上 下
129 / 2,840

花岡流暗殺拳

しおりを挟む
 翌日、俺は荷物をハマーへ積み込み、出発する。

 皇紀が助手席に座り、他の三人は後ろのシートだ。



 「花岡さんの実家は群馬だから、3時間くらいかな」

 ゴールデンウィークも三日目なので、それほど道も混んでいないだろう。
 俺は6日、亜紀ちゃんたちは1週間の連休だった。


 最初は騒いでいた双子も、いつの間にか寝ている。

 群馬の高崎市内に栞の実家があるが、恐らく昼過ぎには着くだろう。
 どこかで食事をしてから、伺おうと思っている。



 「ずい分静かになったな」

 亜紀ちゃんに話しかける。

 「院長先生たちがいらして、はしゃいでましたからね」
 「よく喰ったしなぁ」

 皇紀も一緒に笑った。

 「ああ、皇紀。院長が「鍋の恩は忘れねぇ」とか言ってたぞ」
 「え、いや別に」

 「お鍋の恩ってなんですか?」

 「亜紀ちゃんがあまりにも激しく食い荒らすんで、皇紀が院長の前に肉を置いてくれたんだよ」
 「えぇー! そんなことありましたっけ?」

 人格変わるからなぁ。

 「そういえば、前に院長とお前らが鍋を凄まじく喰うって話をしたんだよ」

 「そんなぁー」

 「結局、医を極めた院長にも分からねぇ。謎。特に双子な」

 みんなで笑う。




 「でも、真面目な話。お前らって鍋とかになると異常に喰うんだよな」
 「そうでしょうか」

 俺はLD50の話をしてやった。


 「LD50というのは、「Lethal Dose」の略で、実験動物の50%が死ぬという毒性検査の指標なんだ。いろんな方法があるんだけど、例えば100匹のラットに砂糖だけ食べさせて、 一週間後に50匹が死んだ。そうしたら、食べた砂糖の量とラットの体重、そして時間なんかを統計的に処理するんだよな」

 分かってないかもしれないけど、話を進める。

 「そうやって、体重一キログラムあたりに、どれだけの砂糖が毒になるのか、という値が出てくる」

 「砂糖も毒なんですか?」
 亜紀ちゃんが聞いてきた。

 「もちろんそうだ。米だってLD50の値はあるんだぞ」
 「えぇー!」

 「まあ、俺が言いたいのは、LD50の実験では胃に一杯の量を入れることが多いんだ。で、双子が食う量って、その胃の限界を超えてるんだよ」

 「え?」

 「あの小さな身体で、二時間の間に6キロの肉を喰うなんて、ありえないんだよな。胃の容量を超えている。LD50の実験なら、ラットの胃が破裂しちゃうよ。でもルーもハーもなんともないだろ?」

 「言われてみれば」

 「「食べすぎ」というのは、大人だってあるよ。でもその場合、口から戻すか、下痢になって素早く体内から出そうとするのが身体の機構だ。俺も注意深く見ていたけど、まったくねぇ。どうしたことだ?」

 段々と亜紀ちゃんも皇紀も、その異常さが理解できたようだ。




 「まあ、楽しく喰って上機嫌だから、俺も放置してきたけどな」

 「そういえば、私も皇紀も、これまで普通だったと思うんです」
 「ほんとかよ」

 「ほんとですよ! でも、石神さんの家で美味しいものを食べるようになってから、自分が何か変わったようなことがあるんです。特にお鍋とかになると、引っ張られるような」

 俺は笑って聞いていたが、亜紀ちゃんは何か重大なことを話したように感じた。

 それにしても、俺のせいなのか?



 その後、皇紀の女がどうなったのかという話などをしているうちに、俺たちは高速を降り、高崎市内に着いた。

 予想以上に道が空いていたので、まだ11時だ。
 あまり食事する店もないだろうと、駅前に行く。
 幸い、駅の近くに美味しそうな洋食屋があり、そこで昼食をとった。
 一人一人前だ。
 普通なんだよなぁ。



 俺たちは30分ほどで店を出て、亜紀ちゃんに栞へ電話をさせた。
 ナビに道順は出ているので、もうすぐだと伝えてもらう。

 




 人知れず長い年月隠されてきた暗殺拳の家系。

 どんな家かと思ったが、でかい道場だった。

 巨大な板張りの正門があり、4メートルはある高い塀。


 「でっかい……」

 双子が圧倒されていた。

 すると、正門の横の小さな戸が開いて、子どもたちがゾロゾロと出てきた。20人ほどもいただろうか。
 その最後に栞が出てきた。
 道着を着ていた。


 「あ、石神くん!」

 「どうも、こんにちは」


 「しおりせんせー、ありがとうございましたぁー!」
 
 子どもたちが一斉に挨拶し、走って行った。

 「しおりせんせー、こんにちは」

 「やだ、もう!」


 車の入り口を教えてもらい、俺は裏手に回る。









 正門の看板には

 『現代合気道 花岡流   初心者・子供大歓迎!」

 と書かれていた。 



 暗殺拳は?
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...