217 / 2,808
ゴールド Ⅱ
しおりを挟む
院長室に呼ばれた。
「石神、入ります!」
院長は机に座ったままだった。
入ってきた俺をずっと見ている。
「お前、五十嵐夫人の犬を預かったそうだな」
「はい」
「俺はそんなことまで頼んでねぇぞ」
「はい、俺の意志でそうしました」
「おい、最初に言ったけど、夫人はあと一ヶ月で死ぬんだぞ?」
「はい、分かっています」
「その後、犬はどうすんだよ」
「そのままうちで飼おうと思っていますが」
「ハァー!」
「お前がそのつもりならいいんだけどよ。でも、それは医者としての領分じゃねぇぞ?」
「はい、承知しています」
「だったらなんで」
「五十嵐さんと犬との絆を見ましたから」
「なに?」
「五十嵐さんはゴールドを自分の命よりも大事に思ってらっしゃいます」
「そうだろうけどよ」
「ゴールドも同じと見受けました」
「お前、何言ってんだよ」
「院長、俺はね、感動したんですよ。これから死ぬって時に、唯一考えてることが犬のことなんです。だったら何とかしたいと思ったんです」
院長は頭を抱えた。
「そうだったな。お前は山中の子どもたちを引き取った奴だもんな。今更犬の一匹くらい、何のこともねぇわな」
「はい」
「お前に相談した俺がバカだった。バカに任せたのがバカだったんだ」
「その通りです」
「お前なぁ」
「分かった。面倒をかける。五十嵐夫人の犬のことは宜しくたのむぞ」
「はい」
五十嵐さんは家に泊まらずに、病院へ帰った。
俺は家に戻り、ハマーで五十嵐さんの家に再び行き、五十嵐さんがまとめたゴールドの餌や用具を積み込んで、ゴールドを助手席に乗せた。
ゴールドは驚くほどに大人しい犬だった。
ゴールデンレトリバーがどういう性格なのかは知らないが、見知らぬ俺を怖がらず、時々俺を見ては窓の景色を眺めている。
一応リードは着けているが、それも嫌がることもない。
無事に俺の家に着き、玄関を開けた。
連絡しておいたので、亜紀ちゃんが迎えに出てくる。
「あ、本当に来たんですね!」
嬉しそうに犬を見て、近づこうとする。
ゴールドが唸った。
「あれ、不味かったですか」
「ああ、さっきまで大人しかったんだけどなぁ」
亜紀ちゃんは取り敢えず下がり、俺はリードを握ったまま中に入った。
ゴールドは俺と一緒に歩く。
どこにいれば良いのか分からず、俺は自分の部屋にゴールドを入れた。
「おい、ちょっとそこで待っててくれな」
ゴールドに声をかけ、部屋を出た。
子どもたちはリヴィングにいた。
亜紀ちゃんから言われたのか、犬を見には来なかった。
「犬は?」
ハーが尋ねる。
「ああ、俺の部屋にいる。慣れるまで、時間がかかるかもしれんな」
「そうなの、早く仲良くなりたいな」
ルーもハーも楽しみにしていた。
俺は車からゴールドのものを降ろし、また自分の部屋へ行った。
ずっと俺の部屋というわけにはいかない。
少し考え、二階の空き部屋をゴールドに与えることにした。
子どもたちと一緒に部屋を片付け、簡単に掃除もする。
俺はゴールドの荷物をその部屋に入れた。
俺が部屋に戻ると、ゴールドは俺のベッドで寝ていた。
俺が入ると首を持ち上げて俺を見る。
「ああ、待たせたな。お前の部屋を用意したから一緒に来てくれ」
俺がそう言うと、ゴールドは俺についてきた。
言葉が分かるのか?
ゴールドは案内された部屋に入った。
用意した布団を見つけると、そこに伏せる。
俺は水を入れ、餌を出して皿に盛った。
「お腹が空いてたら食べろ」
ゴールドはまず水を飲み、それから餌を食べ始める。
食べ終わると、俺に近づき、顔を舐めてきた。
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ。また後で来るからな」
ゴールドは俺がドアを閉めるまで、じっと見詰めていた。
夕飯を食べ、俺はゴールドの部屋へ行った。
眠っていたのだろうが、俺が部屋に入ると起き上がってきた。
俺の足に擦り寄る。
俺は頭を撫でてやり、床に座ると顔を舐め、じゃれついてきた。
「おい、ゴールド。この家には俺の他に子どもたちが四人いるんだ。みんなと仲良くしてくれるか?」
ゴールドは短く吼えた。
それを了承と受け取った。
俺はリードを着け、ゴールドを居間に連れて行く。
子どもたちは少し緊張し、しかし興味津々で俺とゴールドを見ている。
「皇紀!」
「はい!」
「お前ならちょっと齧られてもいいだろう。こっちに来い!」
「えぇー!」
皇紀が恐る恐るゴールドに近づく。
唸らない。
俺が頭に触れと言い、ゴールドに触る。
ゴールドは大人しく目をつぶっていた。
俺は亜紀ちゃんを呼び、同じようにさせる。
大丈夫だ。
双子を呼んだ。
「ゴールド!」
名前を呼ぶと、僅かに尻尾を揺らした。
二人で頭や背中をそっと撫でた。
ゴールドは気持ち良さそうに腹ばいになった。
ゴールドは、うちの一員となった。
「石神、入ります!」
院長は机に座ったままだった。
入ってきた俺をずっと見ている。
「お前、五十嵐夫人の犬を預かったそうだな」
「はい」
「俺はそんなことまで頼んでねぇぞ」
「はい、俺の意志でそうしました」
「おい、最初に言ったけど、夫人はあと一ヶ月で死ぬんだぞ?」
「はい、分かっています」
「その後、犬はどうすんだよ」
「そのままうちで飼おうと思っていますが」
「ハァー!」
「お前がそのつもりならいいんだけどよ。でも、それは医者としての領分じゃねぇぞ?」
