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六花と風花 Ⅳ

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 翌朝、俺と六花は10時に風花を迎えに行った。
 今日も風花は制服を着ている。

 
 「墓参りの前に、ちょっと買い物をするから」

 「はい!」

 昨日結構話したせいで、風花の緊張はそれほどない。

 俺たちは阪急デパートへ向かった。



 「あの、どういうものを買われるんですか?」
 「ああ、洋服を大量にな」

 「石神さんのですか?」

 「いや、君のだよ」
 「え?」




 六花が後ろから抱きつき、ニコニコしながら歩かせる。



 風花は16歳だが、もう普通の婦人物で大丈夫だ。

 俺たちはまず5Fに行き、シャネル、フェンディ、プラダ、ヴァレンティノなどを回り、片っ端から似合いそうな服を注文した。コートは6Fのアクアスキュータムとコム・デ・ギャルソンで買う。

 最初に採寸させ、すべての店でサイズを合わせるように言った。
 風花はオロオロしながら、試着を繰り返した。
 
 次にまた5Fに戻り、今度はティファニーやカルティエ、ハリー・ウィンストンなどでアクセサリーを揃える。

 最後に2Fで化粧品を買った。
 「私、お化粧なんてできません!」
 「勉強しなさい! 今はネットでも見れるし、化粧部員に相談に行けばいいの!」
 六花が、以前俺が言ったことを偉そうに言う。

 3000万円くらい使ったか。

 「あ、靴を買い忘れた。バッグもだ!」
 「もう疲れました!」
 「じゃあ、ここで勘弁してやる」

 俺たちは1Fで揃えた。



 「あんなに、部屋に収まりませんよ!」
 「ああ、じゃあマンションも買わなきゃな」
 「やめてください!」
 俺たちは笑った。

 でも、後日買うことに決めた。


 「風花、お前は六花の大事な妹だ。俺たちが黙っておくわけないだろう」
 「そうそう」
 六花が嬉しそうに笑う。

 「そんな、ダメですよ」
 「「ダメじゃない!」」



 「なあ、頼む。俺たちにやらせてくれ」
 「だって六花さんはともかく、石神さんは」
 「お前は俺の妹みたいなもんだ!」
 「え、結婚するんですか?」
 「いや、予定はねぇなぁ」
 六花がファイティング・ポーズをとる。
 風花が笑った。


 

 昨日のお好み焼きの店に行き、昼食を食べた。

 「じゃあ、今度こそ墓参りに行こう」
 「なんだか、疲れました」
 「若いのに何を言ってる!」
 「六花さん、なんとか言ってください」
 「お姉ちゃん」
 「え?」
 「お姉ちゃんと言わなければ、何もしません」
 「……」

 「お姉ちゃん」

 「石神さん、それはダメです」
 「何がだよ!」

 「仲がいいねぇ」
 タクシーの運転手がニコニコして言った。





 寺に着き、近くの花屋で墓前の花と線香を買う。

 サーシャさんの墓は新品だったが、俺たちは丁寧に洗い、掃除をした。
 
 「私、お墓参りの作法も知らなくて」
 「覚えりゃいいんだよ」
 「はい」

 線香を焚き、みんなで手を合わせた。

 「じゃあ、本堂へ行くぞ」
 「え?」

 予約していたので、住職がすぐに出てきて、本堂の中へ案内される。

 六花は鞄から位牌を二つ出し、指定された場所に置いた。
 風花はよく分からないでいたが、俺がここに座れと、六花の隣に座らせた。
 
 住職が読経を始める。
 いい読経だった。

 俺が卒塔婆を持ち、六花は位牌の一つを風花に持たせた。




 再び墓前に行き、卒塔婆を備え、位牌を置く。
 今度は俺と六花が般若心経を唱える。

 俺は二人でゆっくり話せと言い、離れた。



 「石神さんって、お姉ちゃんとどういう関係なんですか?」
 「私の命」
 「え?」
 「あの人と一緒に生きて、一緒に死ぬの」
 「すごいですね」
 「うん。すごい人なの」

 「なんか、今日は驚いてばかりだった」
 「そう」
 「昨日、いきなりお姉ちゃんだって言われて、美味しいご馳走をいただいて。今日はあんなに買い物をしてくれて」
 「そう」



 「すごい人ですよね」
 「うん。何よりも優しくて、カッコよくて強いの」
 「強いんですか?」
 「強いわよー! 拳銃で撃たれても全然平気だし」
 「えぇー!」
 「あ、ちょっと死に掛けたか」
 「そんなぁー!」
 二人で笑った。



 「来てくれて、ありがとうございました」
 「うん」

 「私ね、今までこの世でたった一人だと思ってた」
 「私もそうだったよ」

 「でもお姉ちゃんがいてくれたんですね」
 「もちろんそうだし。でも、風花にはあの社長さんたちがいるじゃない」
 「あ、そうか」
 「そう。大事な人は他にもいるでしょ?」
 「うん」
 



 「ねえ、風花」
 「はい、お姉ちゃん」

 「お母さんのできなかったことをしよう」
 「はい?」

 「誰かを愛して、やるべきことをちゃんとやって、いろんな人に優しくしよう」
 「はい!」



 「また会いに来るから」
 「うん、待ってます」
 「風花も会いに来て」
 「はい、必ず」


 「お姉ちゃん」
 「なに?」
 「石神さんって、変わってるよね?」
 「そうね」
 二人で笑う。




 

 「おい、東京の不動産屋の友だちが、こっちでいい物件を探してくれるってさ!」
 
 「やめてください!」
 「ダメよ、あの人がやるって言ったら絶対だから」
 「えぇー!」
 「いつも「任せろ」って言うの」
 「そんなぁ」








 「大丈夫だよ! 俺に任せろ!」

 美しい姉妹がおかしそうに笑った。
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