上 下
191 / 2,806

別荘の日々 Ⅱ

しおりを挟む
 別荘に着くと、中山夫妻が待っていてくれた。

 「お久しぶりです」
 「みなさん、ようこそいらっしゃって下さいました」
 子どもたちも挨拶をする。
 俺は土産のマッサージ器を渡した。
 他にも和菓子を少し。
 お二人で食べられる量だ。


 「まあ、わざわざこんなものを」
 恐縮されていたが、やはり食材を冷蔵庫に入れてくれていたらしく、こちらも恐縮する。
 「じゃあ、鍵をお渡ししますね」
 俺は鍵を受け取り、お茶を飲んでもらった。
 
 「ごゆっくり楽しんでください」
 お二人は軽トラに乗り、帰られた。



 去年とは違い、5部屋にベッドを置き、リヴィングには大きな十二人掛けのテーブルを入れている。
 俺が注文し、様々な家具の搬入を中山夫妻に立ち会って入れてもらったのだ。
 これで俺、亜紀ちゃん、皇紀、双子、そして六花もそれぞれの部屋で寝られる。
 響子は俺か六花と一緒だ。

 子どもたちの勉強はリヴィングでやってもいいし、それぞれの部屋にデスクも入れてある。
 屋上の硝子の部屋にも、8人が座れるテーブルと椅子に入れ替えた。
 テーブルの搬入はちょっと苦労し、結果的にクレーンで屋上に上げ、硝子を一部外して設置した。

 各部屋はカーテンも新調し、壁紙も張り替えたりしている。
 他にもでかい冷蔵庫を入れ、タンスやら小物なども増えた。


 俺は一通り家の中を点検し、庭に出た。
 植栽も綺麗にされている。
 もちろん改装や搬入、植木屋の費用は俺が出しているが、立会いなどで本当に中山夫妻にはお世話になっている。

 子どもたちは綺麗になった部屋を喜び、家の中を探検していた。
 しかし、誰も屋上には上がらない。
 夜を楽しみにしているのだ。



 一段落したところで、リヴィングに集まり、みんなで休憩にする。
 俺と亜紀ちゃんはコーヒーを飲み、皇紀と双子はジュースを飲む。

 「タカさん、去年と大分雰囲気が違いますね」
 亜紀ちゃんが申し訳無さそうに言う。

 「ああ、いろいろ中山さんたちにお願いして改装したからな」
 「屋上も変わったんですか?」
 皇紀が聞いてきた。
 「夜を楽しみにしろよ」
 双子もワクワクしていた。



 子どもたちが勉強を始めたので、俺は買出しに行く。
 中山夫妻が結構な量を買い込んでくれていたが、まあ子どもたちの食欲は想定外だ。
 米や調味料、また寸胴などの調理器具などは積んできたが、肉を中心に買い足さなければならない。

 俺は四十分ほど走って、長野市内の大きなスーパーに入った。
 大量の食材を買い込んでいると、店員が声を掛けて来た。

 「宜しければお手伝いいたします」

 おれはありがたく礼を言い、一緒にカートを引いて回る。
 店員は途中で仲間を呼び、最終的に四人で回った。

 会計を済ますと、車まで運んでくれた。
 ハマーを見て驚くが、荷物を入れてもらい、俺は千円ずつ店員に渡した。
 遠慮されるが、また来たときに手伝ってもらいたいと言うと、受け取ってくれた。
 車を発進させると、四人はずっと腰を折ったままでいた。



 別荘で子どもたちを呼び、食材を運ばせる。

 「あの、こんなに必要ですか?」
 亜紀ちゃんが言う。

 「お前らなぁ。どうせ二日もすればまた買出しに行くことになるぞ」
 「すいません」
 「別に俺は楽しく喰ってもらえばいいんだよ」
 「はい」
 「まあ、みんなお前らのウンコになるんだけどな」
 「エヘヘヘ」

 冷蔵庫はたちまち一杯になる。



 夕飯の支度まで、俺は仮眠をとった。
 メニューは伝えてあるので、下ごしらえは子どもたちでやる。
 今日は豚のしょうが焼き(一人500グラム)と、ベーコンを入れた野菜スープ、スモークサーモンとブロッコリーのマリネを作る。


 俺が下に降りると、子どもたちがワイワイと支度をしている。

 みんなそれぞれのエプロンを付けている。
 俺と皇紀は黒の無地。
 双子はネコとウサギのプリント。
 これは院長夫妻からプレゼントされた。

 亜紀ちゃんは「弱肉強食」のプリント。
 これは六花の仲間のタケからもらった。
 俺が気に入ったのだ。
 亜紀ちゃんも気に入ってくれている。

 「なんか、気合が入りますね」
 「……」

 タケに伝えてもらうと、大変喜んでくれたそうだ。
 是非会いたいと言っている。
 まあ、面白いかもな。



 

 夕飯を並べたが、どう見てもしょうが焼きが多い。
 俺は300グラムでいいと言ったが、その倍以上盛ってある。
 
 「お前ら何グラム焼いた!」
 700グラムだと言いやがった。
 まあ、遠慮されるよりはいいけどな。


 楽しく夕飯を終え、そろそろ暗くなってきた。
 子どもたちがワクワクしている。
 俺は先に風呂に入れと言い、子どもたちはいつもの倍の早さで出てきた。



 俺はレモネードを大量に作り、氷を入れたでかいタンブラーを運ぶ。
 亜紀ちゃんにクッキーを、皇紀にはグラスを持たせ、屋上に上がった。

 去年は硝子の通路の天井にライトがあったが、今年は足元にスポットライトを並べている。
 通路でも天井の星が見れるようになった。
 中心の部屋も壁の照明を取り払い、四隅のスポットライトがテーブルを照らすようにした。
 外の闇が一段と見えるようになった。



 子どもたちはまた黙り込んだ。
 あれほどうるさい双子も呑まれている。

 俺はみんなにレモネードを配り、スポットライトの光量を下げ、アラスカの話を始めた。









 子どもたちの目が、星のように煌いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...