「はい、承知しています」
「だったらなんで」
「五十嵐さんと犬との絆を見ましたから」
「なに?」
「五十嵐さんはゴールドを自分の命よりも大事に思ってらっしゃいます」
「そうだろうけどよ」
「ゴールドも同じと見受けました」
「お前、何言ってんだよ」
「院長、俺はね、感動したんですよ。これから死ぬって時に、唯一考えてることが犬のことなんです。だったら何とかしたいと思ったんです」
院長は頭を抱えた。
「そうだったな。お前は山中の子どもたちを引き取った奴だもんな。今更犬の一匹くらい、何のこともねぇわな」
「はい」
「お前に相談した俺がバカだった。バカに任せたのがバカだったんだ」
「その通りです」
「お前なぁ」
「分かった。面倒をかける。五十嵐夫人の犬のことは宜しくたのむぞ」
「はい」
五十嵐さんは家に泊まらずに、病院へ帰った。
俺は家に戻り、ハマーで五十嵐さんの家に再び行き、五十嵐さんがまとめたゴールドの餌や用具を積み込んで、ゴールドを助手席に乗せた。
ゴールドは驚くほどに大人しい犬だった。
ゴールデンレトリバーがどういう性格なのかは知らないが、見知らぬ俺を怖がらず、時々俺を見ては窓の景色を眺めている。
一応リードは着けているが、それも嫌がることもない。
無事に俺の家に着き、玄関を開けた。
連絡しておいたので、亜紀ちゃんが迎えに出てくる。
「あ、本当に来たんですね!」
嬉しそうに犬を見て、近づこうとする。
ゴールドが唸った。
「あれ、不味かったですか」
「ああ、さっきまで大人しかったんだけどなぁ」
亜紀ちゃんは取り敢えず下がり、俺はリードを握ったまま中に入った。
ゴールドは俺と一緒に歩く。
どこにいれば良いのか分からず、俺は自分の部屋にゴールドを入れた。
「おい、ちょっとそこで待っててくれな」
ゴールドに声をかけ、部屋を出た。
子どもたちはリヴィングにいた。
亜紀ちゃんから言われたのか、犬を見には来なかった。
「犬は?」
ハーが尋ねる。
「ああ、俺の部屋にいる。慣れるまで、時間がかかるかもしれんな」
「そうなの、早く仲良くなりたいな」
ルーもハーも楽しみにしていた。
俺は車からゴールドのものを降ろし、また自分の部屋へ行った。
ずっと俺の部屋というわけにはいかない。
少し考え、二階の空き部屋をゴールドに与えることにした。
子どもたちと一緒に部屋を片付け、簡単に掃除もする。
俺はゴールドの荷物をその部屋に入れた。
俺が部屋に戻ると、ゴールドは俺のベッドで寝ていた。
俺が入ると首を持ち上げて俺を見る。
「ああ、待たせたな。お前の部屋を用意したから一緒に来てくれ」
俺がそう言うと、ゴールドは俺についてきた。
言葉が分かるのか?
ゴールドは案内された部屋に入った。
用意した布団を見つけると、そこに伏せる。
俺は水を入れ、餌を出して皿に盛った。
「お腹が空いてたら食べろ」
ゴールドはまず水を飲み、それから餌を食べ始める。
食べ終わると、俺に近づき、顔を舐めてきた。
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ。また後で来るからな」
ゴールドは俺がドアを閉めるまで、じっと見詰めていた。
夕飯を食べ、俺はゴールドの部屋へ行った。
眠っていたのだろうが、俺が部屋に入ると起き上がってきた。
俺の足に擦り寄る。
俺は頭を撫でてやり、床に座ると顔を舐め、じゃれついてきた。
「おい、ゴールド。この家には俺の他に子どもたちが四人いるんだ。みんなと仲良くしてくれるか?」
ゴールドは短く吼えた。
それを了承と受け取った。
俺はリードを着け、ゴールドを居間に連れて行く。
子どもたちは少し緊張し、しかし興味津々で俺とゴールドを見ている。
「皇紀!」
「はい!」
「お前ならちょっと齧られてもいいだろう。こっちに来い!」
「えぇー!」
皇紀が恐る恐るゴールドに近づく。
唸らない。
俺が頭に触れと言い、ゴールドに触る。
ゴールドは大人しく目をつぶっていた。
俺は亜紀ちゃんを呼び、同じようにさせる。
大丈夫だ。
双子を呼んだ。
「ゴールド!」
名前を呼ぶと、僅かに尻尾を揺らした。
二人で頭や背中をそっと撫でた。
ゴールドは気持ち良さそうに腹ばいになった。
ゴールドは、うちの一員となった。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。
ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」
俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。
何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。
わかることと言えばただひとつ。
それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。
毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。
そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。
これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる