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響子ちゃんの、優雅な一日

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 朝は眠い。


 起きるのは常に、六花が来てからだ。
 頭を撫でられ、声をかけられ、頬を突かれ、変顔にされる。

 「にゅー」

 
 そこで起きないと、
 
 「石神先生に、響子がおねしょしたことを話す」

 と言われる。

 「ダメェー!」

 やっと起きる。


 
 まだ眠い。
 目を閉じたまま顔を洗い、別のパジャマに着替えて髪を整える。

 六花が朝食を持ってくるので、美味しそうなら食べる。
 お腹が空いたということは、しばらく感じたことがない。

 ただ、こないだタカトラの別荘に行ってから、少しそんな気がするようになった。
 自分でも、美味しそうに見えるものが増えてきたように感じる。



 自分がテーブルで朝食を食べている間、六花はベッドを整えてくれる。
 脱いだパジャマをちょっと匂いを嗅いでから、洗い物のカゴに入れる。
 前に、どうして匂いを嗅ぐのかと聞いたら

 「石神先生の匂いが、ちょっとします」

 と言っていた。



 六花は、本当にキレイだ。
 日本人とロシア人とのハーフらしいが、時々見とれるほどに美しい。

 タカトラとも仲がいい。
 時々、六花が喋っている途中でタカトラにお腹を手で突き刺され、「ゲフッ」と言う。
 タカトラに、六花をいじめちゃダメだと言う。




 六花がタカトラを愛しているのは知ってる。
 自分はタカトラのヨメだが、六花は一緒でもいい。

 最近はよく三人でお風呂に入り、一緒に寝ることもある。

 自分はタカトラの優しいところと、カッコイイところと、面白いところが大好きだ。
 六花はタカトラの優しいところと、カッコイイところと、オチンチンが大好きなようだ。

 よくタカトラのオチンチンのお世話をしている。
 タカトラが大怪我していたときもそうだし、お風呂でもよくお世話していた。
 自分が見てないと思ってるらしいが、食べちゃったりもしていた。


 自分もオチンチンのお世話をしたいと言ったら

 「これは私の「お仕事」です」

 と断られた。
 こないだ、花岡さんがお世話しようとしてたら、泣きそうになって「それは私の「お仕事」ですぅー」と言っていた。
 大事なお仕事なんだろうと思う。

 

 今朝はちょっとチーズが入ったオムレツと、バターの香りがいい柔らかいパンだった。
 サラダに、ちっちゃい白いお魚が一杯入っている。
 六花に聞くと、「しらす」というものらしい。
 ちょっと塩気があり、野菜と一緒に食べると美味しかった。

 自分がサラダをあまり食べないと、六花はスムージーを作る。
 時々、吐きたいほどに不味いときがあるので、頑張ってサラダを食べるようにしている。
 ガーリックは辞めてと言っている。




 歯を磨き、六花が顔にクリームを塗ってくれ、少しマッサージをしてくれる。
 気持ちがいい。
 タカトラは、六花が自分のために一生懸命に勉強しているのだと教えてくれた。
 ありがとう、六花。

 そして、勉強の時間だ。

 日本の小学校の勉強だが、タカトラは今年中に小学校の勉強は全部終わるだろうと言っていた。

 最近は日本語の勉強も始めた。
 読み書きの勉強だが、ちょっと難しい。
 でも、いつものように、ある日突然に分かるようになるだろう。




 二時間ほどもすると、ちょっと疲れる。
 六花はそういうタイミングでベッドに戻してくれる。
 一緒にお喋りをしたり、タカトラが持ってきてくれる映画やアニメを見る。
 最近は、『魔法少女リリカルなのは』がお気に入りだ。



 今日の昼食は、リゾットだった。
 前にタカトラが、オークラのシェフを呼び出して、叱っていたと六花から聞いた。

 「リゾットの野菜の切り方が全然ダメだ。同じ大きさに切ってくれ。そうしないと、野菜本来の味が比べられない。見た目も悪い」
 「リゾットというのは、宝石箱なんだ」

 シェフたちが感動して帰ったと、六花は言った。
 やっぱりタカトラはカッコイイ。


 
 昼食はほとんど食べた。
 六花がニコニコして褒めてくれた。
 歯を磨いて横になった。

 タカトラが迎えに来てくれる。
 優しくベッドから抱き上げてくれ、タカトラの部屋に連れてってくれる。
 
 嬉しくていつも首に抱きついて、顔にキスを一杯する。
 ナースの人たちが、「カワイー」と言ってくれる。

 私がタカトラのヨメです。

 


 「響子ちゃん、いらっしゃい」
 「今日もカワイイねー」
 「部長にちょっと優しくして下さいって頼んでください!」
 「結婚してください!」


 タカトラの部屋の人たちが歓迎してくれる。

 タカトラの膝に乗って、読書をする。
 自分の本の位置は、左側の山の一番上だ。
 タカトラのデスクは、いつも書類や本が山積みになっている。
 でも、自分の本はいつも同じところにある。
 愛を感じる。
 エヘヘ。




 しばらく読んでいると、眠くなってくる。
 ずっとここにいたいのだが、いつも眠気に負ける。
 くそー。


 タカトラに向き直して首に手を回す。
 タカトラの匂いを嗅ぎたいからだ。

 「眠くなったか。じゃあ送っていこう」

 タカトラに抱かれて、また部屋に戻る。
 六花はいつも立っていて、自分をすぐに受け取ってくれる。
 六花はいつ食事を食べているんだろう。



 すぐに眠くなる。
 でも、たまにちょっとだけ意識があることもある。
 タカトラが六花にチュッとやっているのを見たことがある。
 やっぱり仲がいいなー。
 嬉しくなってくる。




 
 夢を見た。

 広い庭園で、知らない男の人と並んで座っている。
 痩せていて、髪が長くて、目が不思議な感じで、でも優しそうな人。

 自分を見て、微笑んでいる。


 「あなたは誰?」
 「私はあなたを見ている人」
 よく分からない。

 「私の虎と仲良くしているね」
 「虎はしらないよ」
 微笑んでいる。

 「虎に言いなさい。お前とお前の大事な者たちが口に入れた毒は、すべて消えた、と」
 「なんのこと?」
 「カロータと言いなさい」
 「ふーん」

 

 「キレイなお庭ね」
 「そう」
 「うん、とてもキレイ」
 「あなたの庭だ」




 目が覚めた。

 夕飯までの間、ちょっと勉強し、六花と散歩に行く。
 病院の廊下はなるべく歩いて、外へは車椅子に乗る。

 大体JTビルのベンチか、ニッコウビルの広場のベンチに座って、まったりする。
 時々六花が寝るので起こしてやる。
 

 ゆっくりと病院に帰り、ゴロゴロしてると夕食になる。
 食べ終わるのはいつも嫌だ。

 タカトラも六花も帰ってしまうからだ。

 「じゃあ、響子! また明日な」
 「私もこれで失礼します」

 いつも窓を見る。
 窓の外に、タカトラも六花もいるからだ。



 ベッドに横になっても、本を読みながら、時々窓を見る。
 そこしか見るべきものはない。







 しばらくすると、巡回のナースが来て電灯を消す。
 「響子ちゃん、おやすみなさい」
 「おやすみなさい」

 






 眠くなるまで、窓を見ている。
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