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フェラーリ・ダンディ

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 月曜日、俺は一江から先週の報告と今週の予定を聞いていた。

 「大体以上です」
 「おう!」

 「ところで部長」
 「あんだよ」



 「これって、部長じゃないですか?」
 
 一江はスマホの画面を出し、大手投稿サイトの記事を俺に見せた。
 土曜の深夜に、新宿の○○ビルのベンチ。小学生の男の子にニーチェを語るダンディな紳士。フェラーリに乗って去る。
 話の内容と、そうした記述が赤いフェラーリの写真と共に掲載されていた。

 「なんだ、こりゃ」

 「ものすごい、拡散されてますよ」

 「……」


 「子どもも美少年って書いてあるから、皇紀くんですよね。ああ、ネットじゃ都市伝説だとか言われてます」

 知らんがな。






 栞から内線がきた。

 「ねえ、石神くん、陽子から聞いたよ」
 「え」

 「私も見たけど、あれって石神くんよね」
 「そうとも限らないんじゃないですか」

 「えぇー! フェラーリに乗って子どもにニーチェの話をするなんて、日本で石神くんしかいないじゃない」
 「……」

 「ねぇ、今度私もドライブに連れてって」

 栞は小声で言った。

 「分かりましたよ」
 「約束したからね!」

 「はい」





 一江ぇ、お前拡散すんじゃねぇ!


 

 俺は仕事が一段落し、響子の部屋に行った。

 響子は六花と一緒に、アイパッドを見ていた。

 「あ、タカトラ!」

 ベッドの上から小さな手を振ってくる。
 カワイイ。

 「なんだ、何を見てたんだ?」
 「フェラーリ・ダンディ」

 「……」

 「石神先生、今度私も是非」
 「えぇー! 私が先だよ!」

 「分かったよ、じゃあ今度一緒に連れて行こう」

 「「別々がいい(です)!」」

 

 響子はしばらくは無理だろう。

 俺は車椅子に響子を乗せ、10分ほど外を散歩した。

 響子は上機嫌で甲斐バンドの曲を歌っていた。
 渋すぎるだろう。

 美少女の外国人が旧い歌を歌っているので、注目を浴びた。
 スマホで撮影する奴らまでいる。




 数日、ナースたちからドライブに連れて行って欲しいと言われ、すべて断った。
 その中の一人から、テレビでネットの話題を紹介するニュースのコーナーでも取り上げられたと聞いた。




 

 「タカさん、なんか疲れてませんか?」

 夕食の後にコーヒーを飲んでいると、亜紀ちゃんに言われた。

 「ああ、ちょっとなぁ」
 「それと、皇紀を蹴る回数が、いつもより多いような」

 「ああ、なんとなくな」

 

 「あの、すいません。皇紀とのドライブで、あんなことになっちゃったんですよね」

 亜紀ちゃんまで知ってるのか。

 「一江さんに聞きました。本当にすいません」

 俺は笑って亜紀ちゃんの頭を撫でる。

 「亜紀ちゃんが気にすることじゃないよ。俺が悪いんだ」
 「でも」

 皇紀が何か飲み物を探しに来た。
 俺はその尻を蹴る。
 いてぇ、と言う。


 「俺はまったく気にしてないよ」

 「……」

  





 俺は便利屋に電話した。







 土曜日の夜、便利屋は俺のフェラーリに乗って、新宿へ向かった。

 深夜に帰ってきた便利屋から、キーを受け取る。

 「どうだった?」

 「へぇ、なんか人が集まってて、自分が車を降りてベンチに座ると、写真を一杯とられました」
 「そうか」

 「でも、そのうち、こそこそなんか話しだして、みんないなくなりました」
 「そうか」






 ネットの評価の数は打ち止めとなり、沈静化した。

 俺は一江に手術記録の整理と、データの多変量解析の仕事を山ほど与えた。
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