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全然、ダメじゃないです!

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 ゴールデンウィークも明け、日常が戻った。


 一江から先週の報告と今週の予定を聞いた。
 ゴールデンウィークは若い奴らを中心にローテーションで出勤している。
 中堅以上はその合間に出てくることもある。

 特段、異常はなかったようだ。
 まあ、何かあれば俺に連絡が来るのだが。





 一通り報告が終わり、一江が聞いてきた。

 「どころで部長、栞の実家ってどうでした?」

 「おう、それがよ、とんでもないことがあってな」

 俺は掻い摘んででかい屋敷とか強烈なじじぃの話をしてやる。
 基本的に俺の情報は、すべて一江が共有している。

 俺に万一のことがあっても、部の運営を任せるためだ。
 くだらないことでも、何でも話す。

 もちろん、超プライベートな人間関係などは別だ。





 「なんか凄い家ですねぇ」
 「だろ? 俺も殺す気でやりあったのは久しぶりだよ」

 「でも、相当裕福な家だと思うんですが」
 「そうだよな。とても合気道道場なんかじゃ賄えねぇ」

 「じゃあ、やっぱり、暗殺拳……」

 「だろうな。まあ、流石にその辺の話は出なかったけどな」
 「今でも、やってるんでしょうか」

 「それはないだろう、と言いたいけど、あのじじぃはもちろん、親父の雅さんも相当だったぞ」




 「ところで栞とはどうだったんですか?」

 「お前に話すことはねぇよ!」

 「チッ!」



 まあ、一江の情報収集能力で、栞なんかはすぐに話すんだろうなぁ。






 院長室に呼ばれた。

 「石神、こないだは世話になったな!」
 「いいえ、奥様は大丈夫ですか?」

 「ああ、あれからもずっと上機嫌でなぁ。お前に早く遊びに来て欲しいとよ」
 「そうですか、良かった。ちょっと強い体験だったんじゃないかと心配しました」

 「大丈夫だよ。俺も楽しかったしな」

 静子さんが楽しいなら、という人だ。




 「ところで、双子は元気か?」

 俺は亜紀ちゃんに聞いた「引っ張られる感覚」と、栞のじじぃが言っていた話を報告した。

 「うーん、分からんが、やはり普通の子どもじゃない、ということだなぁ」
 「そうですねぇ」

 「あのじじぃに聞けば、もっと分かるのかもしれませんが」
 「ダメなのか?」

 俺はじじぃとの仕合の話をした。

 「とにかく人間離れしたじじぃでした」
 「でもお前の方が強かったんだろ?」

 「いや、本気を出されたら分かりませんよ。まだまだ隠してるものがありましたし。本人もそう言ってました」
 
 「素直に教えてくれるとは思いませんね。多分、流派の奥義にも繋がっているような気がします」

 「お前、花岡さんと結婚しろよ」
 「え、何を言うんですか!」

 「だって、お前ら仲がいいだろ? 特に去年からなぁ。いいじゃないか、花岡さんならお前だって不満もないだろう」
 「結婚はまったく別ですよ」

 「お前も変わってるよなぁ。あんないい女はそうはいねぇぞ」
 今、暗殺拳の実家の凄まじさを話したよなぁ?

 「その話はここまでで。じゃあ仕事に戻ります」



 俺は院長室を退散した。






 そのまま、響子の病室へ向かう。
 一週間ぶりだから、あいつも寂しがってるだろう。


 「タカトラ!」
 廊下に響子がいた。

 「今、お部屋に伺ったんです。院長室だとのことで」
 六花が説明してくれた。

 響子が俺に抱きついてくるので、そのまま抱き上げた。
 響子にしては、結構な距離を歩いたものだ。

 そのまま病室へ向かうが、ずっと響子は俺の顔にキスをしている。

 ナースたちが、カワイイだの、またキスしてる、だのと言っているのが聞こえる。



 響子は昼食を食べ、しばらくして眠った。
 いつもの日課だ。



 俺は六花に、休み中の響子の様子を聞いた。

 「すごく寂しがってました。そのせいで少し熱を出しました」
 「そうか。食欲はどうだ?」

 「はい、少し食が細くなりましたが、石神先生が帰ったときに元気な姿をみせると言って、そこから戻りました」
 「ああ、お前が上手くやってくれたんだな。ありがとう」

 六花は、ゴールデンウィークの間、毎日出勤していたようだ。
 休日もあったが、すべて自主返上した。
 給料は出ない、サービス残業だ。






 報告を聞き終えると、六花が抱きついてくる。

 「私も寂しかったです」

 俺も軽く抱きしめてやるが、すぐに離す。
 病院内で不埒なことはできない。


 
 「今日、うちにいらっしゃいませんか?」
 「なに?」

 「明日は私、お休みをいただいているんです」
 俺は仕事だよ。

 「いろいろご相談したいこともあるので」
 ねぇだろう、そんなものは!

 「ダメでしょうか?」











 全然、ダメじゃないです。
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