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旅行前夜

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 「「部長、申し訳ありませんでしたぁ!」」

 一江と大森の二人が俺の部屋に入って謝っている。
 昨日、一江のマンションを大破させ、俺は一応の溜飲は下げている。
 今回は物損はあるが、一江たちを大して殴ってはいない。
 説教は十分に昨夜している。


 「まあ、俺も散々バカなことをして、今の院長に迷惑をかけたしな。今回はこれで許してやる」
 「「はい!」」

 大森はとばっちりに近いが、一江のやってることを知ってはいたのだから同罪だ。

 「もちろん、火消しには尽力しろ」
 「「はい!」」
 
 「あの部長」 
 「なんだよ」
 
 「その、火消しにも関わるのですが、PCとスマホを買いに行ってもいいでしょうか?」」
 「ふざけんな! 仕事時間に何甘えたことを言ってんだぁ!」
 「でも、無ければ何もできないというか」
 「なんとかしろ!」
 テレパシー的なものを使え!

 結局俺は、二人に交代で買い物を許可した。
 一人1時間以内だ。
 そのかわり、休憩はナシにする。
 大森は戻し、俺は一江と話す。



 「おい、俺は明日からしばらく休むからな」
 「はい、ご予定の通り、ゆっくりしてきてください」
 「お前らの顔をしばらく見なくて済むと思うとホッとするぜ」
 「はい、申し訳ありませんでしたぁ!」
 自分も同じですって顔をしてやがる。

 「それじゃ、留守中は頼むぞ」
 「はい、お任せ下さい!」

 俺は部屋を出て行こうとする一江を、思いついて呼び止めた。



 「そういえばよ」
 「はい! なんでしょうか!」

 「お前、院長の面白写真も持ってるだろう?」
 あの、新橋の女装女子会の写真だ。
 俺は静子さんにも見せたかったので、一江に言って何枚か写真を撮らせた。

 「ああ、あれですかぁ」
 ヒッヒッヒと一江が笑う。
 こいつ、全然反省してねぇな。
 まあ、俺にそっくりだが。



 「あれはですねぇ、ちゃんと○○と××のサイトに挙げておきました」
 「そうか」
 「あ、そっちももちろん削除いたします!」
 
 「いや、そっちはいいや」
 ヒッヒッヒと二人で笑う。



 一江は役に立つ部下だった。





 俺は一週間の休みを取り、子どもたちをまた長野の別荘に連れて行く予定だった。
 昨年は急な両親の死のショックもあったが、今回は最初から子どもたちも楽しみにしている。



 俺は響子の部屋に寄った。

 「タカトラー!」
 また真っ先に響子が気付いた。

 昼食を終え、しばらくしたら眠るはずだ。
 既に多少眠いのか、響子は甘えてくる。

 俺はベッドに腰掛け、響子をひざに乗せて甘えさせてやる。
 響子は俺の顔にたくさんのキスをし、それでも足りずにペロペロと舐めてくる。
 歯磨き粉の爽やかな香りがした。



 「響子、明日から別荘に行くからな」
 「うん」

 「二日後に待ってるから」
 「うん、楽しみ」


 入間翁の会社の武井さんにまたお願いし、響子を運ぶ特別車の手配を頼んだ。
 今回は六花が運転する。

 俺は事前に特別車をレンタルし、六花の運転を確かめた。
 悪くはない。
 何年もハンドルを握っていないとのことだったが、問題なく転がす。
 散々走った経験のある人間の確実さだ。

 テスト的に、様々な状況を指示し、その対応を見る。
 また都内の面倒な道も走らせ、ハンドル捌きや注意方向も見てみた。
 十分に大丈夫だと確信し、当日を任せた。




 俺も響子の顔をペロペロしながら、六花に言う。

 「ちょっと大変だけど、響子のことを頼むな」
 「はい、お任せください」
 「まあ、別荘に来たらゆっくりしてくれよ」
 「はい、ありがとうございます」
 「ああ、ちゃんと礼はするからな」
 「ハゥッ!」
 六花は股間を押さえる。

 「そうじゃねぇ! 報酬を払うって言ってんだ!」
 「ご褒美! ハゥッ!」

 「……」
 もういいや。




 別荘の管理をお任せしている中山夫妻には、今回は長く使うので食料品などは自分で用意することを伝えた。
 まあ、それでもたくさん頂いてしまうのだろうが。
 俺はご夫婦への土産も買った。

 電動マッサージ機だ。


 偶然六花が俺の部屋で見かけ
 「あ、先生! それうちにありましたのに!」

 お前のためじゃねぇよ。
 知ってるよ!
 また使おうな!




 

 俺たちは前日に荷物の整理をした。
 もう子どもたちも旅行に慣れ、荷造りは短時間で終わる。
 勉強の道具も全部揃えている。

 俺たちは早めに寝た。
 
 俺はしばらく寝付けない。
 遠足前の子どものようだと、自分で苦笑する。







 子どもたちと響子の笑顔が楽しみだった。 
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