241 / 2,806
「花」やしき
しおりを挟む
11月も半ばになり、少し肌寒くなってきた。
俺は栞の家でコーヒーを飲んでいた。
子どもたちには聞かせたくない話があった。
「いつも子どもたちの相手をしてくれて、ありがとうございます」
「そんな、私こそたびたびお邪魔しちゃって」
「ちょっと今日は話したいことがあって」
「なーに?」
「響子が夢を見たと言うんです」
俺は響子が先日見た夢の内容を栞に話す。
「その「口に入れた毒って」
「ええ、カロートというのは人参のラテン語ですね」
栞は動揺していた。
花岡の高麗人参の話は栞にもしている。
栞は性的な効能しか知らなかった。
俺が斬と話したことを伝えて、やっとあの人参の奥底の秘密を初めて知った。
もちろん俺も栞も、もう高麗人参は使っていない。
「ねえ、石神くん。その庭っていうのは」
「はい、恐らくは」
「じゃあ、その男の人って」
「俺は考えたくもないですけどね」
「うーん」
「そういえば石神くん」
「なんですか」
「亜紀ちゃんたちって、遊園地とか行ってる?」
「いいえ、そういう場所は全然」
「ダメよー! こないだの誕生日もそうだけど、子どもの頃って、そういう場所で遊ぶのも必要よ」
「そういうもんですか」
俺が好きじゃないから行かないのだが。
「ねぇ、ディズニーランドとは言わないけど、遊園地に行こうよ」
「花岡さん」
「はい」
「もしかして、自分が行きたいとか?」
「え、いや、あくまでも、双子ちゃんたちとか」
口ごもる。
「分かりました。今度子どもたちと相談してみます」
「うん! それがいいよ!」
「家族五人で行ってきますね」
「エェッー!」
「だから家族五人で」
「もう一人追加してぇー! お願いしますぅー!」
浅草「花やしき」に行った。
ハマーで向かう。
助手席は栞だ。
「ねぇ」
「なんですか」
「ちょっと渋すぎない?」
「何がですか?」
「ディズニーランドとは言わないけど、やっぱり「花やしき」ってさ」
「遊園地ですよ?」
「そうだけど」
ディズニーランドに行きたかったのか。
はっきり言わない奴が悪い。
駐車場にハマーを停め、園内に入った。
子どもたちのテンションは高い。
栞のテンションは低い。
しかし、中に入り多くのアトラクションを見て、栞は俄然興奮してくる。
子どもたちの手を引っ張り、あちこちのアトラクションを堪能してくる。
俺はまったく興味がないので、楽しんでいるみんなを眺めていた。
ベンチに座っていると、子どもたちが集まってくる。
以前の犬の集まりを思い出して、ちょっとゾッとする。
小さく手を振ってやると、大喜びして近づいて来た。
「芸能人の人?」
何か勘違いしているらしい。
「いや、違うよ」
「だって、カッコイイよ!」
「そうか、俺が石神高虎だぁー!」
立ち上がって、ダァーハッハ、と笑うと、大爆笑だった。
子どもたちと一緒の親たちも笑う。
俺は調子に乗って、マーシャル・アーツの演舞をしてやった。
大喝采で多くの人が集まった。
何事かと係員が何人も来る。
「え、えーと、俺は「花やしき」が大好きです! ときどき来るので、みなさんとまたお会いできる日を楽しみに! なんちゃって」
また拍手が起き、俺は人垣を掻き分けて逃げた。
目の前に、亜紀ちゃんがいた。
「タカさん、何やってんですか」
「いや、なんとなく、な」
「もうー!」
亜紀ちゃんは笑っていた。
栞は皇紀と双子を引き連れて、多くのアトラクションを制覇していた。
亜紀ちゃんはスピードのあるものは苦手なようで、見物だけしていた。
昼食は園内で食べる。
「あ、バーベキューがあるよ!」
ルーが見つけた。
俺は必死で止めた。
「あれはな、普通の、一般の、まともな、清く正しい方々のためのものだ」
「「「「……」」」」
俺たちはカレーとたこ焼きの店に入った。
「幾らでも喰え」
また人だかりができた。
栞が俺に言う。
「ちょっと一つだけ一緒に行って欲しいの」
「いいですよ」
お化けやしきだった。
子どもたちは他のアトラクションに向かう。
怖いらしい。
