上 下
130 / 2,840

花岡流暗殺拳 Ⅱ

しおりを挟む
 塀を回って分かってはいたが、非常に広い敷地だ。
 そして、中に入り、やはり巨大な日本家屋があった。

 二階建てで、恐らく300坪はある建物だ。
 50坪ほどの大きな道場もある。

 広大な庭は、1000坪ほどか。
 大きな庭石が点在し、竹林まであった。


 子どもたちは、初めて俺の家を見た以上に、圧倒されていた。
 と言うよりも、個人の家と認識できないのではないか。



  俺たちは道着姿の栞に案内されて、広い和室へ案内される。



 冷えた麦茶が出され、別に二リットルほどの容器が置かれた。

 「ちょっと着替えてくるから待っててね。あ、みんな和室は慣れてないよね。足は崩しててね」

 栞が出て行くと、早速、皇紀と双子があちこち見て回る。

 床の間には、白隠の書が掛かっている。
 見事な軸装だ。

 頼むから、破いたりするなよな。



 「稽古着の花岡さんも素敵ですね!」

 亜紀ちゃんはどんな栞も大好きなんだろう。



 俺は子どもたちが障子を破いたりしないか心配で仕方がない。
 昨日、丁度そんな話をしたばかりだ。




 「おい、集合! これから和室の使い方を教える!」

 子どもたちが集まり、整列した。
 双子がワクワクしてるのが分かる。


 「まず、戸の開き方だ。いいか、障子戸は、ここの小さなへこみに指をかけて開け閉めする。はい、じゃあルーがやってみて」

 「はい!」

 すぐに覚える。

 「障子は、このへこみ以外は絶対に触るな。高圧電流で死ぬからな!」

 みんな笑っている。



 「襖は、この丸い部分、さっき入ってきた引き戸も同じく、へこみの部分な! 高圧電流だからな!」

 「「「「はい!」」」」

 「それと、この畳な! 畳の一枚ずつに、綺麗な布が巻いてあるだろ? この部分は絶対に踏むな! 溶岩だからな!」

 俺は触って「アチッ!」とやってやる。

 またみんな笑った。




 「じゃあ、今日は特別に、日本の戸の本当にほんとの開け方をおしえてやろう!」

 「「「「はい、お願いします!」」」」

 「いいか、こういう引き戸は、本当は座って開け閉めするものなんだよ。特に目上の人間、例えば殿様なんかの部屋は絶対にそうしなければいけない。じゃあ、やってみせるからな!」

 俺は外の廊下に出て、しゃがんだ。

 「姫! 石神高虎、入らせていただきます!」




 「石神くん、なにやってんの?」

 栞が立っていた。
 少し髪が湿っているのは、シャワーを浴びてきたのだろう。

 「え、いや、子どもたちが和風の家は始めてだったんで」

 栞はクスクス笑って、立ったまま戸を開いた。

 「あ」

 「ああーあ、花岡さん、いろいろダイナシだよ!」
 
 ハーが不満げに言った。

 「あ、なんかゴメン」



 「今日は、遠いところをみんなありがとうね」

 俺は合図した。
 子どもたちは一列に並んで正座する。

 「「「「「花岡さん! 今日は一晩お世話になります!」」」」」

 さっき仕込んだ。

 「はい? ええと、こちらこそ宜しくお願いします!」

 栞も正座して言う。


 

 「これはこれは、礼儀正しいお子さんたちですね」

 入り口で、初老の男性がそう言った。

 「あ、こちら父です。花岡雅です」

 「どうも、よくいらして下さいました。ゆっくりして行って下さい」

 お母さんは今買い物に行っているそうだ。

 娘がお世話に、いえいえこちらこそ、などの挨拶が終わり、俺たちは部屋へ案内された。





 離れだった。
 屋根付きの渡り廊下で、母屋と繋がっている。

 「ごめんね、部屋は一杯あるんだけど、子どもはみんな一緒がいいかなって。皇紀くんは二階で、女の子三人は一階でいいかな?」
  「ああ、構いませんよ。じゃあ俺は二階で皇紀と一緒で」

 「ううん、石神くんは母屋に部屋を用意したから」
 「あ、そうなんですか?」



 俺は道場に近い、奥まった部屋へ案内された。

 「石神くん、疲れてる?」
 「いいえ、別にそんなことは」

 「ごめんね。折角来てもらったんだけど、案内するような場所はあんまり無いの」
 「構いませんよ。こんな大きなお屋敷に泊まれるだけでも、俺たちには得がたい経験ですから」

 栞は笑顔で喜んでくれた。

 「ああ、亜紀ちゃんが古武道を見たいって言ってたんですが」
 「えぇー、そんなの見たいの?」

 「じゃあ、体験してみる?」
 「え?」

 「道着はあるから」
 「あ、はい」



 俺たちは、着替えて道場に集まった。




 高校で柔道部だった俺は自分で着れたので、皇紀に着せてやった。
 亜紀ちゃんたちは、栞が手伝う。




 「いいかー、ウンコたち! お前らは人間じゃない! ウンコだ! これから栞軍曹にたっぷり鍛えてもらい、一人前のウンコになれー!」

 子どもたちは大笑いしている。

 栞も苦笑していた。



 栞は最初に演舞を見せてくれた。
 子どもたちは尊敬の目で栞の美しく力強い動きを追った。

 次に、正拳突き、中段蹴りの型を教えてくれ、みんなにやらせる。

 栞は指導が上手い。
 短時間の中で、それぞれが格段に上手くなった。

 特に、亜紀ちゃんは呑みこみが早く、ものの十分で美しい動きになった。
 栞も面白がって、他に幾つかの型を教えていく。



 「それじゃあ、組み手を見せましょうか」

 「「「「「はい!」」」」」

 「じゃあ、石神くん。私とお願いします」
 「え?」

 「私が合わせますから、好きなように攻撃してください」



 俺は戸惑いながらも、軽くパンチや蹴りを入れる。

 どれも栞は難なくかわし、捌く。
 すぐに栞の実力が分かってきて、本気の度合いを上げて行った。


 俺は面白くなって、様々な攻撃を栞に仕掛ける。
 どれも余裕でかわされる。


 すると栞も俺に攻撃を仕掛けてきた。
 結構鋭い。

 どんどん本気になっていく。
 
 「クッ!」

 徐々に栞に攻撃が当たるようになった。




 その時、栞の身体がブレた。
 俺は咄嗟に前蹴りを放ち、瞬間に圧力を感じ、左上をブロックした。

 栞の跳びまわし刈蹴りが左腕に重く当たった。

 「えぇー! これかわされたの?」

 栞が驚いていた。




 しばらく攻防が続き、最終的に俺の左ひざ蹴りと右ひじの打ちが同時に決まり、組み手を終わった。

 「まいったなー。私、結構強いつもりなんだけど」

 「本気を出されたら敵いませんでしたよ」

 子どもたちが拍手をしていた。

 

 はっきり言って、俺は驚いていた。

 合気道じゃねぇ。
 実戦の立ち技ばかりだったじゃねぇか。

 最後の方は立ちながらの関節技のようなもの、組み倒す技なんかも出てたけど、恐らく一撃必殺の体系だぞ、あれは。





 「「蝮」が初見で防がれたなんて」

 栞がポツリと呟いた。

 その時、道場の入り口に道着を着た老人が現われた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...