って、「応援します」としか言えなかった。みんな辞めないで欲しいと思ってましたけど、誰も言えませんでした」
「『紅六花』はその後どうなったんだ?」
「一応、よしこが総長代理をやってます」
「おす!」
「二代目じゃねぇのか」
「あたしらの総長はたった一人です」
「今もみんなで集まったりはしますが、もう走ってません。結構みんないい歳ですしね」
「そうか」
「でも『紅六花』の活動はしてますよ。地域の清掃や老人ホームの慰問とかバザーとか。いろいろやってます。新しいメンバーも時々入ってます」
「みんな半端者ばっかりですけどね」
「そいつらの教育も、重要なあたしらの役目です」
「六花と同じことをしてるのか」
「はい。全然及びませんけどね」
「石神さん、あたしらからも、お礼を言わせてください」
「なんだよ」
「総長を止めて下さって、本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
二人は立ち上がって、深々と頭を下げた。
「やめろよ。俺はただ、あいつの鼻を折っただけだ」
「はい」
なんでこいつらは、俺の大切なものにこうも触れてくるのか。
嫌な感じが全然ないのは、こいつらもまた六花に惚れているからだろう。
俺たちは、同じ美しいものを見ている。
「お前らだって、あいつの魂の美しさを知っているだろう。まあ、ガラも相当綺麗だけどなぁ」
「「はい」」
「あいつが潰れないように、お前らも助けてくれ。六花の、お前らへの信頼は半端じゃねぇからな」
「「はい!」」
「じゃあ、話はひとまずここまでにしよう。ここでゆっくりしててくれ。そのうち六花も来るだろう」
「分かりました。ありがとうございました」
「まあ、今晩の食事は楽しんでくれ」
俺の歓待もワンパターンになってきているかもしれない。
まあ、折角猛獣を4匹も飼ってるんだからなぁ。
エサ代くらいは働いてもらおう。
そこから看護師養成学校へ通い、看護師の資格を取得する。
並大抵の努力ではなかった。
しかし、六花にとっては、苦労ではなかった。
親友の夢は、自分が背負う。
それだけしかなかった。
「石神さん。夕べ、総長が話してくれたんです。総長が一度だけ、看護師を辞めようと思ったときに、石神さんが止めてくれたって」
「そんなこともあったっけかな」
タケとよしこが嬉しそうに笑った。
「総長が言ってました。石神さんは絶対に忘れた振りをするって」
「そうかよ」
俺も笑った。
「本当に助けられたんだ、と総長は言っていました。この恩だけは、一生忘れないと」
「大げさな奴だな」
「それに、本当に強かった、と」
「なんだよ」
「総長の親父さんも散々殴ってたそうですが、顔には滅多に手を出さなかったそうです」
「ふーん」
「でも石神さんは、一切の躊躇なく、最初に総長の鼻をへし折ったそうですね」
「いや、忘れたな」
「女の顔にパンチを入れる人も大概ですが、鼻を折るって悪魔ですか」
「いや、偶然入っちゃったのかな」
二人がまた笑った。
「でも、総長はそれが嬉しかったって。初めの頃は照れ隠しで石神さんが強いから惚れたとか言ってたそうですが、本当は最初から石神さんの優しさに惚れたんだと言ってました」
「勘弁してくれ。俺は全然優しい人間なんかじゃないよ」
「ダメですよ。うちらは総長の言葉が絶対なんですから」
「なんだよ、それは」
タケたちが嬉しそうに笑っている。
こいつらはまったく。
「お前らだって、六花の優しさに惚れたんだろうよ」
「そうです! あたしらは半端者で、ただ世間に甘えて反抗してただけです。でも総長がそんなあたしらを率いて、公園を掃除しようとか、施設の子どもたちを笑わせてやろうとか」
「誰が困ってるらしいから、ちょっと見てくる、なんてしょっちゅうでした」
「そうか」
「そんな総長についていくと、いつの間にかあたしらまで「ありがとう」なんて言われるようになって。生きるってこういうことかとみんなが喜んでました」
「うん」
「でも、あの時だけはどうしようもなく寂しかった」
「そうだよね」
「総長が『紅六花』を辞めると。自分は看護師になるって。なんでそう言うのかはみんな分かってましたけど」
「みんなで笑って、「応援します」としか言えなかった。みんな辞めないで欲しいと思ってましたけど、誰も言えませんでした」
「『紅六花』はその後どうなったんだ?」
「一応、よしこが総長代理をやってます」
「おす!」
「二代目じゃねぇのか」
「あたしらの総長はたった一人です」
「今もみんなで集まったりはしますが、もう走ってません。結構みんないい歳ですしね」
「そうか」
「でも『紅六花』の活動はしてますよ。地域の清掃や老人ホームの慰問とかバザーとか。いろいろやってます。新しいメンバーも時々入ってます」
「みんな半端者ばっかりですけどね」
「そいつらの教育も、重要なあたしらの役目です」
「六花と同じことをしてるのか」
「はい。全然及びませんけどね」
「石神さん、あたしらからも、お礼を言わせてください」
「なんだよ」
「総長を止めて下さって、本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
二人は立ち上がって、深々と頭を下げた。
「やめろよ。俺はただ、あいつの鼻を折っただけだ」
「はい」
なんでこいつらは、俺の大切なものにこうも触れてくるのか。
嫌な感じが全然ないのは、こいつらもまた六花に惚れているからだろう。
俺たちは、同じ美しいものを見ている。
「お前らだって、あいつの魂の美しさを知っているだろう。まあ、ガラも相当綺麗だけどなぁ」
「「はい」」
「あいつが潰れないように、お前らも助けてくれ。六花の、お前らへの信頼は半端じゃねぇからな」
「「はい!」」
「じゃあ、話はひとまずここまでにしよう。ここでゆっくりしててくれ。そのうち六花も来るだろう」
「分かりました。ありがとうございました」
「まあ、今晩の食事は楽しんでくれ」
俺の歓待もワンパターンになってきているかもしれない。
まあ、折角猛獣を4匹も飼ってるんだからなぁ。
エサ代くらいは働いてもらおう。
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