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双子の花壇
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院長室に呼ばれた。
でも今日は大丈夫だ。
用件は分かっている。
「おう、石神! 女房の誕生日にスカーフをありがとうな!」
「いえ、いつもお世話になってますし、ここのとこご無沙汰してて申し訳ありません」
「シャネルだってなぁ。俺はよく分からんが、女房が世界中のシャネルの店がデザインされてて、綺麗な上に面白いってさ。まあ、こういう分野ではお前に敵わんなぁ」
「そんなことは」
アハハハ、と俺たちは笑う。
「ところで院長、ご相談があるのですが」
「なんだよ、なんでも言えよ。水臭いじゃないか」
単純と言うか、決して他人の恩義は忘れないと言うか。
蓼科文学という男は本当に素晴らしい。
「私的なお願いで申し訳ないのですが、実はうちの双子のために院長のお力をお借りしたく」
「ん、俺の力?」
「はい。今度双子が花壇を作るので、ほら、あの院長の不思議なお力で、是非種が良く育つように、と」
「ふざけんな! 俺の力は子どもの遊びに使うもんじゃねぇ!」
院長は声を荒げるが、大抵の奴はここで引き下がる。
「なんでも言えと言うから話したのに」
「お前なぁ!」
「じゃあ、いいですよ。奥様に来てもらいますから」
「お前! 汚いぞ!」
「だって、奥様からずっとうちの子どもたちに会いたいって言われてますし」
「……」
院長は類人猿だが、人間以上に妻を愛する心を持っている。
そして、その妻に嫌われることを、結婚以来ずっと恐れてもいる。
「ああ、分かった! 行ってやるよ!」
「じゃあ、次の日曜日に。午後にお迎えに行きます!」
「女房は連れて行かないからな! 俺の能力は秘密なんだから」
「分かってます。でも今度本当に一緒に来てくださいね」
「……」
こいつ、一緒のお出かけを想像してるな。
俺は一礼して院長室を出た。
「あら、今日は可愛らしいお子さんと一緒なんですね」
いつも仏壇に供える花を買っている花屋で、奥さんが満面の笑みで迎えてくれた。
「「こんにちはー」」
ルーとハーが揃って挨拶をする。
「まあ、本当に可愛らしいこと! 石神先生に、こんなお子さんがいらしたんですね」」
「ああ、親友の子どもを引き取ったんですよ」
俺はなるべく子どもたちのことを隠さない方針でいる。
奥さんは驚いたようだが、すぐに双子の頭を撫でてくれた。
「そうなんですか。でも石神先生のとこなら大丈夫よねぇ」
双子は照れて、うなづいた後で俺の後ろに回った。
「今日はいつもの花と、こいつらに花壇で育てられる種を教えてもらおうと思って」
「え、あなたたちが育てるの?」
「うん」
「がんばるの!」
奥さんは嬉しそうに笑い、店の奥から二種類の種を持って来てくれた。
「これなんか、いいんじゃないでしょうか。「ガウラ」と「クレメオ」というの。クレメオは綺麗なお花で、ガウラは可愛らしいお花よ。どちらも育てやすいから」
俺は子どもたちと礼を言い、それをいただいた。
「もしかして、髪の長い綺麗な女の子が去年からよく仏壇のお花を買いにくるけど、もしかしてお姉さん?」
「ああ、多分この子たちの姉で、亜紀ちゃんだと思いますよ。私がよく買い物を頼んでいるから」
「あらあら、やっぱり。じゃあ、この子たちも、大きくなったら綺麗な女の子になるのね」
双子はまた照れた。
家じゃ暴れまくるのに、子どもというのは不思議だ。
花壇は便利屋に作らせた。
「これってお洒落でしょ?」
俺にレンガを斜めに突き刺して枠を作った花壇を見せる。
俺は便利屋の後ろ頭をはたいた。
「こんな尖った花壇じゃ、子どもたちが怪我するだろう!」
やり直して、普通の花壇が出来た。
土を掘り返し、腐葉土や肥料を混ぜる。
「ミミズも持ってきましたが」
そう言って土嚢袋から、何匹か手掴みで取り出す。
「ヒィッ!」
亜紀ちゃんが飛びのく。
「却下」
便利屋は袋にしまい、帰って行った。
「みみぃずぅーのみぃーのじぃはぁー♪」
ヘンな歌を歌っていた。
よく分からん奴だ。
亜紀ちゃんはずっと俺の腕を掴んでいた。
俺はダメ押しで、栞に頼んだ。
「ということで、院長が来ることになったんだよ」
「なんのことだかよく分かんない」
あ、そうか。栞は院長の能力を知らねぇんだ。
「あの人、ちょっと変わったまじないができるんだよ。郷里のものらしんだけどな。双子の花壇がよく育つようにって、やって欲しいんだ」
「そういうことなの。石神くんにしては、変わったお願いをするにね」
「うん、そうなんだけどな。農業なんかで結構効果があるらしんだ。やっぱり初めての花壇で上手く行って欲しいじゃない」
「分かった。それで私はどうしたらいいの?」
「栞も来るって、院長に伝えておきたいんだ」
「なんで?」
院長は栞に弱い。
本人はあまり気付いていないが、栞の言うことは何故か従うし、通す。
俺がいろいろな提案をしていく中で、栞が同席して通らなかったことはねぇ。
相当信頼が厚いのと、ちょっと惚れてる。
自覚はないのだが。
これですべての手は打った。
いよいよ当日。
俺は院長を迎えに行き、家に連れて来た。
でも今日は大丈夫だ。
用件は分かっている。
「おう、石神! 女房の誕生日にスカーフをありがとうな!」
「いえ、いつもお世話になってますし、ここのとこご無沙汰してて申し訳ありません」
「シャネルだってなぁ。俺はよく分からんが、女房が世界中のシャネルの店がデザインされてて、綺麗な上に面白いってさ。まあ、こういう分野ではお前に敵わんなぁ」
「そんなことは」
アハハハ、と俺たちは笑う。
「ところで院長、ご相談があるのですが」
「なんだよ、なんでも言えよ。水臭いじゃないか」
単純と言うか、決して他人の恩義は忘れないと言うか。
蓼科文学という男は本当に素晴らしい。
「私的なお願いで申し訳ないのですが、実はうちの双子のために院長のお力をお借りしたく」
「ん、俺の力?」
「はい。今度双子が花壇を作るので、ほら、あの院長の不思議なお力で、是非種が良く育つように、と」
「ふざけんな! 俺の力は子どもの遊びに使うもんじゃねぇ!」
院長は声を荒げるが、大抵の奴はここで引き下がる。
「なんでも言えと言うから話したのに」
「お前なぁ!」
「じゃあ、いいですよ。奥様に来てもらいますから」
「お前! 汚いぞ!」
「だって、奥様からずっとうちの子どもたちに会いたいって言われてますし」
「……」
院長は類人猿だが、人間以上に妻を愛する心を持っている。
そして、その妻に嫌われることを、結婚以来ずっと恐れてもいる。
「ああ、分かった! 行ってやるよ!」
「じゃあ、次の日曜日に。午後にお迎えに行きます!」
「女房は連れて行かないからな! 俺の能力は秘密なんだから」
「分かってます。でも今度本当に一緒に来てくださいね」
「……」
こいつ、一緒のお出かけを想像してるな。
俺は一礼して院長室を出た。
「あら、今日は可愛らしいお子さんと一緒なんですね」
いつも仏壇に供える花を買っている花屋で、奥さんが満面の笑みで迎えてくれた。
「「こんにちはー」」
ルーとハーが揃って挨拶をする。
「まあ、本当に可愛らしいこと! 石神先生に、こんなお子さんがいらしたんですね」」
「ああ、親友の子どもを引き取ったんですよ」
俺はなるべく子どもたちのことを隠さない方針でいる。
奥さんは驚いたようだが、すぐに双子の頭を撫でてくれた。
「そうなんですか。でも石神先生のとこなら大丈夫よねぇ」
双子は照れて、うなづいた後で俺の後ろに回った。
「今日はいつもの花と、こいつらに花壇で育てられる種を教えてもらおうと思って」
「え、あなたたちが育てるの?」
「うん」
「がんばるの!」
奥さんは嬉しそうに笑い、店の奥から二種類の種を持って来てくれた。
「これなんか、いいんじゃないでしょうか。「ガウラ」と「クレメオ」というの。クレメオは綺麗なお花で、ガウラは可愛らしいお花よ。どちらも育てやすいから」
俺は子どもたちと礼を言い、それをいただいた。
「もしかして、髪の長い綺麗な女の子が去年からよく仏壇のお花を買いにくるけど、もしかしてお姉さん?」
「ああ、多分この子たちの姉で、亜紀ちゃんだと思いますよ。私がよく買い物を頼んでいるから」
「あらあら、やっぱり。じゃあ、この子たちも、大きくなったら綺麗な女の子になるのね」
双子はまた照れた。
家じゃ暴れまくるのに、子どもというのは不思議だ。
花壇は便利屋に作らせた。
「これってお洒落でしょ?」
俺にレンガを斜めに突き刺して枠を作った花壇を見せる。
俺は便利屋の後ろ頭をはたいた。
「こんな尖った花壇じゃ、子どもたちが怪我するだろう!」
やり直して、普通の花壇が出来た。
土を掘り返し、腐葉土や肥料を混ぜる。
「ミミズも持ってきましたが」
そう言って土嚢袋から、何匹か手掴みで取り出す。
「ヒィッ!」
亜紀ちゃんが飛びのく。
「却下」
便利屋は袋にしまい、帰って行った。
「みみぃずぅーのみぃーのじぃはぁー♪」
ヘンな歌を歌っていた。
よく分からん奴だ。
亜紀ちゃんはずっと俺の腕を掴んでいた。
俺はダメ押しで、栞に頼んだ。
「ということで、院長が来ることになったんだよ」
「なんのことだかよく分かんない」
あ、そうか。栞は院長の能力を知らねぇんだ。
「あの人、ちょっと変わったまじないができるんだよ。郷里のものらしんだけどな。双子の花壇がよく育つようにって、やって欲しいんだ」
「そういうことなの。石神くんにしては、変わったお願いをするにね」
「うん、そうなんだけどな。農業なんかで結構効果があるらしんだ。やっぱり初めての花壇で上手く行って欲しいじゃない」
「分かった。それで私はどうしたらいいの?」
「栞も来るって、院長に伝えておきたいんだ」
「なんで?」
院長は栞に弱い。
本人はあまり気付いていないが、栞の言うことは何故か従うし、通す。
俺がいろいろな提案をしていく中で、栞が同席して通らなかったことはねぇ。
相当信頼が厚いのと、ちょっと惚れてる。
自覚はないのだが。
これですべての手は打った。
いよいよ当日。
俺は院長を迎えに行き、家に連れて来た。
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