192 / 2,808
あの日、あの時 Ⅲ アラスカ前編
しおりを挟む
「高校生の頃からの友だちで、アメリカに住んでいる奴がいるんだ」
照明はほとんど落ち、淡い光になって、俺たちはほとんど夜の闇の中にいた。
「俺は高校を卒業して、半年くらいアメリカで働いていたんだ。その時一緒にいた奴なんだよ」
「その後もそいつはアメリカに残り、石油の会社に勤めて、当時はニューヨークにいた。俺は夏休みとか、時間があるとニューヨークに行って、そいつに会っていたんだ」
「ずい分と親しい方だったんですね」
亜紀ちゃんが聞いた。
「そうだな。御堂とは違う、俺の大親友だったよな。俺が一番苦しい時に助けてくれ、一緒にいてくれた、というな」
「そうなんですか」
俺はそれ以上のことは語らない。
「聖という奴な。御堂と違って、俺と一緒にバカなことをやる奴だった。だからしょっちゅう喧嘩もしたよなぁ」
「タカさんと同じだったら、大変ですよね」
俺は皇紀の顔を掴んで握り締める。
痛がってるが、声は出ない。
「お前、ずい分と言うようになったなぁ」
他の三人が笑った。
「でも、まあそうだな。本当にバカなことをしてた。これから話すオーロラのこともそうだ。そういえば、お前ら、オーロラって何か知ってるか?」
「「「「はい!」」」」
「高緯度地方で見られる、美しい空の光だよな。実はまだなんでオーロラが出るのか、詳しいことはわかってねぇんだ」
「俺が大学の冬休みに聖のアパートメントにいた時、テレビでオーロラの特集をしてたんだよ。それを二人で見て、「見てぇなぁ」って言ったの。それで行こうってことになったんだ」
「ずい分と軽いノリですね」
「そうだな。まあ、それが後で話す喧嘩の原因にもなるんだけどな」
「アラスカに飛行機で行くのはいいんだけど、他にどうしたらいいのか分からない。取り敢えず、「寒いんだろうな」ということは思ったわけだ。ニューヨークもいい加減寒いけど、アラスカは多分もっと寒いだろう、と」
「本当にいい加減ですね」
「皇紀、あんまり調子に乗るなよ!」
俺は笑って言った。
「でも、皇紀の言う通りだった。俺たちが考えたのは、寒いだろうから、防寒着を用意しようってことだけだったからな。まあ、多少知恵を回して、今度だけだから買うのはもったいないって。じゃあレンタルしようってなぁ」
別荘の周辺には街灯もない。
広い山林は闇に溶けている。
今、この場所だけに微かな灯がある。
「丁度季節柄で、毛皮のレンタルのためのでかい倉庫があったんだ。そこへ行って毛皮を選んだ」
「どうして毛皮だったんですか?」
ルーが聞く。
「ああ、今ならもっと安いダウンコートとかアルミ蒸着の機能性の高いものもあるけどな。当時は毛皮が一番だったんだよ」
「それで、俺は出会ったんだ!」
「なにに?」
ハーが言う。
「オオカミの毛皮だよ! まあ、今だったら確実に買ってるな。当時は俺もまだ金がそんなにねぇからな。もったいないからレンタルって言ってたんだけど、それを見たら、もう欲しくてたまらなくなった」
「どんな毛皮だったんですか?」
亜紀ちゃんが聞く。
「シルバーの美しい毛並みに、薄っすらと黒い筋が何本かあってなぁ。それで肩にあったんだよ!」
「何がですか!」
「オオカミの頭だ!」
子どもたちがみんな笑った。
「あ、お前ら笑うけどな! 本当にカッチョ良かったんだよ、あれは!」
「それで店の人に聞いたの。気に入ったから売って欲しいって。そうしたら6000万円だって」
また子どもたちが笑う。
「まあ、流石になぁ。それでレンタルでってことで聞いたら、一週間で140万円だと!」
「えぇー!」
「そんなの、レンタルしたんですか?」
「お前! そんなのって言うな! 皇紀くんは明日の朝食はいらないそうです」
「えぇー!」
「他の毛皮は全然安いんだよ。シルバー・フォックスで一日1万円とかな。今思うと吹っかけられたのかもな」
「聖はそういう安い奴を借りてさ。それでチケットも手配してアラスカへってなったのな。もう翌日よ」
「ニューヨークじゃ、全然必要なかったんだけど、俺はもう嬉しくてさ。颯爽と毛皮を着て空港へ行ったのな。聖もそう。飛行機の中でも脱がねぇ。まあ、暑かったよなぁ」
爆笑。
「それでアラスカにはすぐに着いたんだ。ああ、二人とも手ぶらな。二、三日だろうからって、何も持ってねぇ」
「下着とかどうしたんですか?」
「そんなもの! 若い男は数日同じパンツでいいんだよ!」
「きったなー」
「げぇー!」
双子が非難する。
聞いた亜紀ちゃんも困った顔をしていた。
「まあ、そういうのもアレだ。ロマンティシズムよな」
「誤魔化してませんか?」
「皇紀くんは来週から斬のじじぃのところで鍛えてもらいます」
「勘弁してください!」
「それで空港に着いたんだ。俺が聖に「どこへ行くんだ?」って聞いたの。もの凄い寒いから、早く宿で何か喰いたかったんだよ。そうしたら「え?」って」
「ホテルとか取ってなかったんですか?」
「そーなんだよ、亜紀ちゃん! あいつ、チケットだけ手配して、ホテルを予約してねぇの! 信じられないよなぁ。外は吹雪なんだぜ?」
「どうしたんですか?」
「取り敢えずぶん殴った」
爆笑。
「空港のロビーで殴り合いの喧嘩よ。あいつも俺みたいに強かったからなぁ。そうしたら警備員が飛んできて、俺たちはすぐに肩を組んで笑った」
爆笑。
「とにかくホテルを探そうって、空港を出て。吹雪になってるから、通りには誰もいねぇ。辺りは薄暗いしな。日本みたいにあちこち交番があって道を聞けるわけでもない。土産物を売ってる店で、ようやくホテルの場所を教えてもらった」
あの日、俺たちは罵り合いながら、吹雪の中を進んだ。
三十分も歩くと、お互いに安否確認だけになった。
更に三時間ほど歩き、ようやく俺たちはホテルの前に立った。
照明はほとんど落ち、淡い光になって、俺たちはほとんど夜の闇の中にいた。
「俺は高校を卒業して、半年くらいアメリカで働いていたんだ。その時一緒にいた奴なんだよ」
「その後もそいつはアメリカに残り、石油の会社に勤めて、当時はニューヨークにいた。俺は夏休みとか、時間があるとニューヨークに行って、そいつに会っていたんだ」
「ずい分と親しい方だったんですね」
亜紀ちゃんが聞いた。
「そうだな。御堂とは違う、俺の大親友だったよな。俺が一番苦しい時に助けてくれ、一緒にいてくれた、というな」
「そうなんですか」
俺はそれ以上のことは語らない。
「聖という奴な。御堂と違って、俺と一緒にバカなことをやる奴だった。だからしょっちゅう喧嘩もしたよなぁ」
「タカさんと同じだったら、大変ですよね」
俺は皇紀の顔を掴んで握り締める。
痛がってるが、声は出ない。
「お前、ずい分と言うようになったなぁ」
他の三人が笑った。
「でも、まあそうだな。本当にバカなことをしてた。これから話すオーロラのこともそうだ。そういえば、お前ら、オーロラって何か知ってるか?」
「「「「はい!」」」」
「高緯度地方で見られる、美しい空の光だよな。実はまだなんでオーロラが出るのか、詳しいことはわかってねぇんだ」
「俺が大学の冬休みに聖のアパートメントにいた時、テレビでオーロラの特集をしてたんだよ。それを二人で見て、「見てぇなぁ」って言ったの。それで行こうってことになったんだ」
「ずい分と軽いノリですね」
「そうだな。まあ、それが後で話す喧嘩の原因にもなるんだけどな」
「アラスカに飛行機で行くのはいいんだけど、他にどうしたらいいのか分からない。取り敢えず、「寒いんだろうな」ということは思ったわけだ。ニューヨークもいい加減寒いけど、アラスカは多分もっと寒いだろう、と」
「本当にいい加減ですね」
「皇紀、あんまり調子に乗るなよ!」
俺は笑って言った。
「でも、皇紀の言う通りだった。俺たちが考えたのは、寒いだろうから、防寒着を用意しようってことだけだったからな。まあ、多少知恵を回して、今度だけだから買うのはもったいないって。じゃあレンタルしようってなぁ」
別荘の周辺には街灯もない。
広い山林は闇に溶けている。
今、この場所だけに微かな灯がある。
「丁度季節柄で、毛皮のレンタルのためのでかい倉庫があったんだ。そこへ行って毛皮を選んだ」
「どうして毛皮だったんですか?」
ルーが聞く。
「ああ、今ならもっと安いダウンコートとかアルミ蒸着の機能性の高いものもあるけどな。当時は毛皮が一番だったんだよ」
「それで、俺は出会ったんだ!」
「なにに?」
ハーが言う。
「オオカミの毛皮だよ! まあ、今だったら確実に買ってるな。当時は俺もまだ金がそんなにねぇからな。もったいないからレンタルって言ってたんだけど、それを見たら、もう欲しくてたまらなくなった」
「どんな毛皮だったんですか?」
亜紀ちゃんが聞く。
「シルバーの美しい毛並みに、薄っすらと黒い筋が何本かあってなぁ。それで肩にあったんだよ!」
「何がですか!」
「オオカミの頭だ!」
子どもたちがみんな笑った。
「あ、お前ら笑うけどな! 本当にカッチョ良かったんだよ、あれは!」
「それで店の人に聞いたの。気に入ったから売って欲しいって。そうしたら6000万円だって」
また子どもたちが笑う。
「まあ、流石になぁ。それでレンタルでってことで聞いたら、一週間で140万円だと!」
「えぇー!」
「そんなの、レンタルしたんですか?」
「お前! そんなのって言うな! 皇紀くんは明日の朝食はいらないそうです」
「えぇー!」
「他の毛皮は全然安いんだよ。シルバー・フォックスで一日1万円とかな。今思うと吹っかけられたのかもな」
「聖はそういう安い奴を借りてさ。それでチケットも手配してアラスカへってなったのな。もう翌日よ」
「ニューヨークじゃ、全然必要なかったんだけど、俺はもう嬉しくてさ。颯爽と毛皮を着て空港へ行ったのな。聖もそう。飛行機の中でも脱がねぇ。まあ、暑かったよなぁ」
爆笑。
「それでアラスカにはすぐに着いたんだ。ああ、二人とも手ぶらな。二、三日だろうからって、何も持ってねぇ」
「下着とかどうしたんですか?」
「そんなもの! 若い男は数日同じパンツでいいんだよ!」
「きったなー」
「げぇー!」
双子が非難する。
聞いた亜紀ちゃんも困った顔をしていた。
「まあ、そういうのもアレだ。ロマンティシズムよな」
「誤魔化してませんか?」
「皇紀くんは来週から斬のじじぃのところで鍛えてもらいます」
「勘弁してください!」
「それで空港に着いたんだ。俺が聖に「どこへ行くんだ?」って聞いたの。もの凄い寒いから、早く宿で何か喰いたかったんだよ。そうしたら「え?」って」
「ホテルとか取ってなかったんですか?」
「そーなんだよ、亜紀ちゃん! あいつ、チケットだけ手配して、ホテルを予約してねぇの! 信じられないよなぁ。外は吹雪なんだぜ?」
「どうしたんですか?」
「取り敢えずぶん殴った」
爆笑。
「空港のロビーで殴り合いの喧嘩よ。あいつも俺みたいに強かったからなぁ。そうしたら警備員が飛んできて、俺たちはすぐに肩を組んで笑った」
爆笑。
「とにかくホテルを探そうって、空港を出て。吹雪になってるから、通りには誰もいねぇ。辺りは薄暗いしな。日本みたいにあちこち交番があって道を聞けるわけでもない。土産物を売ってる店で、ようやくホテルの場所を教えてもらった」
あの日、俺たちは罵り合いながら、吹雪の中を進んだ。
三十分も歩くと、お互いに安否確認だけになった。
更に三時間ほど歩き、ようやく俺たちはホテルの前に立った。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる