84 / 2,840
イナゴの群れは、すべてを
しおりを挟む
朝の8時に、一江たちが来た。
朝食に雑煮を作るためだ。
響子はまだ寝ているが、うちの子どもたちはみんな起きている。
峰岸を中心に、雑煮が作られている。
事前に下ごしらえが済んでいるし、汁も用意してある。
だから、餅と汁の味の調整だけでいい。
ちなみに、うちの鍋は寸胴だ。河童橋まで買い物に行った。
「大森先生、お餅はどうですか?」
「ああ、用意できたよ!」
俺はずっと準備を見ていた子どもたちをテーブルに着かせた。
一江たちが配膳する。
亜紀ちゃんが申し訳なさそうに見ている。
今日くらいは子どもらしくな。
大人に甘えてくれ。
「熱いから気をつけろよ」
「「「「はーい!」」」」
「それでは、新年あけまして、おめでとうございます!」
みんな、それに倣って言う。
「いただきます!」
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」
峰岸の出汁の取り方、料理全般は本当に素晴らしい。
俺は正月料理全般が好きではないのだが、この雑煮は絶品だ。
ちなみに餅が嫌いなので、俺は餅なしで食べている。
みんなでワイワイと食べているのを眺め、俺は響子の様子を見に行った。
ついて来ようとする六花を手で制して、みんなと食べさせる。
部屋のドアを開けると、響子は目を覚ました。
「グモーニン」
寝ぼけているようだ。ぐっすり眠った証拠だからそれで良い。
近づく俺に、響子が両手を伸ばしてくる。
俺はベッドに乗って、優しく抱きしめてやる。
「響子、新しい年になったぞ」
「うん」
迎えられなかったはずの新年。
俺は響子の鼻をペロペロしてやる。
「いやぁー」
響子が笑って嫌がる。
「あ、なんかいい匂いがする」
「ああ、いまみんなで雑煮を食べているんだ」
「ゾウニー?」
「食べられるようなら、後でな。先に顔を洗おう」
「うん」
俺は響子を洗面所に連れて行った。
3階の洗面所は6畳ほどの空間だ。
SLAVIAの特注の洗面台が2台並んでいる。
壁は黒い大理石に、50ミリほどの青の御影石の帯が、等間隔に並んでいる。
ちなみに、俺の寝室の壁はアズールバイアだ。
他の寝室などの多くは壁紙だが。
リヴィングではまだみんなが食べていた。
響子の姿を見て、六花が近づいてくる。
「あけましておめでとう、響子」
「アケマ?」
「日本の新年の挨拶だ。「A Happy New Year」という意味だよ」
響子にも餅なしの雑煮を用意する。
日本の出汁にも慣れてきて、響子は美味しいと言った。
一江たちは片づけを子どもたちに任せ、おせち料理を出していく。
亜紀ちゃんはそれを見て、何か感慨深げだ。
他の子どもたちはどうかと見ると、意外にあっさりしている。
あれ?
まあ、無理もないのかもしれない。
山中の奥さんも、正月の雰囲気つくりのつもりだったのだろう。
酒でも飲まないかぎり、子どもがあまり食べるものでもないのかもしれない。
しかし、最初に双子が箸を入れた瞬間。
「!」
「!」
味を知りやがった。
普通のおせち料理であれば、違ったのかもしれない。
さすがは大料亭の娘・峰岸様監修だ。一味も二味も違う。
子どもたちは以心伝心で悟ったようだ。
争奪戦が始まった。
「まあ、慌てないで食べろよ。量は峰岸さんたちが一杯作ってくれたからな!」
「はい、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
みんなで礼を言う。
俺は余裕があった。
この領土は奪われても、金山は俺の手元にある。
俺は一江に目配せし、一階の応接室に準備するよう合図した。
子どもたちは夢中で食べていて、こちらの動きに気付いていない。
子どもたちに、喧嘩しないで食べるよう伝え、大人たちと響子は一階へ。
俺が買った五段の重箱には、金に糸目をつけずに買った高級食材のおせちが入っている。
子ども用のエビは車海老だが、大人用は伊勢海老だ。アワビもグレードが違うし、牛肉もランクが違う。
すべて桁違いの値段のものをふんだんに使った、スペシャルのものなのだ。
亜紀ちゃんも知らない。
冷酒を準備し、大人たちは舌鼓を打つ。
その時、ハーが応接室に入ってきた。
こいつはたまに、霊感のようなものが働く時がある。
一瞬で事態を悟ったハーは、壁の電話をとり、一斉ボタンを押した。
慌てて一江と大森が押さえ込むが、ぶら下がった受話器に、ハーが叫ぶ。
「緊急集合! 一階応接室! 緊急集合!」
『空を覆うほどの蝗の群れは、雹害をまぬがれた作物を食べつくし、緑のものはエジプトから消えた』
スペシャルおせちは、10分で消えた。
朝食に雑煮を作るためだ。
響子はまだ寝ているが、うちの子どもたちはみんな起きている。
峰岸を中心に、雑煮が作られている。
事前に下ごしらえが済んでいるし、汁も用意してある。
だから、餅と汁の味の調整だけでいい。
ちなみに、うちの鍋は寸胴だ。河童橋まで買い物に行った。
「大森先生、お餅はどうですか?」
「ああ、用意できたよ!」
俺はずっと準備を見ていた子どもたちをテーブルに着かせた。
一江たちが配膳する。
亜紀ちゃんが申し訳なさそうに見ている。
今日くらいは子どもらしくな。
大人に甘えてくれ。
「熱いから気をつけろよ」
「「「「はーい!」」」」
「それでは、新年あけまして、おめでとうございます!」
みんな、それに倣って言う。
「いただきます!」
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」
峰岸の出汁の取り方、料理全般は本当に素晴らしい。
俺は正月料理全般が好きではないのだが、この雑煮は絶品だ。
ちなみに餅が嫌いなので、俺は餅なしで食べている。
みんなでワイワイと食べているのを眺め、俺は響子の様子を見に行った。
ついて来ようとする六花を手で制して、みんなと食べさせる。
部屋のドアを開けると、響子は目を覚ました。
「グモーニン」
寝ぼけているようだ。ぐっすり眠った証拠だからそれで良い。
近づく俺に、響子が両手を伸ばしてくる。
俺はベッドに乗って、優しく抱きしめてやる。
「響子、新しい年になったぞ」
「うん」
迎えられなかったはずの新年。
俺は響子の鼻をペロペロしてやる。
「いやぁー」
響子が笑って嫌がる。
「あ、なんかいい匂いがする」
「ああ、いまみんなで雑煮を食べているんだ」
「ゾウニー?」
「食べられるようなら、後でな。先に顔を洗おう」
「うん」
俺は響子を洗面所に連れて行った。
3階の洗面所は6畳ほどの空間だ。
SLAVIAの特注の洗面台が2台並んでいる。
壁は黒い大理石に、50ミリほどの青の御影石の帯が、等間隔に並んでいる。
ちなみに、俺の寝室の壁はアズールバイアだ。
他の寝室などの多くは壁紙だが。
リヴィングではまだみんなが食べていた。
響子の姿を見て、六花が近づいてくる。
「あけましておめでとう、響子」
「アケマ?」
「日本の新年の挨拶だ。「A Happy New Year」という意味だよ」
響子にも餅なしの雑煮を用意する。
日本の出汁にも慣れてきて、響子は美味しいと言った。
一江たちは片づけを子どもたちに任せ、おせち料理を出していく。
亜紀ちゃんはそれを見て、何か感慨深げだ。
他の子どもたちはどうかと見ると、意外にあっさりしている。
あれ?
まあ、無理もないのかもしれない。
山中の奥さんも、正月の雰囲気つくりのつもりだったのだろう。
酒でも飲まないかぎり、子どもがあまり食べるものでもないのかもしれない。
しかし、最初に双子が箸を入れた瞬間。
「!」
「!」
味を知りやがった。
普通のおせち料理であれば、違ったのかもしれない。
さすがは大料亭の娘・峰岸様監修だ。一味も二味も違う。
子どもたちは以心伝心で悟ったようだ。
争奪戦が始まった。
「まあ、慌てないで食べろよ。量は峰岸さんたちが一杯作ってくれたからな!」
「はい、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
みんなで礼を言う。
俺は余裕があった。
この領土は奪われても、金山は俺の手元にある。
俺は一江に目配せし、一階の応接室に準備するよう合図した。
子どもたちは夢中で食べていて、こちらの動きに気付いていない。
子どもたちに、喧嘩しないで食べるよう伝え、大人たちと響子は一階へ。
俺が買った五段の重箱には、金に糸目をつけずに買った高級食材のおせちが入っている。
子ども用のエビは車海老だが、大人用は伊勢海老だ。アワビもグレードが違うし、牛肉もランクが違う。
すべて桁違いの値段のものをふんだんに使った、スペシャルのものなのだ。
亜紀ちゃんも知らない。
冷酒を準備し、大人たちは舌鼓を打つ。
その時、ハーが応接室に入ってきた。
こいつはたまに、霊感のようなものが働く時がある。
一瞬で事態を悟ったハーは、壁の電話をとり、一斉ボタンを押した。
慌てて一江と大森が押さえ込むが、ぶら下がった受話器に、ハーが叫ぶ。
「緊急集合! 一階応接室! 緊急集合!」
『空を覆うほどの蝗の群れは、雹害をまぬがれた作物を食べつくし、緑のものはエジプトから消えた』
スペシャルおせちは、10分で消えた。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる