富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂家 Ⅲ

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 翌朝、俺は意外に早く起きた。
 昨晩は三時過ぎに寝たのだが、気持ちのいい目覚めで8時には起きた。
 身体は快調だ。
 やはり、この土地は何かがあるのかもしれない。
 まあ、非常に楽しい日だったので、神経がほぐれたということもあるだろう。


 着替えると亜紀ちゃんが呼びに来た。
 「朝食ができているそうです」
 「分かった。どうだ、よく眠れたか?」
 「はい」

 普段と違う布団に寝たのだが、大丈夫そうだ。
 まあ、いい布団を使っているしなぁ。

 俺は子どもたちに布団を干す手伝いをするように伝え、部屋の掃除も忘れるなと言った。



 朝食は、昨夜澪さんに量のことで相談されたが、子どもたちは二合ずつで大丈夫だと伝えておいた。

 焼鮭と漬物、山菜の煮物に、生卵だった。
 普段生卵を食べさせてなかったので、少し不安だったが、子どもたちは御堂家の方々の真似をして卵を割る。
 亜紀ちゃんが双子の卵を割ってやった。

 「タカさん、すいません! 少しこぼしてしまいました!」
 「おう!」

 俺は皇紀のこぼした卵をティッシュで拭い、布巾で綺麗にした。
 「すいません、何か壊したり汚したら、すぐに俺に言えと言ってあるので」
 「もうすっかりお父さんですね」
 澪さんが笑って言う。


 生卵は絶品だった。
 甘く濃厚で、この辺りで作られたという醤油との相性がまた良かった。
 俺が生卵を褒め称えると、菊子さんが嬉しそうに言った。

 「うちで飼っている鶏のものなんですよ」

 広い囲いの中に放たれているもので、餌もなるべく自然のものを与えているそうだ。
 その鶏の産んだ卵を、今朝集めたものらしい。

 子どもたちも、美味しいと絶賛していた。
 卵はたくさんあったが、夕べのように好きなように取れる配膳ではない。
 澪さんが早速学んでくれたようだ。
 お代わり制にし、申告に応じて卵を与える。

 「柳! お前いつもこんな美味しいものを食べていいな!」
 「え、東京ならもっと美味しいものが一杯あるでしょ?」
 「これ以上のものはねぇな」
 「ほんとにぃー?」

 うちの子どもたちがうなずいて、そーだそーだと言う。
 正巳さんたちが、嬉しそうな顔で見ていた。



 食事が終わり、子どもたちに後片付けをするように言った。
 菊子さんと澪さんは遠慮したが、教育のために、という俺の言葉に納得してくれた。

 
 顔を洗い、子どもたちは布団を干し、部屋の掃除をする。
 亜紀ちゃんと双子が一緒の部屋。
 皇紀は襖を隔てて隣。
 俺は一室を与えられた。
 子どもたちに、俺の部屋の掃除もやらせる。

 「お客様に申し訳ないわ」
 澪さんがまた遠慮するが、やらせて欲しいと頼んだ。
 「今日から食事の準備も手伝いますから」
 「そんなことまで」
 「いえ、普段のことですし、御堂家の食事を勉強させたいので」
 「そうですか、主人に相談してみます」

 俺が御堂に話を通し、子どもたちに手伝わせることになった。



 午前は御堂が庭を案内してくれた。
 何万坪もある敷地だ。
 庭石の見事な庭園。
 桜やその他の巨木。
 珍しいハーブや薬草の菜園や畜舎。
 周辺の畑も御堂家のものだ。
 もちろん、多くの手伝いの人手がある。

 昼食をいただき、俺はハマーを出して澪さん、柳と買い物に出た。




 大きなスーパーがあり、俺たちはそれぞれカートを引いて買い物をする。
 現在買ってあるものを澪さんに聞き、俺は追加で買う物を次々とカートに入れていく。
 肉のコーナーではパックではなく、店の人に頼んでブロックで買う。
 たちまちカートが一杯になり、一度澪さんと柳にレジに行ってもらった。
 俺は更に二台のカートを押し、食材を追加していく。
 今度は少しいい肉や食材を買い込んで、自分でレジで支払った。

 澪さんがそちらの代金もと言ったが、俺が固辞した。
 あまりにも、異常な買い物でもあったから。
 主人に叱られますと言う澪さんに、黙っててくださいと言う。
 米は大量にあるということで、買い足す必要はなかった。
 あの子どもたちの食欲を目にしてのことだから、本当に大丈夫なのだろう。



