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紅六花、宴。

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 「どうぞ」

 水ではなく、ビールが置かれた。
 ハイネケンだ。

 俺に注ごうとするので、運転があるからと断った。
 タケは、水を持ってきて、俺の前に置く。
 そして六花にハイネケンを注ぎ、自分もコップに注いだ。

 「おい、タケ!」
 「オス」
 「この方はあたしのマブだと言っただろう!」

 タケは椅子から飛びのき、また90度になる。

 「この店で一番いいジュースをお出ししろ!」
 「オス! 大変失礼しました!」

 ジンジャーエールが置かれた。
 「……」


 「総長!」
 「なんだ」
 「召集をかけてもよろしいでしょうか!」
 
 六花が、俺を見た。

 「石神先生、ちょっと昔のダチが集まりたいと言っているのですが、お邪魔でしょうか」

 俺に聞くということは、自分は会いたいのだろう。
 
 「俺のことは気にするなよ。久し振りに元気な顔を見せてやれと言ったじゃないか」
 「ありがとうございます」

 六花がうなずき、タケはスマホで連絡を始めた。

 「オス! 昔のようには行きませんが、50人くらいはすぐに飛んできます!」
 「悪いな、あたしのために」
 「いえ、とんでもありません。みんな総長にお会いしたいので!」

 三分もすると、最初の集団が来た。
 勢い良く5人の女性が店に入ってくる。

 「総長!」

 みんな泣いてる。
 俺はカウンターへ移動した。
 料理をしていた男性が何か作りながら言う。

 「もう少々お待ちください」
 
 まだ何も注文してねぇんだが。


 15分で50人近く集まり、30分で全員揃ったようだ。
 六花はもみくちゃにされ、全員が涙を流していた。


 タケの誘導で全員がテーブルにつく。
 80人くらいが集まって、ほぼ満員だ。
 
 タケがでかい声で言った。

 「「紅六花」、総長のご帰還だぁー!」

 全員が立ち、盛大な拍手が起こる。
 「紅六花」というのが、六花のチームの名前なのだろう。

 「では総長! 一言いただけますか!」

 六花は集まってくれた礼を言い、今もチームが誇りだと言った。
 そしてカウンターで焼きそばを食っていた俺を紹介した。

 「あの方こそ、あたしが惚れに惚れて、女にしてくださった、石神高虎様だぁー!」

 盛大な拍手と「ウォー!」という叫び。

 「あたしが身も心も全部捧げるお方だ! お前らもよろしく頼むぅ!」

 いや、ほっといてくれよ。
 それに紹介が、お前。
 俺は口に青海苔を付けたまま、手を振った。


 俺は紅六花の全員に囲まれた。

 「カッケェー!」
 「なんてガタイだよ、すげぇぞ!」
 「表のフェラーリって、あなた様のものですか!」
 「時計、光ってるぞ!」
 「服もゲソもチョーすげぇ!」


 「おい、六花! 何とかしろ!」

 「てめぇら! あたしの「命」に軽々しく近づくんじゃねぇ!」

 「「「「オス!」」」」

 数十人が一斉に叫ぶ。

 みんな、六花のところへ戻った。
 まあ、気のいい連中のようだが。



 料理を作っていた男性とタケ、それに何人かが手伝って、次々と大皿が運ばれる。
 小皿が配られ、宴会が始まった。

 六花の周囲は常に人垣があり、みんなが笑い、泣きしている。

 俺が焼きそばを食い終えると、数人が別な食い物を小皿に乗せて来る。
 ありがたいが、もう食いたくない。

 
 俺は暇なので、厨房にお邪魔した。
 
 「客人、困ります!」
 「いや、暇だから手伝わせてくれよ」
 「俺が殺されますから!」
 「まあまあ」

 俺は無理矢理一隅でチャーハンを作った。

 中華鍋を回し、盛大な炎が舞う。

 「おい、小鉄! 総長のマブ様に何させてんだぁ!」
 「ヤキだ、ヤキ!」

 女たちが殺到した。

 「悪い、俺が無理言って入ったんだ。六花を慕ってくれるみんなに喰って欲しくて」

 「「「「!」」」」

 「総長! 最高の旦那、おめでとうございます!」
 「「「「おめでとうございます!」」」」

 いや、お前らテンションおかしいだろう!



 俺のチャーハンは、神のごとく褒め称えられた。

 「ウメェ!」「なにこれ、死ぬぞ!」「マジクソ!」

 たちまち無くなり、最後の方は後輩たちだろうが、飯粒を分け合っていた。

 宴は続き、俺はついに抜け出す口実ができず、6時間を経てしまった。

 「総長! 今日はうちのホテルへお泊りください!」
 
 「石神先生、どうしましょうか」

 お前、今更どうしろって言うんだ!

 「まあ、こうなってはしょうがねぇ。ご好意に甘えるか」
 「じゃあ、よしこ、世話になる」

 「ありがとうございます!」




 俺たちは、よしこの車に先導され、ホテルに着いた。












 でかい、ラブホテルだった。
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