268 / 2,840
紅の友
しおりを挟む
六花が相談があると言って来た。
いつものように、響子が食事後に寝てから、一緒に食事をとる。
近所の「ざくろ」でランチを注文した。
「なんだよ、相談って」
「はい。実はタケとよしこが遊びに来ると言ってます」
「そうか、よかったな。久しぶりに楽しめよ」
「はい」
六花は、そのまま黙り込む。
「あの」
「あんだよ」
「タケとよしこが」
「今聞いたぞ」
「はい」
また沈黙。
六花は、時々めんどくさい。
「だから、相談ってなんなんだよ!」
「はい。タケとよしこと」
俺は六花の脳天にチョップを入れた。
「イタイです」
俺はもう一度構える。
「あの、どうやって楽しめばいいと思いますか?」
チョップ。
「イタイです」
「お前なぁ、いい加減にしろよ! お前ら、あの時楽しそうにやってたじゃねぇか!」
前に一緒に六花の父親の墓参りに行った時だ。
俺の都合も何も吹っ飛ばして、大宴会をやりやがった。
「でも、何をしてやればいいのか、分からないんです」
俺が分からねぇ。
「お前らいい仲間なんだろ? 何をやったっていいじゃねぇか」
「はい。でも、私たちは一緒に走っていた仲間ですので、それ以外で何かやったことがないんです」
「はい?」
「私もタケたちも、もう二輪は持ってませんし、じゃあ何をすればいいのかと」
言われて見れば、と思う。
基本的に六花は仕事しかない。
まあ、俺との関係というものもあるが、もちろんどちらもタケたちに当てはめることはできない。
六花には趣味や遊びというものがない。
響子のことと、俺のこと以外に何もない人間なのだ。
前回は六花が歓迎されての大宴会だった。
今回は六花がもてなす番だ。
悩みということがようやく理解できた。
「確かになぁ。分かったよ」
「あの、脳天がイタイです」
俺が構えると、六花も十字受けのポーズをとる。
「でもよ、別に普通に美味しいものでも食べて、昔話でもしてりゃいいんじゃねぇか?」
「そうなのかもしれませんが、折角来てくれたタケとよしこに、いい思い出をあげたいと」
「お前のような響子とエロしかねぇ奴が、何を高望みしてんだよ」
「でも……」
六花が辛い顔をしている。
まったくなぁ。
そんな顔をするなよ。
「分かったよ。何か俺にして欲しいことはあるか?」
六花の顔が明るくなる。
「はい! 是非、石神先生のお宅に伺わせていただければと」
「俺の家?」
「そうです。タケもよしこも、石神先生のことを非常に尊敬してまして」
「そうなのかよ」
「はい! こちらへ来たら、是非ご挨拶に伺いたいと」
「それは構わないけどよ」
俺の承諾を得た六花は、さらに踏み込んできた。
「それでですね。石神先生は、いつも来客をもてなすのが上手いじゃないですか」
「そんなこともないけどなぁ」
「いえ。私も度々お邪魔してますから分かります。響子はもちろん、花岡さんでも柳さんのことでも、石神先生は必ず相手を喜ばせ、感動させてくださいます」
「タケたちにもそうして欲しいってか」
「はい! 是非お願いします!」
「お前、俺に丸投げじゃねぇか」
「申し訳ありません。でも他に相談できる方が」
「一杯いるだろう。あの地獄の宴会メンバーだって、ちゃんと相談に乗ってくれるだろうよ」
「そうかもしれませんが、やはり石神先生が一番だと」
「まったくなぁ。まあ、他ならぬお前の頼みだから受けてやるけどな。でも、自分で考える人間になれよな」
「はい! 申し訳ありません!」
六花はようやく食事に箸をつけた。
和食御膳のような、様々な料理が皿に乗っている。
いちいち美味しいと感動しやがる。
カワイイ奴だ。
「でもな。冗談じゃなく、お前らでツーリングなんていいんじゃねぇか?」
「はぁ。タケたちは問題ないと思いますが、私はバイクの置き場所もありませんし」
「何言ってんだよ。お前のマンションの駐車場に置けばいいじゃねぇか」
「?」
ヘンな顔をしている。
「お前、まさか自分が駐車場を持ってるって知らなかったのか?」
「あるんですか?」
「あるに決まってるだろう」
「あ、いつも石神先生が停めていらっしゃる場所!」
「ちげぇよ! 俺はいつもゲスト用の場所に停めてるんだ。お前、俺が毎回使用の用紙に記入してるのを見てるだろう」
「ああ、そういえば! では自分のバイクや車を置いてもいいと?」
「当たり前だろう!」
「何か、素晴らしい夢が拡がりました」
「おめでとう!」
まったく。
「六花、お前、あのマンションの自分の部屋以外のことを、もしかして知らないのか?」
「はぁ」
「ゲストを無料で泊める部屋だってあるんだぞ?」
「え!」
「ホテルのように、オークラから料理を運ばせることだって出来るんだ」
「は?」
「忙しいお前が食事を作る余裕もなくなるのを心配して、アビゲイルが高木にそういうサービスのあるような所を探させたんだ。最初はオークラの部屋をとろうとまで考えてたんだぞ?」
「へ?」
本当に何も聞いてないのか。
「最初に高木から、ちゃんと話したはずだけどなぁ」
「そういえば、そんなことも」
「……」
「あの、石神先生」
「ダメだ」
「何も言ってませんが」
「お前は、「今晩うちへ来て、いろいろ教えていただけませんでしょうか」と言うんだろう」
「超能力者!」
「お前ほど分かりやすい人間もいねぇからなぁ」
「はぁ」
「他の人間なら、お前の「アレコレ」を心配して確認にも行くかもしれないけどな。あの二人ならば、何を見られてもいいだろうよ」
「そうですか」
よしこには、とんでもないシーンを見られたしな。
「まあ、俺に任せろ。うちで夕食でも一緒に、ということでいいか?」
「あの、できれば泊めて頂くことはできませんか?」
「ああ? まあ、あの二人には一応世話にもなったから、いいか」
「ありがとうございます」
「ところでよ。二人揃って来るなんて、自分の店とかホテルとかは大丈夫なのか?」
「はい。タケの店は建て替えるということです。その間暇になるので、こちらへと」
「よしこは?」
「よしこは基本的に時間を自由に出来ますから。ホテル経営などを手広くやってます」
「あのラブホテルか」
「いえ、他に市内に大きなホテルやレストランを経営してます」
「ちょっと待て。じゃあ、なんで俺たちはあの時、ラブホに案内されたんだ」
「それは楽しんで欲しいという配慮かと」
「……」
「お前の友達は本当にいい奴らだな」
「はい! 最高の仲間です!」
皮肉に最高の笑顔を浮かべる六花に、俺は眩しいものを感じた。
分かったよ、俺に任せろ。
楽しませてやるよ。
まったくお前は本当に最高にいい奴だよな。
いつものように、響子が食事後に寝てから、一緒に食事をとる。
近所の「ざくろ」でランチを注文した。
「なんだよ、相談って」
「はい。実はタケとよしこが遊びに来ると言ってます」
「そうか、よかったな。久しぶりに楽しめよ」
「はい」
六花は、そのまま黙り込む。
「あの」
「あんだよ」
「タケとよしこが」
「今聞いたぞ」
「はい」
また沈黙。
六花は、時々めんどくさい。
「だから、相談ってなんなんだよ!」
「はい。タケとよしこと」
俺は六花の脳天にチョップを入れた。
「イタイです」
俺はもう一度構える。
「あの、どうやって楽しめばいいと思いますか?」
チョップ。
「イタイです」
「お前なぁ、いい加減にしろよ! お前ら、あの時楽しそうにやってたじゃねぇか!」
前に一緒に六花の父親の墓参りに行った時だ。
俺の都合も何も吹っ飛ばして、大宴会をやりやがった。
「でも、何をしてやればいいのか、分からないんです」
俺が分からねぇ。
「お前らいい仲間なんだろ? 何をやったっていいじゃねぇか」
「はい。でも、私たちは一緒に走っていた仲間ですので、それ以外で何かやったことがないんです」
「はい?」
「私もタケたちも、もう二輪は持ってませんし、じゃあ何をすればいいのかと」
言われて見れば、と思う。
基本的に六花は仕事しかない。
まあ、俺との関係というものもあるが、もちろんどちらもタケたちに当てはめることはできない。
六花には趣味や遊びというものがない。
響子のことと、俺のこと以外に何もない人間なのだ。
前回は六花が歓迎されての大宴会だった。
今回は六花がもてなす番だ。
悩みということがようやく理解できた。
「確かになぁ。分かったよ」
「あの、脳天がイタイです」
俺が構えると、六花も十字受けのポーズをとる。
「でもよ、別に普通に美味しいものでも食べて、昔話でもしてりゃいいんじゃねぇか?」
「そうなのかもしれませんが、折角来てくれたタケとよしこに、いい思い出をあげたいと」
「お前のような響子とエロしかねぇ奴が、何を高望みしてんだよ」
「でも……」
六花が辛い顔をしている。
まったくなぁ。
そんな顔をするなよ。
「分かったよ。何か俺にして欲しいことはあるか?」