 俺はハマーに食材を積み込み、澪さんたちをお茶に誘った。
 車は冷房を入れておく。

 スーパーの一角に冷たい飲み物を出すコーナーがあり、そこに三人で入った。

 「でも、あの食欲ってスゴイですよねー」
 柳が目を輝かせて言った。
 「ああ、スゴイだろう。俺も最初は驚いたよ」
 数々の鍋やその他の戦場を話してやり、二人は声を上げて笑った。

 ついでに澪さんに、亜紀ちゃんとハーが先行、皇紀が差し、ハーがまくりであることを説明した。
 「先行とかまくりって何ですか?」
 俺は競輪や競艇の用語であることを話す。
 「面白いー」
 柳が喜んだ。


 澪さんもいることだし、俺は子どもたちがダントツの学年トップの成績であることを話した。
 「柳、お前はどうなんだ?」
 柳は臆することなく答える。
 「大丈夫。私もトップだし、全国模試もいつも上位だからね、お母さん?」
 「まあ、そこそこではあるようです」
 「東大も現役で楽勝ですよ!」
 まったく心配は無かった。
 まあ御堂の子どもだからなぁ。



 買い込んだ食材は、早速子どもたちに手伝わせてバーベキューの準備をする。
 菊子さんと澪さんは、うちの子どもたちの手際よさに驚いてくれた。
 俺が様子を見に行くと、褒めてくれる。
 
 「まあ、うちの奴隷連中ですから」
 「はい!」
 澪さんたちがギョッとするが、笑い始めた。
 俺は子どもたちをこき使って、適当に休んでくださいと言った。


 バーベキューはまた凄かったが、子どもたちは自分で焼く、ということにも興味を持った。
 食べる量は冗談じゃねぇが、鍋などのような凄まじさはない。
 みんなである程度は落ち着いて食べられた。

 「なんかつまらんな」
 正巳さんがそんなことを言った。
 楽しみにされていたのか。


 柳は亜紀ちゃんたちと双子と仲良くなり、今晩は一緒に寝るのだと言う。
 正利も皇紀と意気投合して、正利の部屋で寝るということになった。
 
 俺は柳に一緒に寝ようと誘われたが断る。

 「女くせぇ中じゃ寝れたもんじゃねぇ」
 「あ、そんなこと言ってぇ!」
 澪さんが笑った。

 「じゃあ、僕たちと是非!」
 正利にも誘われたが、一人で寝かせてくれと断った。


 まあ、子どもたちで楽しくやってくれ。



 片付け、洗い物を終え、子どもたちは屋敷に入り、また大人たちで飲む。
 連日深酒はできないと、正巳さんは早々に退散し、澪さんも片付けた後で部屋に戻った。
 俺と御堂になった。

 やはり夜になると涼しい。
 俺たちは心地よい風の中で話し込んだ。

 音楽が欲しいな、という話になり、俺は御堂からギターを借りた。
 弾き始めると、柳が戻ってきた。

 「なに? いいことやってる!」
 
 俺たちは苦笑し、柳の前で『禁じられた遊び』を弾いてやる。

 「はぁ、いいわ」

 俺と御堂で、学生時代に『禁じられた遊び』の試聴会を開いた話を教えてやった。

 「二人とも音楽好きだったわけだけど、有名なあの曲の演奏は誰が一番かって話になったんだよな」
 「うん、それでね、集められるCDやレコードを全部集めたんだよ」
 「ああ、百枚近かったよなぁ」
 「そうだよね」
 確か、6時間近くかかった。

 「あぁ、楽しそう」
 「「そうだろう!」」

 俺たちは自慢げに言う。

 「それでどうだったんですか?」
 「ああ、最後の方で、セゴビアとイェペスを聴いたんだ」
 「そうだったよなぁ」

 「「イェペスが神だった!」」

 柳がおかしそうに笑った。

 「いいなぁ、二人とも楽しそうで。私は石神さんがダイスキだけど、二人の間には入れませんね」
 「入られて堪るかよ!」
 御堂がまた笑っている。
 栞の話を昨日したばかりだ。

 柳もいるし、今日はここまでにしようということになった。







 俺は夜空を見上げて言った。
 「お前のうちの月は、本当に綺麗だよなぁ」
 「別にうちの月じゃないですよ?」
 「柳、お前はまだまだロマンティックが足りねぇな!」
 「えぇー!」
 御堂がまた声を出して笑った。 
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