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双子ちゃんの、華麗なる首領(ドン)な日々。

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 教室に入ると、全員が一斉に起立し、両手を脇に揃え姿勢を正す。

 「石神さん、おはようございます!」
 「石神さん、おはようございます!」

 二度言う。
 二人にそれぞれ挨拶をした、という意味だ。

 「みんなおはよう!」
 ルーが言う。
 ハーは手を振って済ます。




 机に近づくと、今日の「イス係」二名が、二人のイスを引いて待っている。
 「ありがとう」
 ルーが言い、ハーは頷いた。

 二人は『4%の宇宙』(リチャード・パネク)と、『遺稿詩集』(ロープシン)をそれぞれランドセルから取り出して読み始めた。

 しばらくして担任の先生が入ってくる。
 「はい、みんな席について! こら、日直! 挨拶は!」
 ガヤガヤしていた子どもたちが文句を言いながら席についた。
 先生に挨拶する。





 給食。

 ルーとハーには、特別な大皿が置かれた。
 量は他の子どもたちと変わらない。

 「いただきまーす!」

 「あの、花岡さん、私これ食べれなくて」
 「僕はアレルギーなんです」
 「ちょっとダイエット」
 「今朝、食べすぎちゃって」

 何人もの子どもたちが、ルーとハーの大皿に次々と自分の給食を置いていく。
 二人はニコニコして受け取る。





 放課後。

 「人生研究会」部室。

 双子が作った新しいクラブ活動であり、当初は却下されたが、活動計画を見せられ逆に絶賛された。

 アラン『幸福論』の読書会。
 セネカ『幸福論』を中心としたストア派の講義(双子のレジュメあり)。
 アナール派による中世の幸福観の研究。
 その他、人生の意義の追求を活動主旨とする。

 セネカの講義は職員会議の中で一部が披露され、拍手喝采を浴びた。

 活動報告が毎週提出され、職員全員に回覧されている。




 15人の三年生から六年生までの男女生徒が集まっている。
 今日は幹部のみの招集だった。
 クラブ活動は、毎回視聴覚室で200人以上集まる。
 先生も多い。


 「では、「虎の穴」第15回会議を始める」
 ルーが宣言した。
 地獄のプロレスラーの育成機関ではない。
 エッチな薄い本は売られていない。

 「人生研究会」の裏の名称だった。
 双子の命名である。



 「じゃあ、早苗! 報告を」
 五年生の早苗が立ち上がった。

 「はい! また馬込が動いているようです」
 「またあいつかぁー!」
 馬込は同級生。二度ほど双子に反抗してきている。
 
 「十分なヤキを入れたはずだけど、まだなんかやってんの?」
 「はい。馬込には中三の兄がいます。どうやら今回はその兄を頼って、石神さん方に復讐を企んでいるようで」
 「どこの情報?」
 「隣の席の早智子です。教室で馬込が話していたのを聞いています」
 「そう。早智子にはあとで礼を言っておくように」
 「はっ、もたいないお言葉です!」

 「じゃあ、また小山内さんに頼んで」
 「分かりました!」

 双子は邪悪な笑みを浮かべた。



 「ねえ、馬込くん」
 「え、なんですか、小山内さん!」
 馬込は同級生の美少女、憧れの小山内に声を掛けられ、上ずった声で返事した。

 「あのね、是非渡したいものがあるから、放課後に体育館の裏に来て」
 「わ、わかりましたぁー!

 

 放課後。
 馬込は走って体育館裏に行く。
 しばらくして、小山内が封筒を握り締めて走ってきた。

 「あのね、これ」
 「え、もしかしてラブ…」


 「まーごーめー!」
 ハーが体育館の扉を開けて出てきた。
 ルーも続いている。

 「きゃー」
 小山内は走って逃げた。

 馬込はボコボコ。

 「お前! 兄貴を頼ろうなんてどういう了見だ?」
 「すいません」
 土下座して謝る頭を踏みつける。
 「階段な」
 「はい、ドジな僕は階段から落ちました!」
 「よし、いけ!」


 馬込は必死に守った封筒を開いた。
 スーパーの安売り広告。

 「小山内さん、こないだも今日も、教えてくれてありがとう」
 馬込は泣いた。





 数日後。
 双子は中学に呼び出された。

 「馬込のやつ、懲りてなかったね」
 「そのようだねぇ」

 双子に恐れはない。

 「あれ、ルー、ハー!」
 「「亜紀ちゃん!」」

 姉が走り寄って来る。

 「なんでいるの?」
 「馬込って人に呼ばれたのー」
 「え、馬込くん?」



 三人は一緒に体育館裏へ行く。
 茶髪の頭に剃り込みをいれた大柄な男と小学生らしい少年が待っていた。


 「おい、お前らがいしが、え! なんで石神さんがいるの!」
 「馬込くん、妹たちを呼んだって何の用?」
 
 「いや、あのね。弟がいつもお世話になったって言うんで」
 「なに?」

 「だからね、一度挨拶をね」
 「にいちゃん!」
 隣で馬込が兄を睨んでいる。

 「黙れ!」
 頭をはたかれた。

 「そうだ! 折角だから石神さんも、みんなでお茶でも」
 「え、やだ」

 「でも折角だからさ」
 「お断りします。これから夕飯の支度があるんで、妹たちと帰りますね」

 「ああ、それは大変だ。しょうがないな、また今度ね」
 


 何も言わず、石神姉妹は仲良く帰って行った。


 「あーあ、中学はまたの機会だね」
 「そうだね、まずは小学校をしっかり締めよう!」
 「そうだそうだ」

 「何のお話?」
 「うん、まだ先のお楽しみってこと!」
 「そうそう!」






 双子がニッコリを笑い、姉の両手を握る。
 姉も嬉しそうに微笑んだ。
 今日の夕飯は何にするか、三人で楽しそうに話しながら帰った。  
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