六花の顔が明るくなる。
「はい! 是非、石神先生のお宅に伺わせていただければと」
「俺の家?」
「そうです。タケもよしこも、石神先生のことを非常に尊敬してまして」
「そうなのかよ」
「はい! こちらへ来たら、是非ご挨拶に伺いたいと」
「それは構わないけどよ」
俺の承諾を得た六花は、さらに踏み込んできた。
「それでですね。石神先生は、いつも来客をもてなすのが上手いじゃないですか」
「そんなこともないけどなぁ」
「いえ。私も度々お邪魔してますから分かります。響子はもちろん、花岡さんでも柳さんのことでも、石神先生は必ず相手を喜ばせ、感動させてくださいます」
「タケたちにもそうして欲しいってか」
「はい! 是非お願いします!」
「お前、俺に丸投げじゃねぇか」
「申し訳ありません。でも他に相談できる方が」
「一杯いるだろう。あの地獄の宴会メンバーだって、ちゃんと相談に乗ってくれるだろうよ」
「そうかもしれませんが、やはり石神先生が一番だと」
「まったくなぁ。まあ、他ならぬお前の頼みだから受けてやるけどな。でも、自分で考える人間になれよな」
「はい! 申し訳ありません!」
六花はようやく食事に箸をつけた。
和食御膳のような、様々な料理が皿に乗っている。
いちいち美味しいと感動しやがる。
カワイイ奴だ。
「でもな。冗談じゃなく、お前らでツーリングなんていいんじゃねぇか?」
「はぁ。タケたちは問題ないと思いますが、私はバイクの置き場所もありませんし」
「何言ってんだよ。お前のマンションの駐車場に置けばいいじゃねぇか」
「?」
ヘンな顔をしている。
「お前、まさか自分が駐車場を持ってるって知らなかったのか?」
「あるんですか?」
「あるに決まってるだろう」
「あ、いつも石神先生が停めていらっしゃる場所!」
「ちげぇよ! 俺はいつもゲスト用の場所に停めてるんだ。お前、俺が毎回使用の用紙に記入してるのを見てるだろう」
「ああ、そういえば! では自分のバイクや車を置いてもいいと?」
「当たり前だろう!」
「何か、素晴らしい夢が拡がりました」
「おめでとう!」
まったく。
「六花、お前、あのマンションの自分の部屋以外のことを、もしかして知らないのか?」
「はぁ」
「ゲストを無料で泊める部屋だってあるんだぞ?」
「え!」
「ホテルのように、オークラから料理を運ばせることだって出来るんだ」
「は?」
「忙しいお前が食事を作る余裕もなくなるのを心配して、アビゲイルが高木にそういうサービスのあるような所を探させたんだ。最初はオークラの部屋をとろうとまで考えてたんだぞ?」
「へ?」
本当に何も聞いてないのか。
「最初に高木から、ちゃんと話したはずだけどなぁ」
「そういえば、そんなことも」
「……」
「あの、石神先生」
「ダメだ」
「何も言ってませんが」
「お前は、「今晩うちへ来て、いろいろ教えていただけませんでしょうか」と言うんだろう」
「超能力者!」
「お前ほど分かりやすい人間もいねぇからなぁ」
「はぁ」
「他の人間なら、お前の「アレコレ」を心配して確認にも行くかもしれないけどな。あの二人ならば、何を見られてもいいだろうよ」
「そうですか」
よしこには、とんでもないシーンを見られたしな。
「まあ、俺に任せろ。うちで夕食でも一緒に、ということでいいか?」
「あの、できれば泊めて頂くことはできませんか?」
「ああ? まあ、あの二人には一応世話にもなったから、いいか」
「ありがとうございます」
「ところでよ。二人揃って来るなんて、自分の店とかホテルとかは大丈夫なのか?」
「はい。タケの店は建て替えるということです。その間暇になるので、こちらへと」
「よしこは?」
「よしこは基本的に時間を自由に出来ますから。ホテル経営などを手広くやってます」
「あのラブホテルか」
「いえ、他に市内に大きなホテルやレストランを経営してます」
「ちょっと待て。じゃあ、なんで俺たちはあの時、ラブホに案内されたんだ」
「それは楽しんで欲しいという配慮かと」
「……」
「お前の友達は本当にいい奴らだな」
「はい! 最高の仲間です!」
皮肉に最高の笑顔を浮かべる六花に、俺は眩しいものを感じた。
分かったよ、俺に任せろ。
楽しませてやるよ。
まったくお前は本当に最高にいい奴だよな。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる