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この、涙を。

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 土曜日。
 午後五時から、名目上は俺の「快気祝い」、実質は「本当に申し訳ありませんでした」パーティが開かれた。

 オークラの巨大な宴会スペースは、仕切りが取り払われ、1000人が収容できるようにしてくれていた。

 ビュッフェ形式の会場には、座っても食べられるように、多くのテーブルと椅子が並べてある。
 着席ビュッフェというものだ。


 俺の挨拶と、院長もお言葉を述べてくれる。
 院長の音頭で乾杯し、それぞれが食事と歓談に進んだ。

 院長夫妻、栞、俺の部下たち、大勢のナースや医師などの病院スタッフ。ハーゲンダッテの面々も来てくれた。
 一之瀬さんもいるし、便利屋まで来ている。
 便利屋がタキシードを着ていて驚いた。

 総勢500人程度。


 頃合をみて、俺はテーブルを回った。
 みんなが祝ってくれるのが、心苦しい。

 「石神先生の白いタキシード、本当にステキですよね!」
 ナースたちが口々に言う。
 「結婚式みたい!」
 「え、ワタシと?」

 俺はにこやかに応対していく。




 子どもたちの演芸が始まった。
 俺は事前に何も聞いていない。
 子どもたちに任せていた。


 亜紀ちゃんは学校の仲良しの三人組で漫才をする。
 結構面白かった。

 皇紀は、あの『冬の旅』を歌った。
 マイクは使わなかった。
 美声が会場を包む。
 拍手が沸いた。

 「なに、あの美少年!」
 「石神先生のお子さんよ」
 「結婚する!」

 あちこちで声が聞こえる。



 双子は演舞を見せた。
 どこかで見たことがあると思ったが、大分省略されているが栞が実家で見せてくれたものだ。
 最後に皇紀が用意した板を割る。
 
 ハーが気合の掛け声と共に、拳をぶつける。
 板は割れるどころか、粉砕した。

 「……」

 俺は栞を見る。
 栞はそっぽを向いた。

 会場は大いに沸いた。




 一江の番だ。
 俺はステージの正面に腕組みをして立った。
 一江が、やめてください、という目で俺を見た。


 こいつ、やりやがった。



 一江はぬいぐるみを両手に抱えて、スーツを着てステージに立っていた。
 そこへ、覆面をした大森が現われ、拳銃を撃つ。


 「きょ、きょうこ、ぶじか!」

 結構、真に迫った台詞を吐く。
 もちろん実際の俺の言葉とは違うが、適当にアレンジしていた。


 「きょうこ、あいしてるぞー!」

 会場が大喝采だった。
 
 一江は俺を壇上に呼び、大森と三人で挨拶する。
 拍手が鳴り止まない。

 「あれ、部長泣いてます?」

 わざわざマイクで言いやがった。
 俺は一江の頭を殴る。
 会場がまた沸いた。



 響子が到着した。
 体調を見て連れてくるように、六花に頼んでいた。
 
 響子はフリルのたくさんついた白いシャツに、タキシードを着ている。
 六花はバニーガールの衣装で響子を抱き、ステージに上がった。

 音楽が流れ、響子はステッキを持っていた。
 既に花が見えている。

 響子がニコっと笑い、ステッキに花を咲かせる。
 歓声と拍手が沸く。

 「カワイイー!」

 本当に可愛かった。
 
 小さなテーブルで、カードのマジックをする。
 六花にカードを抜かせ、みんなに見せた。
 ハートの5だ。
 それをデッキに戻し、響子が小さな手でシャッフルする。
 カードが落ちた。

 会場がザワザワとする。
 六花がカードを拾い、再びシャッフル。

 響子が小さな手で、一番上のカードを示した。
 スペードの1だった。

 「スゲェー! 当たってる!」
 
 俺が叫ぶと、会場から大きな拍手。
 響子が嬉しそうに笑った。

 俺はステージに上がり、響子を抱き上げてみんなに頭を下げた。
 みんなが拍手し、掛け声、歓声を浴びせてくれた。

 響子が俺の頬にキスをし、一層沸いた。

 俺は六花も抱き寄せ、二人の頬にキスをする。
 六花も嬉しそうに笑った。





 パーティが終わり、俺と響子、六花、子どもたちは会場の出口で見送った。
 みんな「いいパーティでした」と言ってくれた。



 帰りは俺が響子を抱き上げて、歩いて帰った。
 六花も子どもたちも一緒だ。

 響子は俺の首に手を回し、顔をぴったりと付けている。
 
 「六花、腕を組もう」

 俺が言うと、六花が駆け寄って腕を絡める。










 「お前たちが無事で、本当に良かった」
 俺の涙を、響子が拭ってくれた。
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