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美しい姉妹 Ⅳ

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 チャイムが鳴った。
 亜紀ちゃんが門を開けた。
 俺が玄関へ迎えに行く。

 「やあ、待ってたよ」
 「すいません、お邪魔します」
 六花がそう言う。
 風花は硬直していた。

 「ほら、風花!」
 「あ、石神さん、お邪魔します」
 「ああ、よく来たな。入ってくれ」
 「あの、すごい家なんですね」
 「まーなー! ダァッハッハッハ!」
 俺が腰に手を当ててのけぞると、風花が笑ってくれた。

 「まあ、中へ入れよ。子どもたちも楽しみに待ってるんだ」
 「はい、失礼します」

 六花が風花の靴を揃えてやる。
 俺がスリッパを出して、二階のリヴィングへ案内した。


 「「「「風花さん! いらっしゃいませ!」」」」
 子どもたちが並んで挨拶した。
 風花が驚いている。

 「す、すいません。アシュケナージ風花です。今日は宜しくお願いします」
 「さあ、コタツに座ってくれ。今日は風花の店で買った肉で、すき焼きだ。楽しんで食べてくれ」
 「はい、ありがとうございます」

 もう用意は出来ている。
 位置は俺の右側が風花、六花、ハー。左側が亜紀ちゃん、皇紀、ルーだ。当然、すき焼き鍋は俺の目の前にある。




 
 「いいか、今日は大阪から六花の妹の風花が来てる! 分かってるな!」
 「「「「はい!」」」」

 「久しぶりのすき焼きだ! お前らのテンションは分かってる!」
 「「「「はい!」」」」

 「だけどな、今日は大事なお客さんだ! 俺の顔に泥を塗るな!」
 「「「「はい!」」」」

 「おい、ハー! ザルは戻せ! ルー! バットはやめろ。素手ならいい!」
 「「チッ!」」

 「亜紀ちゃん、オタマとフライ返しは禁止だ」
 「チッ!」

 風花は目を丸くしている。

 「風花!」
 「は、はい!」
 「モタモタするな! 戦争だ! 出来るだけ肉を食べてくれ」
 「え?」

 「まあ、楽しんでくれ」
 俺が笑顔で言うと、「はい」と応えた。

 「では、いただきます」
 「「「「「「いただきます!」」」」」」

 真っ先に手を出した亜紀ちゃんの箸に、俺はバナナを突き刺す。
 これを喰ってから鍋だという合図だ。

 亜紀ちゃんは俺を睨みながらも、バナナの皮を急いで剥く。

 皇紀が掴んだ肉が宙を舞う。
 ルーに肘アッパーを喰らったのだ。
 今日は早い。
 宙の肉はルーが皿に受け、同時に自分で肉を取る。
 素晴らしい身体能力だ。

 ハーは身を乗り出して六花の動きを制するが、軽い身体は六花のパワーで後ろに放り出された。
 六花は万全の体制で肉を攫う。
 「ワハハハハハハ!」

 風花は呆然としていた。
 
 「風花! モタモタするなと言っただろう! 今のうちに肉をできるだけ取れ!」
 「は、はい!」
 「野菜は最初は無事だから、とにかく肉に集中しろ! 野菜は好きなように取れる!」
 「はい!」

 「ルー! ハー! 花岡流は禁止だからな! 使ったら俺がぶちのめす!」
 「うす!」「おす!」

 「亜紀ちゃん! バナナは全部食べろ!」
 「くそ!」

 「皇紀! がんばれ!」
 「はい!」

 俺は次々に号令をかけながら、風花に肉を入れてやり、自分の分も確保した。
 六花は心配ない。
 ハーと戦いながら、ちゃんといつも通り確保している。
 亜紀ちゃんはバナナを食べ終わり、猛然と肉を平らげる。
 ルーは自分の席を離れ、亜紀ちゃんと皇紀の間に身をねじ入れて肉を確保してから戻る、を繰り返す。
 風花もいつの間にか、必死に食べている。

 二十キロ近くあった肉がみるみる減っていった。




 風花が一番早くリタイアした。
 俺は特別に作った辰巳先生のコンソメスープをカップに入れてやる。

 「あ、美味しい」

 感動して、そう言った。
 戦争中の子どもたちと六花の目が光った。

 「タカさん、それって!」
 亜紀ちゃんが言う。

 「待て、今日は全員分がちゃんとある! あとで一杯ずつやるから安心して鍋を食え!」
 子どもたちは再び鍋に集中した。

 風花が笑い出した。

 「石神さん、聞いてはいましたが、本当にスゴイですね!」
 「そうだろう。「梅田精肉店」さんには、本当に感謝してるんだ。塩野社長に宜しくお伝えしてくれ。足を向けて寝られねぇってなぁ」
 「アハハハハ!」

 俺は食事中の風景を写真に何枚も撮っている。
 もちろん圧倒されている風花や、頑張ってる風花もだ。
 家の恥を晒すようだが、塩野社長は器がでかいから笑って下さるだろう。

 「今日は十八キロ頼んだんだよ。ほら、もうねぇぞ」
 風花は声を出して笑った。

 「ほら、風花。お肉食べなさい」
 六花が風花の器に肉を入れてやる。
 ちょっと悲しそうな顔をしている。

 「お前、遅ぇよ!」
 風花が大笑いした。

 肉が無くなり、雑炊を作る。
 風花はもう食べられないというので、俺はデザートの冷やしたメロンを出してやる。
 千疋屋のものだ。
 俺も一緒に食べる。





 「風花、ちょっとドライブに行こう」
 「え、はい?」
 「石神先生! 私も一緒に!」
 雑炊の椀を持ちながら六花が言う。

 「お前は食べてろよ。ああ、喰い終わったらみんなにコンソメを配ってくれ。いいか、絶対に同じ量にしろよ! 怪我人が出るからな!」
 「分かりました」

 俺と風花は一緒に外に出る。
 俺はガレージのフェラーリ・スパイダーを出して、風花を乗せた。

 「なんですか、この車!」
 「フェラーリ・スパイダーだ。どうだ、カッチョイイだろう!」
 「石神さんって、なんなんですか!」
 「通りすがりの風車」
 「?」

 斬のジジィにはウケたんだけどなぁ。







 俺たちは出発した。
 
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