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美しい姉妹 Ⅱ

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 11月最後の金曜日の夜。
 俺と六花は、風花を迎えに東京駅へ行った。
 ハマーだ。
 六花はやはり、緊張している。

 「お前、また緊張してるのかよ」
 「はい、すいません」

 六花の緊張はすぐに分かる。
 真っ直ぐに前を向いて、瞬きをしなくなる。

 「はぁー」
 俺はため息をついた。

 「なあ、六花」
 「は、はい」
 「俺のオチンチンを握ってくれ」
 「はい!」

 いきなり元気になる。
 こいつの扱いは、慣れたもんだ。

 「あ、石神先生」
 「なんだ」
 「石神先生も緊張してきましたよ」
 「バカヤロー! これは「怒張」と言うんだぁー!」

 俺たちは笑い、東京駅に着いた。
 緊張が収まるまで、俺は車から出られなかった。


 新幹線の改札で待っていると、風花が現われた。
 俺たちが買ってやった、ヴィトンのスーツケースを引いている。
 手を振って近づいてくる。
 「お前も手を振ってやれ」

 六花が手を振る。
 まあ、一緒に来て良かったか。




 夕飯は新幹線の中で弁当を食べたらしい。
 俺たちは駅を出て、オアゾの中の丸善カフェに向かった。
 
 「東京ってやっぱり違いますね」
 風花が感想を言った。
 大阪に比べ、混み合った感じは少ないだろう。
 特に丸の内は巨大なビル群が立ち並び、大小の店がひしめき合う、大阪とは違う。
 店に俺たちが入ると、みんなこちらに注目した。
 まあ、これほどの美人姉妹はいないだろう。
 店員が意図したのか、一番目立つ席に案内される。

 「あの、お姉ちゃん」
 「は、はい!」

 俺が六花の後頭部をはたく。
 風花が笑う。

 「今日から三日間、よろしくお願いします」
 「うん、こちらこそ」
 今日、初めて六花が笑った。
 やっぱり風花と会えて嬉しいらしい。
 俺は塩野社長のお蔭で、食生活が大変助かっている話をし、風花は嬉しそうに笑った。

 「社長は本当にすごいんです。いつも「お役に立ちたい」って、お客さんのために何でもしたいって言ってます」
 「そうかぁ。立派な方だよなぁ」
 「おい、お前もなんか話せ!」
 「はい! 風花はお元気ですか」
 また六花の後頭部をはたく。

 「ウフフ、元気ですよ」
 本当に元気そうだ。
 少し体格が良くなった。
 前に会った時は、痩せすぎている印象だったが、筋肉もつき、顔色もいい。

 「マンションのことを聞け!」
 「はい、マンションはどうですか」
 風花が声を出して笑った。
 俺たちも苦笑する。

 「ごめんな。こいつ、丁寧語の他は、レディース時代の荒くれの喋り方しか知らないんだよ」
 「え、お姉ちゃんは暴走族だったんですか?」
 「そうだよ。俺も一度仲間に会ったことがあるんだけど、総長だったのな。それで、名前がなぁ」
 「なんですか?」
 「「紅六花」っていうんだよ」

 俺と風花が笑い、六花は恥じ入っていた。
 なんだ、ちゃんと恥の観念があるじゃねぇか。
 六花はしきりに、もうやめてくださいと言っている。

 「驚きました。でも、きっとカッコよかったでしょうね」
 「そうだろうな。何しろこの美人顔で特攻服着てるんだからなぁ」
 「私はもっとカッコイイ方を知ってます」
 六花はスマホの写真を風花に見せた。

 「エェッーーー!」
 風花が大きな声を出し、店内の客が振り向く。
 俺の特攻服だった。
 しまったぁー!

 「これって石神さんですよね!」
 「いや、弟だよ」
 「石神先生は神です」
 俺が頭をはたこうとすると、六花はファイティングポーズをとった。
 風花が大笑いする。



 ひとしきり、六花は俺の写真を見せて、滔々と語った。

 「ところで、本当にマンションはどうだ? 何か不自由があったら言ってくれよ」
 「はい、本当に申し訳ありません。あんな大きなマンションをいただいてしまって」
 「いいんだよ。長年何もしてやれなかった六花の気持ちだし、まあ俺も妹分のためだしな」

 風花は、「梅田精肉店」の徒歩圏内に、3LDKのマンションを与えられていた。
 以前の寮は2駅離れていたから、通勤も楽になったはずだ。
 それに、寮の費用が引かれなくなり、手取り額も増えた。
 購入費用は、5千万円ほどで、俺が5割、六花が5割だ。
 六花が全額出すと言ったが、俺がお前に世話になっているからと、強引に通した。

 「俺たちの妹だろ?」
 そういうと顔を赤くして頷いた。

 「買っていただいた服も全部収まりました。家具まで、本当にすみません」
 「だって風花はまだお給料も少ないんだから、そういうことはやらせてね」
 「ありがとう、お姉ちゃん」

 俺たちは店を出て、六花のマンションへ向かった。
 
 「大きい車ですね」
 風花が驚いている。

 「風花、大きいのは車だけじゃないのよ」
 「え?」
 振り返って言う六花の頭をはたいた。







 風花は、可笑しそうに笑いながら、東京の夜景を見ていた。
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