富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
265 / 2,903

双子の家出。 そんなに悪いことしてないもん。

しおりを挟む
 のんびりと、年末年始を過ごした。
 今年は特におせち料理にも凝らず、亜紀ちゃんが中心となり、ある程度のものを用意した。
 一江や大森たちはやりたいようだったが、去年活躍してくれた峰岸も今年は実家へ帰るとのことで、断った。
 年末に響子と六花を招いたが、ゆったりと響子を可愛がったくらいで、特別なことは無かった。
 初詣も、今年は北さんたちとは別になったようで、助かった。

 しかし、正月三日に事件は起きた。



 「タカさーん! 朝ごはんだよー!」
 双子がいつものごとく、起こしに来た。
 子どもたち、特に双子は、俺がのんびり過ごしていたせいか、体力を持て余し気味だった。
 今日は二人で側転とバク転で迫ってくる。
 どう着地するつもりか。
 俺はぼんやりと見ていた。

 ルーがベッドの端に引っかかった。
 そのまま、横倒しになり、バク転をしていたハーが避けようと跳び上がった。
 慣性の法則により、ハーは俺の上を通り過ぎ、ベッドの枕元の壁に架かっている、リャドの30号の絵画を踏み抜いた。

 三人で硬直する。

 「おーまぁーえーらーーーー!!!!!

 俺が怒鳴り切る前に、双子は吹っ飛んでいって消えた。
 リャドの『カンピン夫人』が、ホラー映画のように捻じ切れていた。
 顔を洗い、リヴィングに下りると、亜紀ちゃんと皇紀が蒼褪めていた。

 「タカさん! すいませんでした!」
 「すいません!」
 二人が土下座する。

 「ルーとハーはどこだ!」
 「あの、逃げました」
 「なんだとぉー!」

 1分もしない間の出来事だった。
 双子は、俺の寝室の絵を「ちょっと」壊したので、しばらくほとぼりが醒めるまで家を出る、と言ったそうだ。
 既に着替えていたので、コートなどを持って、急いで家を出て行ったそうだ。
 亜紀ちゃんも皇紀も、止める間も無かったと言っていた。

 ウインナーと目玉焼きを咥えて行った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ハー、これからどうしよっか」
 「うーん。タカさんが怖くて、とりあえず逃げちゃったけど、考えてないよねー」
 「「うーん」」

 家から1キロ離れた公園で、二人でベンチに腰掛けている。
 前に石神が犬にのしかかられたベンチだ。

 「とにかくさ。お腹減ったじゃない。何か食べながら考えようよ」
 「そーだね!」
 二人は、JR中野駅に向かった。

 「どこもやってないねー」
 「うん。まだお正月だもんねー」
 店はどこも閉まっている。
 空腹と寒さに耐え切れず、普段は入らないハンバーガーショップへ入った。
 5個ずつ注文して、2階席でかぶりつく。

 「あー、やっぱ美味しくないや」
 「うん。でもしょうがないよ」
 とりあえず、空腹は解決した。
 ポタージュスープを啜りながら、この後の行動を話し合う。

 「このスープもゲロマズだね」
 「タカさんのコンソメ、美味しかったー!」
 「やめよう、むなしくなる」
 「そうか」

 「まずは、今日は家に帰らない。これは決定だよね」
 「うん。今日はタカさんの怒りマックスだから、夜でもヤバイよね」
 「それにさ、明日になったらタカさんも心配して、もう帰っただけで大泣き、とか」
 「それだ! 最近タカさん、よく泣くよね!」
 二人は意見の同意をみた。



 「じゃあさ、次に考えるべきは、どこで寝るかだね」
 「ホテルでいいんじゃない? お金は十分にあるんだし」

 「そうだね。じゃあ、今日は豪遊しちゃうか!」
 「さんせー!」
 二人は電車を乗り継ぎ、赤坂のニューオータニへ行く。

 「ごめんなさいね。保護者の方と一緒じゃないとお泊めできないのよ」
 フロントのきれいなおねーさんがそう言った。

 「「チッ!」」

 レストランも入れなかった。

 「「チッ!」」

 「ねぇ、ルー。やっぱり子ども二人じゃダメなんだよ」
 「そうだね。じゃあ、どこかの家に泊めてもらうか」
 二人はロビーで相談している。

 「リッカちゃんは? 広いマンションに独り暮らしだって」
 「ダメダメ。リッカちゃんはとにかくタカさん大好きだから、絶対黙ってないよ」
 「そうかー。じゃあ花岡さんもダメだよね」
 「そう、ベタ惚れだからねー」
 「「うーん」」

 御堂さんち。
 遠い、それに親友に迷惑かけたと、怒りが百倍。

 便利屋さん。
 いい人なんだけど、ちょっとキモい、家汚そう、ゴキ出そう、家無いかも。

 一之瀬さん。
 やっぱタカさん信者。

 緑子さん。
 連絡先知らない。
 
 「うーん、行き詰ったね」
 「どっかにいないかなー。私たちのことが大好きで、タカさんに対等以上の人」
 「「うーん。ん?」」

 「そうだ!」
 「それだ!」

 「でも連絡先、知らないよ?」
 「大丈夫、こないだ家の地番を見たから!」
 「さすがハー!」
 二人は西池袋へ向かった。







 「はーい! あらあら、どうしたの二人とも」
 優しく、にこやかに聞かれた。

 「あのね、私たち、家出してきたの」
 「タカさんのね、大事な絵をちょっとだけ壊しちゃったの」
 「タカさんがもの凄く怒ってるの」
 「死んじゃうかも、って思って逃げてきたの」

 「あらあら、そうなの。じゃあ、とにかく入って温まってね。すぐに何か作るからね」
 奥さんは二人を家に上げてくれた。
 双子は背中を向けられた瞬間に、ガッツポーズをとる。


 「なに? 石神の双子が来たって?」
 「ええ、何か石神さんの大事な絵をちょっと壊しちゃったとかで、怖くなって逃げてきたんですって」
 「なんだ、あいつも器が小さいな。子どもがやったことで目くじらをたてやがって」
 「とにかく上がってもらってますから。今簡単なお食事を作ります」

 「ああ、そうしてやれ。あ、そうだ、あれを出してくれ! 急いで」
 「はいはい」
 クスクスと笑い、奥さんはヘンゲロムベンベの衣装を出した。




 「やあ、二人とも! よく来たね!」
 うどんを啜っていた二人が、目を丸くして見ている。

 「話は聞いたよ。ここに好きなだけいるといい。石神には俺からよく言っておくからね」

 「あの、ヘンゲロムベンベ様」
 「なにかな?」
 「私たち、もう9歳です。いい加減、精霊なんて話はいいんですよ」
 「へ?」

 「表札もちゃんと読めますから」
 「ちゃんと地番でここまでたどり着いてますから」
 「そ、そうなの」
 脂汗が流れる。

 「でもさ、折角着たんだから、しばらくこの恰好で」
 「まあ、蓼科さんがいいんならいいんですけど」
 「そ、そうか」

 「それじゃ、俺のことは文学って呼んでくれ。俺たちは友だちだからな!」
 「はい、じゃあ文学ちゃんで」
 「ああ、改めてよろしく」
 「「よろしくお願いしまーす!」
 文学は嬉しそうに笑った。



 
 「じゃあ、もうちょっと詳しく話してくれるかな?」
 「うん、実はね」

 毎朝タカさんを起こしに行く係なこと。
 今日はお疲れのタカさんのために、ちょっとお茶目なカワイらしいパフォーマンスで起こしたこと。

 ちょっとだけ失敗して、絵に足がちょこっとぶつかっちゃったこと。
 タカさんが鬼のように怒って、顔が腫れ上がるほど殴られるか、もしかすると骨まで折られちゃうこと。
 身の危険を感じてしかたなく逃げたこと。

 ちゃんと謝ったのに、なこと。
 タカさんが落ち着いたらちゃんと謝るつもりなこと。
 タカさんは、怒りんぼ過ぎること。

 自分たちは、ほんのちょっとだけ悪かっただけなのに、なこと。
 でも、あんなに怒ることないの、のこと。

 いつも奴隷のごとくに働かされていること。
 その疲れもあって、パフォーマンスが失敗したこと。

 お腹が空いて、寒かったこと。
 二人で泣きながら、やっとここまで来たこと。

 奥さんが優しかったこと。
 今日、泊めてもらえると聞いて、本当に嬉しいこと。
 文学ちゃんは、顔に似合わずにとても優しいこと。

 双子は一気に話した。

 「そうかそうか。かわいそうになぁ。よし、俺に任せろ! 俺が石神を反対に説教してやる!」
 「「やったー!」」


 文学は、「今日は目一杯に美味しいものを食べさせてやろう」と妻に言った。
 その目に、涙が滲んでいた。








 「大丈夫かしらねぇ」
 大丈夫なはずはなかった。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

処理中です...