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お誕生日会 赤虎、ふたたび。

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 栞が遊びに来ていた。
 近所に引っ越してきてから、頻繁にうちに来る。
 毎週と言っていい。

 まあ、亜紀ちゃんが喜んでいるし、別に良い。

 俺に会いに来ているばかりではないのも、別に良い。


 「全然良くないわよー!」
 栞が叫んだ。



 ことの発端は、誕生日のことだった。

 栞と亜紀ちゃんは昼食の後片付けを仲良くやっていた。
 ご馳走になったからと、引き受けてくれ、それを亜紀ちゃんが手伝っていたのだ。

 楽しそうにお喋りをしていた。

 「ところで、亜紀ちゃんのお誕生日っていつなの?」
 「はい、先月の27日でした」
 「えぇー! 言ってくれれば良かったのにー!」
 「いいえ、栞さんにはいつもお世話になってますし」

 亜紀ちゃんは最近「栞さん」と呼ぶようになった。


 「石神くんからは、何をもらったの?」
 「え、いえ別に」
 「? じゃあ、誕生日のパーティは」
 「ああ、うちはそういうのはありませんから」

 俺は一般の年間行事は基本的にしない。
 去年は子どもたちがきたので、クリスマス、そして正月のおせち料理などは用意した。
 しかし、今年はクリスマスはともかく、正月は初詣くらいにしようと思っている。
 おせち料理は散々だったからなぁ。

 そういうことで、子どもたちにも誕生日の祝いなどは特にしないことを宣言していた。
 双子は一緒なので年に三回だが、めんどうくさい。
 そのために特別な食事の準備をし、プレゼントも考えなければならない。




 「それじゃ、お誕生日は何もしてないの?」
 「はい。別にいいんですよ。タカさんにはこんな大きな家に住まわせてもらって、何不自由のない生活をさせていただいていますから」




 「全然良くないわよー!」




 俺は勉強を始めた子どもたちを見ながら、のんびりとコーヒーを飲んでいた。
 栞がこっちに来る。
 怒っている。

 「石神くん、一体どういうことなの!」

 「いや、うちはそういう方針で」
 「ダメよ、そんなの!」

 亜紀ちゃんが慌てて宥め、栞は多少落ち着いた。

 結局、年に一度子どもたちの誕生を祝うこととなった。
 丁度二週間後の土曜日が双子の誕生日なので、その日にやることにする。





 当日。

 俺は早朝から起きて食材の準備をした。
 予約していたケーキを俺が取りに行き、帰ると早速大量の「肉」を調理していく。
 やっぱりめんどくさかった。


 昼になり、栞も来た。
 パーティを始める前に、子どもたちにプレゼントを渡す。
 どうせ始まれば、こいつらは喰いまくっていつもの雰囲気になるだけだ。
 だから、最初に誕生日パーティを味わってもらうのだ。


 栞が子どもたちにプレゼントを渡す。
 双子に可愛らしい手袋を。
 皇紀と亜紀ちゃんには綺麗なマフラーをくれた。

 みんな喜んでいる。
 

 俺は全員に、厚い黒の丈夫な綿生地のエプロンを用意した。

 ルーとハーにはそれぞれ

 《ピラニア 姉》
 《ピラニア 妹》

 腹のあたりに、獰猛なピラニアが口を大きく開けた図案が金糸で刺繍してある。

 二人とも面白がって喜んだ。




 皇紀には

 《殴られ屋》

 胸には顎を突き上げるアッパーの拳。
 尻のあたりには両側から蹴りを入れる足がデザインしてある。

 「えぇー! 僕、これですかぁー!」

 みんなが笑った。




 亜紀ちゃんには

 《栞 大好きっ子》

 紙の栞を両手で握って祈っている少女がデザインされている。
 亜紀ちゃんは飛び上がって喜び、栞も嬉しそうに笑っていた。

 「えー、お姉ちゃんだけずるいー!」
 「真面目でだめー!」
 ルーとハーが文句を言う。

 
 「もう一枚あるんだ」


 《大喰い女王》

 裾にでかい丼があり、70センチほどもご飯が盛られている。
 爆笑した。


 「亜紀ちゃんは家のことを一番やってくれてるからな」
 亜紀ちゃんは嬉しそうだった。

 「花岡さんにもあるんです」
 「え、ほんとー?」

 《花岡流 絶対禁止》

 大爆笑した。
 左の裾に、拳を構えた手に、赤の×印がある。




 実はこのエプロンは、俺が高校時代に暴走族「ルート20」でお世話になっていた洋品店に頼んだ。
 よく特攻服や、チームの服を作ってもらっていたのだ。

 久しぶりに電話するとまだ経営していた。
 俺の暴走族時代の後輩が店長になっていた。

 「石神といいますが」
 「え、もしかして特攻隊長の「トラさん」ですか!」

 互いに驚き、しばらく懐かしく語った。
 俺はエプロンの件を話し、デザイン画をメールすると話した。

 「気合入れて作らせていただきます!」

 本当にいいものを作ってくれた。



 そういうことを話すと、皇紀が聞いてくる。

 「タカさんの特攻服って、どういうものだったんですか?」

 「よし、久しぶりに着てみるかぁ!」


 俺は赤の特攻服を引っ張り出し、袖を通す。
 真っ赤な生地に、太い金糸で

 《六根清浄》

 と背中にある。
 胸元にはチーム名の「Root20」
 何か懐かしく、また気合が入った気がする。


 大ウケだった。


 俺は調子に乗って、カットしたケーキを箱に入れ、フェラーリで病院へ行った。
 響子にも見せてやろうと思ったのだ。


 見舞い客の入り口から入り、警備員たちが愕然とする。
 すぐに俺だと気付き、笑ってくれた。

 途中ですれ違うナースたちも大笑いした。

 「ステキですー!」



 響子の部屋には、休みなのに六花が来ていた。
 私服だ。

 俺の姿を見て、響子よりも六花が大興奮する。

 「ちょ、超カッケェー!!!!」

 響子にスマホを持たせ、一緒に何枚も写真を撮らせた。
 俺の単身も様々な角度から撮る。

 「響子! 最高画質でな!」

 「分かったって! もう!」

 スマホの画像を何度も確認する。
 響子がぶーたれている。

 「なんなのよ、いったい!」


 六花は、不思議そうな顔をして響子を見る。

 「響子、お前頭がおかしくなったか?」
 「それは六花!」

 俺は苦笑した。

 響子を抱き上げて機嫌を直す。



 「石神先生! 是非うちに! 私もトップク出しますから、ご一緒に写真を!!!」
 「勘弁しろ」

 行ったら、絶対に別な意味で大暴走になるに決まっている。
 俺だって少しは学んだんだ。


 「ああ、どこまで引き伸ばせるかなぁ」
 六花はずっと違う世界に行っていた。


 俺は皿を出し、ケーキを響子に食べさせた。
 夢中でスマホを見ている六花に蹴りを入れ、紅茶を持って来いと言う。

 「美味しい」

 響子がニコニコし、ケーキを食べる。

 「タカトラ、その服、似合ってるね」
 「そうだろう! ダァッハッハ!」

 響子が大笑いした。
 六花と三人でケーキを食べながら、しばらく雑談した。



 家に帰ると、みんなであのエプロンをつけ、片づけをしていた。

 「タカさん、おかえりなさい!」

 「ああ、ただいま」

 栞も「おかえり」と言う。
 何か、すっかりうちの一員になっている。

 「花岡流は使ってないですよね」
 「使わないわよー!」

 みんなが笑った。







 「亜紀ちゃん」
 「なんですか?」
 「たまにはこういうのもいいな」

 「はい。でも本当に私たちはタカさんにお世話になってばかりですから」
 「ああ、これでもかって喰うしなぁ」
 「すいません」







 俺も手伝って、81枚の皿や幾つもの鍋やフライパンを片付けた。
 やっぱ大変だぜ。
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