特に双子は絶対拒否の姿勢だった。
何かトラウマがあるのかもしれない。
何故なんだろう、カワイそうに。
栞は最初から俺にしがみついている。
「花岡さん、ちょっと歩きにくいですよ」
ほとんど絡まっている。
胸が俺の身体で潰れている。
「そんなに怖いなら入らなければ」
「だって、くっついていていいのはここだけじゃない」
「……」
仕掛けは子ども騙しかと思っていたが、結構面白かった。
外に出て、栞は肩で息をしている。
俺たちはベンチに腰掛けて、缶コーヒーを飲んだ。
「あー、楽しかった!」
栞は身体を伸ばしてそう言った。
「良かったです」
「みんなも喜んでたよね」
「花岡さんのお蔭ですね」
「ねぇ、石神くん」
「なんですか」
「なんでここにしたの? ああ、本当にここは楽しかったんだけど!」
「ああ」
「ねぇ、なんで?」
「遊園地を調べていたらですね」
「うん」
「「花」って見えたから」
「?」
「ほら、花岡さんが勧めてくれたじゃないですか。だから花岡さんの「花」っていう字が目に飛び込んできたんですよ」
「!」
「石神くん」
「はい」
「キスしてくれないかな」
「はい」
俺は栞に軽くキスをした。
「「アァッーーーーー!」」
双子の声だ。
駆け寄ってくる。
「花岡さん! 花岡さんもファーストキスを奪われたの?」
「へ?」
「あたしたちもね、こないだタカさんに奪われたの!」
「あ、そうなんだ」
「「タカさん!」」
「いや、ごめん」
「ほんとに酷い人よね」
花岡さんが笑って言う。
「ちょっと!」
みんなが揃ってから、スイーツの店で散々注文させられた。
満足したルーとハーは、「黙っててあげる」と言った。
栞が可笑しそうに笑った。
帰りの車の中で、子どもたちはみんな寝た。
たくさん遊んで幸せそうだった。
栞は窓の外の夕焼けを見ている。
綺麗な顔だった。
「今日は楽しかった」
「そうですね」
「ありがとう」
「こちらこそ」
「ファーストキスだったんだぞ!」
俺たちは笑い合った。
俺は栞の家でコーヒーを飲んでいた。
子どもたちには聞かせたくない話があった。
「いつも子どもたちの相手をしてくれて、ありがとうございます」
「そんな、私こそたびたびお邪魔しちゃって」
「ちょっと今日は話したいことがあって」
「なーに?」
「響子が夢を見たと言うんです」
俺は響子が先日見た夢の内容を栞に話す。
「その「口に入れた毒って」
「ええ、カロートというのは人参のラテン語ですね」
栞は動揺していた。
花岡の高麗人参の話は栞にもしている。
栞は性的な効能しか知らなかった。
俺が斬と話したことを伝えて、やっとあの人参の奥底の秘密を初めて知った。
もちろん俺も栞も、もう高麗人参は使っていない。
「ねえ、石神くん。その庭っていうのは」
「はい、恐らくは」
「じゃあ、その男の人って」
「俺は考えたくもないですけどね」
「うーん」
「そういえば石神くん」
「なんですか」
「亜紀ちゃんたちって、遊園地とか行ってる?」
「いいえ、そういう場所は全然」
「ダメよー! こないだの誕生日もそうだけど、子どもの頃って、そういう場所で遊ぶのも必要よ」
「そういうもんですか」
俺が好きじゃないから行かないのだが。
「ねぇ、ディズニーランドとは言わないけど、遊園地に行こうよ」
「花岡さん」
「はい」
「もしかして、自分が行きたいとか?」
「え、いや、あくまでも、双子ちゃんたちとか」
口ごもる。
「分かりました。今度子どもたちと相談してみます」
「うん! それがいいよ!」
「家族五人で行ってきますね」
「エェッー!」
「だから家族五人で」
「もう一人追加してぇー! お願いしますぅー!」
浅草「花やしき」に行った。
ハマーで向かう。
助手席は栞だ。
「ねぇ」
「なんですか」
「ちょっと渋すぎない?」
「何がですか?」
「ディズニーランドとは言わないけど、やっぱり「花やしき」ってさ」
「遊園地ですよ?」
「そうだけど」
ディズニーランドに行きたかったのか。
はっきり言わない奴が悪い。
駐車場にハマーを停め、園内に入った。
子どもたちのテンションは高い。
栞のテンションは低い。
しかし、中に入り多くのアトラクションを見て、栞は俄然興奮してくる。
子どもたちの手を引っ張り、あちこちのアトラクションを堪能してくる。
俺はまったく興味がないので、楽しんでいるみんなを眺めていた。
ベンチに座っていると、子どもたちが集まってくる。
以前の犬の集まりを思い出して、ちょっとゾッとする。
小さく手を振ってやると、大喜びして近づいて来た。
「芸能人の人?」
何か勘違いしているらしい。
「いや、違うよ」
「だって、カッコイイよ!」
「そうか、俺が石神高虎だぁー!」
立ち上がって、ダァーハッハ、と笑うと、大爆笑だった。
子どもたちと一緒の親たちも笑う。
俺は調子に乗って、マーシャル・アーツの演舞をしてやった。
大喝采で多くの人が集まった。
何事かと係員が何人も来る。
「え、えーと、俺は「花やしき」が大好きです! ときどき来るので、みなさんとまたお会いできる日を楽しみに! なんちゃって」
また拍手が起き、俺は人垣を掻き分けて逃げた。
目の前に、亜紀ちゃんがいた。
「タカさん、何やってんですか」
「いや、なんとなく、な」
「もうー!」
亜紀ちゃんは笑っていた。
栞は皇紀と双子を引き連れて、多くのアトラクションを制覇していた。
亜紀ちゃんはスピードのあるものは苦手なようで、見物だけしていた。
昼食は園内で食べる。
「あ、バーベキューがあるよ!」
ルーが見つけた。
俺は必死で止めた。
「あれはな、普通の、一般の、まともな、清く正しい方々のためのものだ」
「「「「……」」」」
俺たちはカレーとたこ焼きの店に入った。
「幾らでも喰え」
また人だかりができた。
栞が俺に言う。
「ちょっと一つだけ一緒に行って欲しいの」
「いいですよ」
お化けやしきだった。
子どもたちは他のアトラクションに向かう。
怖いらしい。
特に双子は絶対拒否の姿勢だった。
何かトラウマがあるのかもしれない。
何故なんだろう、カワイそうに。
栞は最初から俺にしがみついている。
「花岡さん、ちょっと歩きにくいですよ」
ほとんど絡まっている。
胸が俺の身体で潰れている。
「そんなに怖いなら入らなければ」
「だって、くっついていていいのはここだけじゃない」
「……」
仕掛けは子ども騙しかと思っていたが、結構面白かった。
外に出て、栞は肩で息をしている。
俺たちはベンチに腰掛けて、缶コーヒーを飲んだ。
「あー、楽しかった!」
栞は身体を伸ばしてそう言った。
「良かったです」
「みんなも喜んでたよね」
「花岡さんのお蔭ですね」
「ねぇ、石神くん」
「なんですか」
「なんでここにしたの? ああ、本当にここは楽しかったんだけど!」
「ああ」
「ねぇ、なんで?」
「遊園地を調べていたらですね」
「うん」
「「花」って見えたから」
「?」
「ほら、花岡さんが勧めてくれたじゃないですか。だから花岡さんの「花」っていう字が目に飛び込んできたんですよ」
「!」
「石神くん」
「はい」
「キスしてくれないかな」
「はい」
俺は栞に軽くキスをした。
「「アァッーーーーー!」」
双子の声だ。
駆け寄ってくる。
「花岡さん! 花岡さんもファーストキスを奪われたの?」
「へ?」
「あたしたちもね、こないだタカさんに奪われたの!」
「あ、そうなんだ」
「「タカさん!」」
「いや、ごめん」
「ほんとに酷い人よね」
花岡さんが笑って言う。
「ちょっと!」
みんなが揃ってから、スイーツの店で散々注文させられた。
満足したルーとハーは、「黙っててあげる」と言った。
栞が可笑しそうに笑った。
帰りの車の中で、子どもたちはみんな寝た。
たくさん遊んで幸せそうだった。
栞は窓の外の夕焼けを見ている。
綺麗な顔だった。
「今日は楽しかった」
「そうですね」
「ありがとう」
「こちらこそ」
「ファーストキスだったんだぞ!」
俺たちは笑い合った。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる