228 / 2,806
この、涙を。
しおりを挟む
土曜日。
午後五時から、名目上は俺の「快気祝い」、実質は「本当に申し訳ありませんでした」パーティが開かれた。
オークラの巨大な宴会スペースは、仕切りが取り払われ、1000人が収容できるようにしてくれていた。
ビュッフェ形式の会場には、座っても食べられるように、多くのテーブルと椅子が並べてある。
着席ビュッフェというものだ。
俺の挨拶と、院長もお言葉を述べてくれる。
院長の音頭で乾杯し、それぞれが食事と歓談に進んだ。
院長夫妻、栞、俺の部下たち、大勢のナースや医師などの病院スタッフ。ハーゲンダッテの面々も来てくれた。
一之瀬さんもいるし、便利屋まで来ている。
便利屋がタキシードを着ていて驚いた。
総勢500人程度。
頃合をみて、俺はテーブルを回った。
みんなが祝ってくれるのが、心苦しい。
「石神先生の白いタキシード、本当にステキですよね!」
ナースたちが口々に言う。
「結婚式みたい!」
「え、ワタシと?」
俺はにこやかに応対していく。
子どもたちの演芸が始まった。
俺は事前に何も聞いていない。
子どもたちに任せていた。
亜紀ちゃんは学校の仲良しの三人組で漫才をする。
結構面白かった。
皇紀は、あの『冬の旅』を歌った。
マイクは使わなかった。
美声が会場を包む。
拍手が沸いた。
「なに、あの美少年!」
「石神先生のお子さんよ」
「結婚する!」
あちこちで声が聞こえる。
双子は演舞を見せた。
どこかで見たことがあると思ったが、大分省略されているが栞が実家で見せてくれたものだ。
最後に皇紀が用意した板を割る。
ハーが気合の掛け声と共に、拳をぶつける。
板は割れるどころか、粉砕した。
「……」
俺は栞を見る。
栞はそっぽを向いた。
会場は大いに沸いた。
一江の番だ。
俺はステージの正面に腕組みをして立った。
一江が、やめてください、という目で俺を見た。
こいつ、やりやがった。
一江はぬいぐるみを両手に抱えて、スーツを着てステージに立っていた。
そこへ、覆面をした大森が現われ、拳銃を撃つ。
「きょ、きょうこ、ぶじか!」
結構、真に迫った台詞を吐く。
もちろん実際の俺の言葉とは違うが、適当にアレンジしていた。
「きょうこ、あいしてるぞー!」
会場が大喝采だった。
一江は俺を壇上に呼び、大森と三人で挨拶する。
拍手が鳴り止まない。
「あれ、部長泣いてます?」
わざわざマイクで言いやがった。
俺は一江の頭を殴る。
会場がまた沸いた。
響子が到着した。
体調を見て連れてくるように、六花に頼んでいた。
響子はフリルのたくさんついた白いシャツに、タキシードを着ている。
六花はバニーガールの衣装で響子を抱き、ステージに上がった。
音楽が流れ、響子はステッキを持っていた。
既に花が見えている。
響子がニコっと笑い、ステッキに花を咲かせる。
歓声と拍手が沸く。
「カワイイー!」
本当に可愛かった。
小さなテーブルで、カードのマジックをする。
六花にカードを抜かせ、みんなに見せた。
ハートの5だ。
それをデッキに戻し、響子が小さな手でシャッフルする。
カードが落ちた。
会場がザワザワとする。
六花がカードを拾い、再びシャッフル。
響子が小さな手で、一番上のカードを示した。
スペードの1だった。
「スゲェー! 当たってる!」
俺が叫ぶと、会場から大きな拍手。
響子が嬉しそうに笑った。
俺はステージに上がり、響子を抱き上げてみんなに頭を下げた。
みんなが拍手し、掛け声、歓声を浴びせてくれた。
響子が俺の頬にキスをし、一層沸いた。
俺は六花も抱き寄せ、二人の頬にキスをする。
六花も嬉しそうに笑った。
パーティが終わり、俺と響子、六花、子どもたちは会場の出口で見送った。
みんな「いいパーティでした」と言ってくれた。
帰りは俺が響子を抱き上げて、歩いて帰った。
六花も子どもたちも一緒だ。
響子は俺の首に手を回し、顔をぴったりと付けている。
「六花、腕を組もう」
俺が言うと、六花が駆け寄って腕を絡める。
「お前たちが無事で、本当に良かった」
俺の涙を、響子が拭ってくれた。
午後五時から、名目上は俺の「快気祝い」、実質は「本当に申し訳ありませんでした」パーティが開かれた。
オークラの巨大な宴会スペースは、仕切りが取り払われ、1000人が収容できるようにしてくれていた。
ビュッフェ形式の会場には、座っても食べられるように、多くのテーブルと椅子が並べてある。
着席ビュッフェというものだ。
俺の挨拶と、院長もお言葉を述べてくれる。
院長の音頭で乾杯し、それぞれが食事と歓談に進んだ。
院長夫妻、栞、俺の部下たち、大勢のナースや医師などの病院スタッフ。ハーゲンダッテの面々も来てくれた。
一之瀬さんもいるし、便利屋まで来ている。
便利屋がタキシードを着ていて驚いた。
総勢500人程度。
頃合をみて、俺はテーブルを回った。
みんなが祝ってくれるのが、心苦しい。
「石神先生の白いタキシード、本当にステキですよね!」
ナースたちが口々に言う。
「結婚式みたい!」
「え、ワタシと?」
俺はにこやかに応対していく。
子どもたちの演芸が始まった。
俺は事前に何も聞いていない。
子どもたちに任せていた。
亜紀ちゃんは学校の仲良しの三人組で漫才をする。
結構面白かった。
皇紀は、あの『冬の旅』を歌った。
マイクは使わなかった。
美声が会場を包む。
拍手が沸いた。
「なに、あの美少年!」
「石神先生のお子さんよ」
「結婚する!」
あちこちで声が聞こえる。
双子は演舞を見せた。
どこかで見たことがあると思ったが、大分省略されているが栞が実家で見せてくれたものだ。
最後に皇紀が用意した板を割る。
ハーが気合の掛け声と共に、拳をぶつける。
板は割れるどころか、粉砕した。
「……」
俺は栞を見る。
栞はそっぽを向いた。
会場は大いに沸いた。
一江の番だ。
俺はステージの正面に腕組みをして立った。
一江が、やめてください、という目で俺を見た。
こいつ、やりやがった。
一江はぬいぐるみを両手に抱えて、スーツを着てステージに立っていた。
そこへ、覆面をした大森が現われ、拳銃を撃つ。
「きょ、きょうこ、ぶじか!」
結構、真に迫った台詞を吐く。
もちろん実際の俺の言葉とは違うが、適当にアレンジしていた。
「きょうこ、あいしてるぞー!」
会場が大喝采だった。
一江は俺を壇上に呼び、大森と三人で挨拶する。
拍手が鳴り止まない。
「あれ、部長泣いてます?」
わざわざマイクで言いやがった。
俺は一江の頭を殴る。
会場がまた沸いた。
響子が到着した。
体調を見て連れてくるように、六花に頼んでいた。
響子はフリルのたくさんついた白いシャツに、タキシードを着ている。
六花はバニーガールの衣装で響子を抱き、ステージに上がった。
音楽が流れ、響子はステッキを持っていた。
既に花が見えている。
響子がニコっと笑い、ステッキに花を咲かせる。
歓声と拍手が沸く。
「カワイイー!」
本当に可愛かった。
小さなテーブルで、カードのマジックをする。
六花にカードを抜かせ、みんなに見せた。
ハートの5だ。
それをデッキに戻し、響子が小さな手でシャッフルする。
カードが落ちた。
会場がザワザワとする。
六花がカードを拾い、再びシャッフル。
響子が小さな手で、一番上のカードを示した。
スペードの1だった。
「スゲェー! 当たってる!」
俺が叫ぶと、会場から大きな拍手。
響子が嬉しそうに笑った。
俺はステージに上がり、響子を抱き上げてみんなに頭を下げた。
みんなが拍手し、掛け声、歓声を浴びせてくれた。
響子が俺の頬にキスをし、一層沸いた。
俺は六花も抱き寄せ、二人の頬にキスをする。
六花も嬉しそうに笑った。
パーティが終わり、俺と響子、六花、子どもたちは会場の出口で見送った。
みんな「いいパーティでした」と言ってくれた。
帰りは俺が響子を抱き上げて、歩いて帰った。
六花も子どもたちも一緒だ。
響子は俺の首に手を回し、顔をぴったりと付けている。
「六花、腕を組もう」
俺が言うと、六花が駆け寄って腕を絡める。
「お前たちが無事で、本当に良かった」
俺の涙を、響子が拭ってくれた。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる