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栞、引っ越しました!

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 宇留間の一連の事件が終わった後、10月の半ば。
 栞から、引越しすると話された。

 「そうですか。何かお手伝いできることがあったら、言って下さい」
 「うーん、じゃあね、今週の土曜日が引越し日だから、ちょっと来てくれるかな」
 「急ですね、分かりました」

 俺は栞のマンションへハマーで行った。
 荷物の移動は業者がすべてやるので、その監督と栞の移動を頼まれた。

 荷物の運び出しが無事に終わり、俺は栞をハマーに乗せた。

 「そういえば、急なことだったんで聞いてませんでしたが、どこへ引っ越すんですか?」
 「うん、中野」
 「え?」

 栞は住所を告げる。





 俺の家の近くだ。






 「それって……」

 「エヘヘヘ」

 栞が笑った。
 可愛らしいのだが。

 言われた住所は覚えがある。
 俺はよく子どもたちと散歩するのだが、近所に大きな幕を張って工事していた家があった。
 あれは栞の家だったのか。

 「でも、その家って結構前から建ててましたよね」
 「うん、実はね、五月に石神くんたちがうちの実家に来たすぐ後なの」
 「どういうことですか?」



 栞は斬のじじぃの指示で、俺の傍に住むように言われたそうだ。
 理由の一つは明白だ。
 斬のじじぃは栞に俺の子を産ませたいのだ。

 別な理由もあった。

 「おじいちゃんはね、石神くんとあの子どもたちを守れと言ったの」

 俺を守るというのは、宇留間などのトラブルもあるだろうが、別な意味もあったのかもしれない。
 あいつは、俺のことを調べ上げている。
 その上での対処だろう。





 栞の新しい家は、結構広い一戸建てだった。
 俺の家ほどではないが、女性が一人で住む大きさではない。

 聞くと土地が80坪、建物は8LDKらしい。

 花岡家の資産で建てられたそうだ。
 5~6億ほどか。


 引越し業者は3時くらいの予定で、まだ昼前だ。
 
 「お昼、どうしようか」
 「こんなに近いのなら、うちで食べますか?」
 「ほんとに!」
 「……」

 栞は飛び上がって喜んだ。

 100メートルも歩けば、うちに着いた。
 栞が近所に引っ越したことを子どもたちに伝えると、みんなびっくりしながらも喜んだ。

 「じゃあ、今度遊びに行きますね!」

 亜紀ちゃんが言うと、栞はしばらく待って欲しいと言った。
 
 「ほら、いろいろと荷物も整理しなきゃいけないし、内装も一部残ってるんだ」
 「分かりました!」

 俺は別に疑念も抱かなかった。





 俺のうちで寛いでから、俺たちは栞の家に行く。
 歩いてだ。

 栞は引越し業者が来る前に、家の中を案内してくれた。
 一階は板張りの30畳ほどの広い空間があり、天井も高い部屋がある。
 道場だ。
 壁際には、最新のトレーニングマシンとサンドバッグが5本、天井から吊り下がっていた。
 サンドバッグは天井のレールで動かせるようになっている。
 別の壁には、日本刀や槍、でかい木刀やナイフ類や映画の中でしか見たことのない鎖鎌まである。


 他にシャワー室と二つの空き部屋。
 二階はリヴィングが20畳とオープンキッチンが繋がっている。
 キッチンに浴室と空き部屋が三つ。
 
 三階は栞の寝室15畳に、既にクイーンサイズの大きなベッドがあった。
 それと、ドア続きで12畳ほどの部屋がある。
 恐らく、栞の服を納める場所だろう。
 また別なドアは、トイレとシャワー室に繋がっていた。

 栞の寝室から出られる、広いバルコニーがあり、気持ち良さそうだった。
 「エヘヘ、石神くんの寝室を真似したの」
 栞が恥ずかしそうに笑った。



 栞は再び1階へ戻り、俺に言った。

 「石神くんには全部見せておくね」

 そう言うと、廊下の中ほどの壁のスイッチボックスを、パネルごと押し込んだ。
 ガコンという音がして、モーター音が鳴り始める。
 廊下の床に入り口が開いた。

 地下へ続く階段がある。

 栞と階段を下りると、鉄の扉があり、横にテンキーのボックスがある。
 栞は幾つかの番号を入力した。

 鉄の分厚い扉がスライドし、栞が中に入って照明を点けると、20畳ほどの空間が広がっていた。


 俺は驚いた。


 日本でこんなものは見たことが無い。
 栞は不安そうに俺を見ていた。

 「驚きました」

 「そう」

 「これが「花岡」なんですね」
 
 「うん」

 俺は中に入ってじっくりと眺める。
 何があるのか、すべて記憶した。
 俺の中で、勝手にそれらが展開し、「自分ができること」が完成された。




 「この部屋は石神くんが自由に使って。もちろん何をどれだけ持ち出してもいいから。あとで入り口のナンバーを教える。メモは取らないで暗記してね」
 「分かりました」



 俺は部屋を出て、栞にナンバーを教わった。
 そして家の鍵を渡される。

 「でも、他の目的でも自由に来て欲しいな」
 栞は俺の腕をとり、胸に抱き寄せた。


 二階のリヴィングでお茶を飲んでいると、引越し業者が到着した。
 俺と栞で荷物の指示をし、引越しは無事に終わった。



 「明日の夜はうちに来て下さい。引っ越し祝いをしましょう」
 「ほんとに! 楽しみにしてる」

 「じゃあ、俺はこれで帰りますね」
 「え!」
 「なんですか?」
 








 「ベッドはもう置いてあるよ」
 栞が小さな声で言った。









 俺たちは引っ越し祝いをした。
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